ゴリラ・エビフライ・の仇

 またねと言っていたからには、逃げ隠れするわけではなくまた勝負してくれるということなのだろう。それも昼でも夜でもない時間。朝方は活動する人も少なく襲う機会が減ることもあって狙うなら夕方。黄昏時と呼ばれる世界自らが曖昧となり自身を失う短い時間。


「そう思っていたんだけれど。こうもバカ正直に毎日こうやって襲っているのか?」


 現れた少年に向かってそんなことをいってしまう位には驚いた。


「僕たちの杖の仇を取りたくて、うずうずしちゃったからね。今日は特別」


 そう、ゆっくりと歩いてくる少年は学校帰りなのか制服のままだ。そらがだんだんと暗くなっていっているのが分かる。それに合わせて制服の輪郭が曖昧になっていってゆるやかな輪郭へと変化していく。ローブへと変わった。でも、今日はひとりなのかもうひとりの姿は見えない。


「晩御飯はエビフライなんだ」


 少年の姿がブレて見える。先ほどと違う明らかに二重になっているように見えた。


「「だから早いとこ、片付けさせてもらうよ」」


 ひとりはふたりに分かれた。どうやら元からふたりな訳ではなくて物語の力だったらしい。なんだか違和感は覚える力だけれど、そうなら戦いようがある気がする。

 昨日とおんなじでふらりの連携攻撃は逃げているだけで精一杯。熱いやら冷たいやらの連続で感覚がおかしくなっていくのが分かる。


 相手の動きに翻弄されているのでビームを放とうにも照準を付けられなくて相性が悪い。そもそも片方だけ倒して終わりと言うわけでもなさそうだけれど。能力をすべて理解していないからなのかコピーしようとしてもうまくできない。まだなにか見逃していることがあるのかもしれない。


「ファイアボール!」「アイススパイク!」


 しかし連続して攻撃してくる詠唱は絶えることなく唱えられていてこちらへの攻撃がやむことはない。

 パワー型のゴリラかよと突っ込みたいくらいに押せ押せのその攻撃を防ぐことはおろか逃げ回ることも難しくなっていく。だからと言って打開策もなく近づいたわけではない。


 チャンスはきっとあるはず。それまでは待つしかない。

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