ガラスの割り方

俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き

ガラスの割り方。

ガラスがあった。


何時からか分からないけど、ガラスがあった。


透明だった。


透き通っていて向こう側が見えるようなガラスだった。


触れてみた。


冷たかった。


電気コードも制御基板も見えなかった。


だから、このガラスは多分素の状態で冷たいのだろうと思った。


それか、人の体温が高すぎるのかも知れないとも思った。


ぼわぁん


そんな効果音とともに、ガラスの向こう側に人が現れた。


それは、おじさんだった。


ひげをはやしたおじさんだった。


多分テレビの報道番組に出てるコメンテーターのおじさんだった。


なんで彼がここにいるのだろうかと不思議に思った。


おじさんはパクパクと口を開くが、何を言っているか全く聞こえなかった。


ドン


ガラスを叩いてみた。


ガラスはビクリともせず、揺れもせずただそこにあった。


ピコン


レトロゲームのような効果音とともにコメンテーターのおじさんが消えた。


そして、違うおじさんが出てきた。


このおじさんも見覚えがあった。


学校の先生だ。


髭を剃らないタイプの数学教師だった気がした。


このおじさんもパクパクと口を動かした。


だけど、声は聞こえなかった。


ドンッ


今度は強めに叩いた。


やはりこちらもびくともしなかった。


ブルゥン


最新家電の起動音のような音とともに、数学教師のおじさんが消えた。


次に現れたのはクラスのあまり中の良くない人だった。


こちらは3人いた。


お互いがお互いを向き合って何やら口を動かしていた。


だけど、やっぱり私に声は聞こえなかった。


ドンッドンドン


私は3回叩いてみた。


それでもやはり、ガラスは割れなかった。


テテテン


今度は少し古めのモニターの起動音のような音がした。


そしたら、クラスメイトたちが消えた。


次は家族が現れた。


弟とお母さんとお父さんだった。


3人揃って、自分も合わせたら一家勢ぞろいだ。


不思議なことに、あんなに叩いても割れなかったガラスは、無くなっていた。


割れたのではなく、無くなった。


気がついたらそこになかった。


とりあえず本当にないのか確認しようと、手を延ばした。


シューーーン


掃除機が吸い込む音みたいな音がして、家族が消えた。


そして今度は、女の人が現れた。


女の人だけではなく、ガラスも再び現れた。


この人は知っていた。


よく行くコンビニで、ちょっと仲良くなれそうと思っている店員さんだった。


店員さんも何か口を動かしていた。


ザーザーと跡切れ跡切れだが、音が聞こえた。


微かに聞こえる声とその口の動きから、店員さんの言いたいことを読み取った。


『その雑誌私も好きなんですよ。』


彼女は確かにそう言っていた。


あぁ、そうなんだ…………。


仲良く、なれそうだな……。


そんな風に思ったその時だった。


パリィッン


そんな陳腐な破壊音とともに、ガラスが割れた。


真っ二つとかではなく、見事に砕け散った。


放射線状に破片が飛び散っていった。


あぁそうか。


ガラスのなくなった景色を見ながら思った。


私はやっと、この不思議なガラスの割り方が分かった。

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