あの夏の残滓

i & you

あの夏

登場人物

・千秋(ちあき)  天文同好会、部員。主人公。実は...?

・津田 マコト  天文同好会、部長。生徒会長。部活に全然来ない。

・早川 美雪。   新入部員。丁寧。

・早川 岬(みさき)  マコトの友人。美雪の兄。輝かしかった、星。万能。



零系


屋上。

望遠鏡。星をじっと見る千秋。冬服。しばらく、ひとりきり。無言。下手からマコト登場。


おい、千秋。


もうとっくに下校時刻過ぎてるぞ



...おい

......今、いいとこなんです。少しだけ、待ってください

そうか。


マコト、ちあきから少し離れたところであぐらをかく。

しばらく無言の間。そして、千秋、

望遠鏡を除くのをやめる。


ねぇ、先輩。

ん?

ここって、学校で一番高い場所なんですよ。

...あぁ、屋上だからな。

だから、一番、星に近いんです。

...そうだな。

どうやったら届くんでしょうね、星に。

.........

どうやったら...



星、か。

......

技術は発展したし、昔の人よりは星に近づいたけどさ

...

でも、夜空に輝くあの星々には、一生懸かっても辿り着けないだろうな。

.........

少なくとも、俺はそう思ってる。

.........

いつか辿り着けるとしたら、それは星を貶すってことだと思う。

............

星を落として、星を引きずり下ろして、それでやっと手に届きそうになって。

.........

そこまでしてもまだダメなんだよ。

............

届かないから、辿り着けないからこその星なんだ。

.........そうですね。

(いつの間にか寝転がっていて)


M  君の知らない物語

イントロめっちゃ弱く入る


(先程とはうってかわって)

ほら、見ろよ。星綺麗だぞ。

えぇ。

ここは、僕の特等席ですから。

僕達の、だろ?

(曖昧に笑う)

でもさぁ

.........

こいつらきっと、俺らが何しても、それこそ死んでも輝いてんだよ。

..........

何事も無かったように、さ。

........

そう思うとさ、なんかこう、今まで必死になってたのがバカみたいでさ。

........

人に生まれて良かったよ、俺は。

ははは、まちがいないですね



1Kピンライト 千秋。


あぁ!数多の夜空に輝く星、その中でも一等明るい星。凡百の光の中にってなお、目が眩むほどの光。

眩しくて、眩しくてたまらない!この広い大空で、僕を照らしてくれる唯一の光!

近づけば目が潰れてしまう!けれど!それでも僕は!手を伸ばさねばならないのだ。涙さえ乾かし、僕を干えあがらせうるほどの熱を持った、あの星に!



屋上、寝転がって空を見ている千秋。


バン、と屋上の扉が開け放たれる。


...先輩。

よう、千秋。

めずらしいですね。

なかなか来れなくて悪いな、千秋。

いいえ、それは別に。

で、お前今何してたんだ?

別にいいじゃないですか。

気になるだろうが。一応部長だぞ?

そうでしたね。今年になってから、部活きたのまだ2回目ですけど。

ゴールデンウィークはきただろ、ほら合宿

それ含めて2回目なんですよ

そ、そっか(なぜか照れる)

褒めてないですよ

まぁ忙しくてな。ほら、生徒会の方が。

先輩が生徒会長っていうのどう考えてもおかしいですよ

俺もそう思う。

まさか、生徒を悪の道に導く気なんじゃないですか?!

それは言い過ぎ。

...

まぁ、俺のおかげで屋上入れてるんだから感謝しろよ(笑いながら)

そうでしたっけ?

一応、部長だし。



それで、どうしたんですか?

どうした、って?

わざわざ先輩がここに来るなんて珍しいじゃないですか。

そうか?

そういう文脈でしたよ。

そうか。

えー、あー、ちょっと伝えたいことがあってな。

その、なんだ。ここに...


(遠慮がちにドアが空いて)

こんにちは。

え、え??(顔を交互に見る)

先生、よろしくお願いします。

おう、これからよろしくな。

(千秋の方を向いて)

千秋くん、ですか?

は、はい

よろしくお願いします。(ぺこりと頭を下げる)

(頭をかいて)あぁ、新入部員だ。

し、新入部員。

そうです

だって先輩一言もそんなこと…

言おうとしてたんだけどさ...

私、なにかまずいことしちゃいましたか...?

いやいや、君は...えーっと(名前がわからなくて戸惑う)

早川美雪です。

は、早川さん。

はい。

早川さんは悪くないよ。

ありがとうございます。

ふーん?

