副作用

@2021911

第1話 電車の中で

もう嫌だ。この世にいてもつまらない。電車の中,涙が流れそうな自分の顔を見られまいと抱えているリュックで隠す。まるで寝ているかのように装って。もうどれくらい電車に揺られていただろう。一時間半くらいだろうか。ちょっと家出したつもりで来たけれど窓の外を見ると見えるのはもう全く知らない景色だ。夕日に照らされる田園風景はとてもきれいだと思えるはずだった。だが、それを見ても何も思わないくらいに苦しく、疲弊していた。毎日が窮屈だった。

よく思い返してみても私の人生は本当に勉強ばっかりだった。小学生のころから塾に通って,中学受験で受かってほっとしたのは束の間。中高でひたすら大学受験の勉強をする日々を送った。でもこんな生活など私が望んだものではなかった。私はもっと楽しい生活を送りたかった。そんなことを考えてボーっとしていると誰かが近づいてくる気配を感じた。すると,目の前に男が立ち止まっていた。30代半ばくらいでサングラスをかけている。ひょろりとしている彼は丈の長い黒いコートを着ていた。何かと思うと彼の口から思いもしない言葉が出てきた。

「君、自殺するの?」

「え―― なんて言いました?そもそもあなた誰ですか?」

一瞬,何を聞かれたかと思った。初めてあった人に『自殺するのですか』だなんで普通だったら聞かないでしょ! …でも本当はそう思っていた。だって、、、今までずっーーと大学受験で合格するためだけに勉強ばっかりして,私のすべてを勉強に掲げてきたのに入学テストに落ちたからよ。そもそも大学なんで行きたくないし,勉強も嫌い。それに将来は美容師になりたかった。一度親にそのことを話したことがあった。だが両親には『大学に進学しなさい。それ以外は認めない。』と言われた。その上,進学する大学までも有名大学でなくてはいけないというのだ。両親ともに高学歴で父の清水誠は有名企業の専務,母の直子はベンチャー企業のトップ。そのことを良かったと思っているため私に大学に行ってほしいのだろう。私は一人っ子だったので圧がすべて私にかかってきた。だから自分の夢はあきらめて両親に強要されたのも同然で大学を受験したのだ。合否発表は昨日で,家に帰ると母親には『また来年頑張りましょう』と,父には『何だよ不合格かー。だからもっと勉強しとけって言ったのに』とだけ言われてあとはいつも通りだった。もう一年ひたすら勉強し続けるにはもう私のメンタルは持たないと思った。というかすでに私の心は破壊されていた。今日は午前中学校に行き,午後の塾は休みの連絡をした。気分転換に遠くへ行って気分を癒そうと思っていたが,全く癒されずこのまま知らない街で自殺してもよいと思っていた。

「失礼しましたね。私は深山玲人と言います。君は自殺するつもりがあるのかどうか聞きました。」

「…。」

普通,思っててもいいえって言うけど,もしハイって答えたらどうするんだろう,この人。

「別に答えてくれなくて構わないけど、君にあげたいものがある。——これさ。」

男は黒く四角い皮の鞄から小さな瓶をを出して,私に差し出した。中には飴か何か丸く青いものが一つ入っている。私はいかにも怪しい人の怪しいものだと分かっていたが,それをもらって自分の人生がどうなってもいいと思っていた。

「これは飲むと自分以外,嫌なものや人を念じるだけで消すことができる薬だ。君にあげよう。」

そう言って私の隣に置いて隣の車両のほうへ歩いて行った。

「ちょっと待ってください。あなた,薬剤師か何かですか?」

「まあそんなものだね。あ、あとその薬は作用が効けば効くほど寿命が延びる。伸びた分の寿命は何があっても生きることになる。人に飲んでもらうのは初めてだ。私はこの駅で降りるので,それでは。」

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