グミ・カブトムシ・半分

「あら。どうして無事なのかしら。やっぱり特殊な少年は厄介だったってこと?」


 現実に戻ってきたのか、先ほどの女性が驚いている声が耳に入ってきてようやく脳が動き出すのが分かる。爆音はどこかへ飛んで行ったようで静けさが辺りを漂っている。


「熱くない?」


 自分の声はやっぱり先ほどの頭に響いていた声とは少し違っている様な気がするのだけれど、気のせいなのだろうか。録音した声を聞くと違和感しかないあれと一緒なのだろうか。もう聞こえなくなったその声の事を考えるよりも、目の前に集中しないとならないと思いなおし、視線を女性へと向ける。


「な、なによ。やろうっての」


 仕掛けてきたのはそっちなのに尻込みしているのはどういうつもりなのだろう。しかし、どうやって攻撃を防いだのか自覚がないのも確かだ。衝撃とか熱とかどこへいってしまったのだろうか。


「とりあえず。ビームをっと」


 コピーできる物語の力は限られているがその中でも強力なのはこの攻撃だ。でもなんだかいつもより早く変化が起こっている気がしないでもない。そのまま照準を付けて撃ち放つ。


「ちょっ。いきなりそんなの無理!?」


 女性は魔法でバリアみたいなものを張ったみたいだけれど、それを半分ほど残して貫きながら女性へと当たると思った。


「そんなの食らったら死んじゃうじゃない」


 そっちが先に殺そうとしてきたと思ったのだが、そんなことを言っている彼女は一瞬で倒れている少年のところまで移動していた。あれかテレポートみたいな魔法も使えるのかもしれない。


「ああもう。今回は許してあげる。じゃあね」


 そう捨て台詞を置いて一瞬で少年と共に姿を消してしまった。辺りに完全な静けさが戻る。これだけの騒ぎを起こしてもだれもやってこないし警察沙汰にもならないのは全部物語だから。そう都合のいい説明をしていたつとむの顔が思い出される。


 そういえばとポケット中をまさぐる。出るときに隆司りゅうじくんがくれたグミがあったのを思い出す。いろいろあり過ぎて疲れてしまった。糖分でも取って落ち着きたい気分だ。


 昆虫グミと書かれたそのパッケージを見て一瞬戸惑ったのだけれど、空腹には勝てず袋から取り出すと立派な角が生えたカブトムシの形をしていた。幼虫じゃなくて本当によかったと思いながらそれを口の中へと放り込む。


 これで事件は解決したのだろうか。


 そういえば黄昏時でもないのに力が使えていたのはなんでなのだろうか。というか使えたのもなんでなのだろうか。


 疑問は積もっていくばかりだ。勉さんに報告していろいろ聞きださなくてはならない。そう思いも一個グミを取り出す。こんどは立派なハサミが付いていた。

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