怖い

端役 あるく

想像

ふと、布団の中でそれを想像した。

何かがきっかけになったとか、そう言うことでもないのだが、よくある想像だ。

寝るまでのそれは随分と眠りを深くするが、今日は失敗だった。


ある飛行機の中だった。

戦時中、またはそれより前の飛ぶ鉄塊と呼ぶに値する、外装だけを丁寧に仕立て上げた小奇麗な飛行機。


中はパイプから、よくわからない何かのメーター、ネジまでが良く見える。

油でじめじめと鳴る床、薄暗く、狭い。

そこに私は乗っていた。


高度の数値などは知らない、高かった。

草原の青々として風がそれを左から右に流す。

その景色を小窓から覗いていた時、腹部の無理にこじ開けてぬるりとすり抜ける何かがあるのに気付いた。


いや、実際には気づいたのはもうほんの少しあとだろう。


薄暗い場所、後ろから近づく足音、それに気が付くまでに必要な条件はそろっていたはずだ。

気付けなかった。


化け物の類、そんなものが想像に出てきても怖くはなかっただろう。

今のように瞳孔を押し開けて、動悸を激しくする結果になんて決して至らない。


気付いた時には、もう動いても無駄な瞬間だった。

まだまだ小さな21.5㎝の桃色のシューズにはもう届かない。


小学6年の妹は、窓枠と私の腹部をすり抜けて、落ちた。

気づき、腕を上下に振るが触れられない。

崩れ落ち、絶句する。


私は飛行機の底を、かき分けていた。

鉄板を、砂を掘り起こすように爪を立てて掘り起こす。

正しい行為だと疑わない私は、それが妹に近づける最短だと思った。


ハッとした私は、現実の布団の中に帰る。

ここからが失敗だった。

私は視点を変えた。

考えざるを得なかった。


落ちる妹の気持ちを考える。

窓から重心を無くして落ちてしまったことを後悔するだろう、ずっと助けが来ないことを分かっていながらそれでも落ちて死ぬ瞬間まで考えるだろう。

長く感じる数秒をかみしめながら

小窓から、叫ぶ私を見て


あーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあー


同調しながら、私はされど甲板をかきむしる。

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怖い 端役 あるく @tachibanaharuhito

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