口コミ・棚から・クレーマー
「ファイアーアロー!」
覚えている魔法の種類は多くなく初級魔法と呼ばれるものだけしかコピーできていないのは少年の物語の力がそのものが弱かったからなのか、自分の実力不足なのか
「いきなり攻撃するの!?いいのそれ!」
妙なクレーまがー後ろから叫んでいるのを気にしている余裕はなかった。なぜなら目の前の口裂け女はその炎で出来た矢をどこからか取り出した包丁で切り裂いた。そのすさまじい威力のそれは炎の矢なんて消し飛ばしてしまう。
「えっ。いや、もっと強いのないの?やばいって」
すっかりクレーマーと化している
「ちょっ。危ない!」
そんなの言われなくても自分が一番わかっている。すぐさま盗賊に職業をチェンジその自慢の素早さで後ろに回り込んで短剣で首元を切りつけた。しかし金属同士がぶつかり合う高い音が鳴り響いてすぐさま距離を取る。
包丁が二本に増えている。そのでたらめな強さは口裂け女と言うには強すぎる気がした。
「最近の口裂け女ってこんなに強いの?」
事情を知っている楓に問いかける。こんなことなら新幹線の中でもっと話を聞いておけばと後悔する。所詮、ただの都市伝説だと高を括っていたのがいけない。
「口コミで尾ひれがたくさんついてきているのは知ってたけど、それって関係ある!?」
大いに関係ある。都市伝説の力はその尾ひれがすべてだ。何十年の時を経て様々な物語になっていたその都市伝説はより大きな力を得てしまったのだろう。
大きな力。それがコピーできたなら楽に勝てるのだけどと、能力を使ってみるけれどその力を感じることが出来ない。もしかしたら格上の力をコピーすることは不可能なのかもしれない。
もしかしてそれって。
「危ない!」
考える暇も与えてくれず口裂け女は襲い掛かってくる。並みの力じゃ対抗できる気がしないし、このまま押され続けるのは死を意味するのは本能が理解している。
「いっけー!」
とっさに機械仕掛けの腕に変化させたのはそれが一番信頼している能力だからだろう。近づいてきた口裂け女は避けることもできずにそのビームの直撃を受ける。貫いたその光の柱は空へと消えていった。しかし、口裂け女はその場に立ち尽くしていた。
「嘘だろ」
動き始めた口裂け女に恐怖を覚える。しくじった。
「ねえ。私、キレイ?」
そこまでして物語を再現したいのか。再びそのセリフを口にしてくる。キレイじゃないと潔く言い放ってやろうか。
「キレイだよ!すごく!」
楓が叫んだ。その言葉に口裂け女は反応する。そうしてから、まるで何かから逃げる様にその場をすごいスピードで立ち去って消えていった。辺りはすっかりと日が落ちて黄昏時の終わりを告げているように感じる。
「あれでよかったのかな。逃がしちゃったけど」
不安そうに楓が近寄ってくる。そんな顔をできるんだなと場違いな考えが頭を過る。
キレイだとほめればそれで助かるのか。本当にそんな単純なことなのか。頭で必死に考える。そうだったとしたら、もっとこの情報が広まってもいいような気がする。なにかがひっかる。まるで棚から一番上にあるものを取れないでいるみたいな感覚だ。
「助かったよ。ありがとう」
今はそう楓に返すことしかできなかった。
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