私は勇者になりたい

*うみゆりぃ*

第1話 私は勇者になりたい

勇者に恋をし続けてきた人生


本当は、勇者が好きなんじゃなくって

私が勇者になりたいの



***



納戸から小学校の卒業文集を引っ張り出す


将来の夢:「冒険家になって世界中を見てまわりたい」


小学校6年生女子の夢


まさかと思ったけれど

あぁ、やっぱりそう書いてあった


私の記憶はいつでも正しい





世界中を旅してまわり

生まれ育った故郷とはちがう

国々で体験したこと、感じたこと、出逢った人

目で見たもの、関わり合いを

本にしたい


それが出来る大人になれると思っていた



世界の広さに憧れ

まだ見ぬ国や景色や様々な人種との出逢いに

単純に夢を見ていた


あぁ、なんて痴夢よ。




現実世界はファンタジーとは違う




本を読めば読むほど

空っぽの頭に情報を詰め込めば詰め込むほど


もう、現実世界は知り尽くされていると

錯覚を持つ


人跡未踏の処女地は

存在しえない空想ごとなんだと


空を飛ぶことだって

魔法を使うことだって

叶わない夢だと知ったとき


なんとも言えない

虚無感にとらわれた




私はそれから

本を読むことをやめた


全てが知り尽くされている世界だと

確信を持ちたくなかったから


まだ僅かにでも

ファンタジーの余白を

自分の中に残しておきたかったから



お恥ずかしながら

わたし、読書は好きになれないの


小説も数えられるくらいしか

読んだことがない


目にしてきた本と言えば

図鑑、風景や建築物の写真集

物を作るための図案かしら


あぁ、あと教科書ね



ようやく十代も後半になって

ずっと温めてきたこの想いを形に

満を持して国を飛び出す決意をする



もちろん親には大反対された


自分の身も自分で守れないような、か細い女が

たった一人、冒険がしたいからと

この安全な国を出るなんて

どうかしてる



わかってるわ

回復呪文も、蘇生呪文もない現実世界において

それが生ぬるい考えだってこと



万が一のことがあったら

どうするのだと


私を安全な檻に入れる



貴女の生きる道はこうだから

貴女の幸せはこっちだから


これが、さぁ幸せだと

常識で定められたルートへ

無理やり舵を切らされて

船は風を受け進んでゆく



女の子の幸せは

好きな人と結ばれて

家庭を持って

子どもを産みを育てて

孫の顔を見ながら

伴侶と添い遂げるコト





あぁ、なんてくだらない

愚の骨頂



この足で歩き到達した地で

五感で初めて感じとったもの


それを手にしたときに

たとえ肉体が滅びようとも



短きその生きた軌跡が

どうして幸せじゃなかったと

人は思うのかしら



もし、私が屈強な男だったら

檻になど入れられることもなく


むしろ檻を破壊し飛び出して行くことも

できたのかしら




あぁ、男が疎ましい




だから私は、

仮想世界の呪縛から抜け出せず

痴夢を追い求めて続けて


今も勇者として、勇者である人生を

別の時間軸で歩んでいる




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