第65話 『目立つ』ということ
今、車で娘の塾の迎えに来ている、
ちょっと早めにスタンバっておかないと、待たせると不機嫌な顔をされる。
入れにくい駐車場なので、路肩に停めてハザードを点けて待っている。車の運転は、どうも苦手だ。
しばらく待っていると、煩いバイクの音が聞こえてくる。この時間だと、まだ深夜ではないが、とは言っても煩いから周りには迷惑だ。アクセルをふかして、バンバン態と音を立てている。金属音も混じったような、バキバキいうマフラーの音。バイクには乗るが詳しくはないけど、そういう改造をしてあるのだろう。
音だけがするが姿がなかなか見えない。同じ車線だったら、ハザード点けて停まっているところ、絡まれたら嫌だなと思っていると、反対車線に長い背凭れを付けたバイクが3台通過した、ハンドルもカマキリのように長い。
そして、相当な音を立てている。かなり大きい音で聴いていたサザンの曲が聴こえなくなるくらいだ。(ちなみに、夏も過ぎた今時期に聴く『希望の轍』は、胸に刺さる)
通過したのは一瞬だが、まだ音が側に聞こえる。
僕は大きい音が苦手だ。バイクで走ってると、横を追い抜くバスやダンプが「プッー!」とクラクションを鳴らす時がある。「気をつけて」という合図なのだろうが、あの音のせいで、両肩が宇宙まで飛んでいってしまうかと思うくらいビクンッとして、ハンドルがもたついてしまう。かえって危ないので、あれはやめてほしい。
デカい音を聞くと、心臓が痛くなる。耳が痛いというより、胸が苦しくなるのだ。あんな音のするバイクは死んでも乗りたくない。僕は改造もしてない小型のスクーターを静かに走らせてるだけで充分だ。あんな不快な音を立てて頭がおかしくならないか、それか既に頭がおかしいのか、と思ってしまう。
じゃあ、そんな人たちを理解できないかというと、それは別の話。
むかし煩いバイクに乗っていた人はたいてい不良で暴走族に入っていたりするが、今の人たちはそういう人ばかりではない。台数も少なく、時には1人の場合もある。1人の場合、暴走族ではないから暴走人と読んでいる。必殺仕事人みたいで、この方が呼びやすい。
それに車の場合もある。『走り屋』と呼ぶべきか、そういう点でも詳しくはないが、もの凄い煩いエンジン音を響かせて走っている車を見かける。意外にも運転している人は、チャラい人や不良みたいな人ばかりではなく、メチャクチャ真面目そうな運転手だったりする。
道の駅で地下アイドルを追っかけてそうな服装の人が、頭文字Dみたいな車から降りてくるのを見た時、少々頭がバグッた。
多分、あの人たちはただ目立ちたいんだと思う。人と違うことをしたい。人から注目されたい。その術が、多分煩いバイクだったのだろう。
煩いバイクは理解できないが、目立ちたいという気持ちは大いに共感する。
ちょっと変わった色や形の服を好んで選んでしまう。
派手な色や、左右非対称のシャツ。やたらにデカいジャケットなど、あまりみんなが好まないような、避けるような服が好きだったりする。時に、やり過ぎてしまう時があるので注意しなければならない。ダサいギリギリの範囲を狙っていかなければならない。滝藤賢一さんも、そう言っていた。
左がタイトで、右がプリーツの入ったワイドなチェックパンツを履いていたら、流石に家族には白い目で見られた。たまに、丁度良いが分からない。
今回転職し、担当するブランドは歴史のあるアメリカントラッドで、カジュアルでも王道のアメカジなので、余りズレ過ぎないように気をつけなければならない。と、言っても慣れてきたら徐々に崩していきそうな気がする。
本当は人見知りのくせに目立ちたい、という気持ちが子供の頃からあった。クラスで目立つ奴というのは、サッカーが上手い、足が速い、頭が良い、など「目立ちたい」という気持ちではなく、勝手に目立っていたんだと思う。そういう才能が羨ましい時期があった。本人たちの努力もあるだろうが、やはり持って生まれた才能である部分も大きいと思う。
自分にも何かないのか、簡単に目立つ方法としては人と違うことをやること。それも努力が必要なことではないほうがいい。自分が好きなことで、周りが余りやってないことから手をつけたら楽だ、とバンドを組むことにした。ブームだったこともあるが、1人でやるのも寂しいと友達を道連れにした。
あとは服装で目立った。ブランドとかの知識は無いし、お金もそんなに使えないので、バンド雑誌で好きなミュージシャンっぽい格好を買える範囲の価格帯の服で真似した。
前後逆に着てみたり、当時ヒップホップの人たちがやってたように長いジャージのパンツの上に、ハーフデニムを履いて見たりした。
その頃から、やっぱりジャンルがヒッチャカメッチャカなのである。
まあバンドをやってたというと、煩いバイクの人を否定できない。でも目立ちたい、という衝動は同じではないか。自分から努力してヒーローになるというより、「あれ?目立っちゃってます?」くらいの目立ち方をしたい、という子供の頃の捻くれた願望。
すると、大人になってから、何が普通かわからなくなってきた。
もちろん態と外してたり、崩してたりすることもあるが、自分自身が「これは普通だなぁ」とか「ちょっと地味だなぁ」と思っている服装の時に、「あんた、なにソレ!」「父さん、ちょいそれ違う」と真面目に否定される時がある。辛いものばかり食ってると舌がバカになってしまうが、ズレた服装をし続けてるとそれがわからなくなってしまうのか。
(安心して欲しいのが、自分の服装だけがわからなくなるだけなので、ちゃんと接客では知識を持ってご案内します。仕事なので)
作家になりたい、というのも自分の周りではいないから、やっぱり目立ちたかったのかなぁ。アパレル販売やってるのも、喋るのが得意、いやむしろ喋るしか脳がないからやってるのかと思いますが、やっぱり自分の同級生とかではあまりいないから続けてるのかなぁ。
久々に会った友人に仕事を聞かれて、アパレル販売やってると答えると「あー、なんかリュウくんっぽいよ」と言われるのは、良いことなのか悪いことなのか。
まあ、今聞かれると専業主夫ですけど。と、言っても次決まってるから、前職の有給消化で次の職場の待機期間なんだけど......。
あ!
もう休暇も終わって、明後日から新しい店で働くんだった!今度の会社はみんな良さそうな人だったし、有名ブランドだからうれちゃうぞという期待と、40日間も休んでいて鈍ってないかなぁという不安が半々です。
あまり最初から変に目立った行動は控えておこう、っと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます