連続三題噺小説 for オリジナルTRPG『トワイライトストーリー』

霜月かつろう

黄昏時の物語

斬新すぎる・こちょこちょ・ウインナー

 本屋さんの目の前で途方に暮れている。入りたいのだが入る勇気が持てず二の足を踏んでいる。


 第一印象は斬新すぎる本屋さんだと思った。日本家屋に見えるそこが気になったのはたまたま。最初は駄菓子屋さんかと思えるおもむきに、興味を惹かれた。本屋さんだとわかったのは大きな看板に『黄昏書店』と書かれていたからだ。


 商店街ならともかく、住宅街にあることに違和感もあったし、中は暗くて誰かがいる気配もなく入る勇気は持てなかった。普通は雑誌とか置いて有りそうなものなのだけど店頭に本が置いているわけでもなく、どんな本が置いてあるのかすらわかない。


 それからというものその本屋さんの前を通るたびにその場所が気になって仕方なくなった。しかしいつ見ても誰もいないその店内に一歩を踏み出すことは出来なかった。


 そんなある日、ちょうど太陽が山の向こうに沈んでいった頃だ。その本屋さんの前に誰か人が立っていて本屋さんの方をじっと見ていて、少し驚いた。だって毎日通っているここに誰かが居たことなんて一度もなかったから。

 その人はまだ残暑だというのに全身真っ黒のスーツを着ていて黒いハットを被っている。それは住宅街に似合っておらず、姿は背景に対して浮いて見えた。


 驚いて足が止まってしまったからか向こうこちらが気になったみたいで、こちらを視線を移してくる。


「君はこの書店が見えるのかい?」


 低く腹まで響いてくるような声で問いかけてきて、その不気味さで汗が吹き出してくる。よくわからない質問にそれはより一層強くなる。


「本屋さんなら見えますけど」


 答えてしまったけれどそれが正しかったのか分からなくなる。答えずに逃げてしまったほうがよかったのかもしれない。


「そうか。君も選ばれた人間なんだね」


 更に続く、よくわからない言葉にこちょこちょと身体を触られている気分になる。知らない人からのそれが気色悪すぎて思わずその人とは反対の方向に走り始めた。


 後ろから追いかけてこないか不安で確認も出来ずに走り続けた。不安でおかしくなりそうで今日食べた朝食を思い返して心を落ち着かせようとする。

 目玉焼きにウインナー。味噌汁。思い出したけれど恐怖は消えやしないそれどころか混ざりあってなんとも言えない感情に戸惑いながら走る。


 もう足が動かないと思うほど走った頃には周りに人がいる商店街まで来ていた。何事かとこちらを遠巻きに見る人達に安心感を覚えながらゆっくりと後ろを振り返った。


 誰もいないのを確認するとようやく息を大きく吐き出した。

 もうあの本屋さんに行くことは無いのかもしれない。そう思った。


 でも、次の日。なぜだか足は自然とその本屋さんに向かってしまっていて、今その前で途方に暮れている。

 昨日の人がいないことだけが幸いなのだが、これから先どうしていいのかも分からない。


「いらっしゃいませ。どうぞ中へ」


 奥から男性の声がする。安心感のある声だ。その声に釣られるように本屋さんへ足を踏み入れた。

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