な、何ですかその笑みは!

いやぁ、千秋も男なんだなぁって。

な、何言ってんですか

残念ながら。

?何をされているんですか?

べ、別に、何も。ねぇ先輩。

お、おう。

いえ、そういう事ではなくて、ですね。

活動は何をされるているんですか?

あー、えっと...

星を見ることだよ。

...そ、そう。星を見る。

天文部、ですもんね

一応ね。


気まずい間

(わざとらしく時計みて)

俺、会議あるからもう行くわ。頑張れよ、千秋。

な、何を頑張れと...

なんだろな

じゃあバイバイ!美雪ちゃんもね!

はい。ありがとうございました。


気まずい間


え、えっと

はい?

な、なんでここに入ったの?人も少ないのに。

...

ご、ごめん。

いえ。マコトさんが入ってたので。

マコト、さん?ああ、先輩ね。

...

先輩と...いや、なんでもないよ。


気まずい間


あのさっ

あの

(被る)

(少し恥ずかしがる。)

いいよ、先どうぞ。

ありがとうございます。

早速ですけど、後で部室案内して貰えますか?

うん、早川さんももう部員だもんね。

はい。

と言ってもそんないいもんじゃないよ?

そうなんですか?

うん、今年で部活から同好会にランクダウンしちゃって。

...不祥事、とか?

いや、単純に部員がいなくなっちゃったんだよ。先輩達が、みんな卒業しちゃってさ。5人いないと部活として認められないんだ〜って。

なるほど

アットホームな雰囲気だって聞いてたので。

先輩から?

...



...あのさ

はい、なんですか?

その、なんというか...先輩と、どういう関係なの?

...

(しまった、という表情)その、言いにくかったらいいんだけど...

いえ、その...

...

兄が。

ん?

兄がマコトさんと親しくて。

へ、へぇ。

お兄さんは今何歳なの?

高校三年生です。

あ、じゃあ先輩と同級生なんだ。

はい。

えーっと、早川さんは一年生、でいいんだよね?

はい、そうです。自己紹介が遅くなりましたね。一年A組23番、早川美雪です。

あーいやいやこちらこそ。

天文同好会会員、高校二年の西条千秋です。

(ぺこり)



あー、他にどうしたいとかある?

いえ。

じゃあ部室いこっか

お願いします(ぺこり)

さっきも言ったけど、狭いからね?

はい、覚悟してます

ほこりは大丈夫?

アレルギーはありません。

ならいいや、


出口へ向かう千秋。一瞬屋上の外側を眺め、直ぐに後を追う美雪。

出る直前でふと振り向いて


あ、そうだ

??

掃除してないから、虫が出たらごめんね(意地の悪い、からかうような)

(ちょっと怒ってバンバン叩く)


暗転。


1.5K


ブルー光。


くらい中、美雪と千秋が天体観測。セリフなし。

美雪が指をさし、「あ!」

千秋が笑う

仲良さそうに



2K


屋上に千秋。寝転がって空を見上げている。マコト、入ってくる。


...

よっ

...また来たんですか

嫌だったか?

いや、驚いただけですよ

驚いた風にはみえねぇけど。

そうですか?

うん

内心驚いてますよ、ビクビクですよ

ビクビクは嘘だろ

嘘ですけど

嘘なのかよ

えぇ。

で?美雪ちゃんは?

というと?

と言うと、じゃなくてさ。部員なんだし。

それ先輩が言います?

そう言われると...

えーっと、なんか用事があるから来れないって。

言ってた?

前回の部活の時に。

そゆこと。

はい。

俺が来ない間に色々あったんだなぁ。

...もうひと月経ってるんですよ、先輩が前来てから。

だから忙しいんだって



おかげで二人きりだったんだろ?美雪ちゃんと。

まぁ、そうですけど。

どう?なんか、あった?

なんか?

ほら、なにかはなにかだよ

いやなにかじゃわかりませんよ

そっか...

あ、でも

ん?

天体観測しましたよ

え?!いつ!

えーっと、先週の金曜日ですっけ

いや聞かれても

ほら、先週の水曜日から夏休み入ったじゃないですか?なので天体観測しようかって話になって。

うわ、男女二人で天体観測...

えぇ。楽しかったですよ。

ふぅん。

まぁ、でも仲良くなったんですよ、結構。ほら、僕みたいな根暗には、女子ってだけで抵抗があったので。

そ、そうか。

でも、暗くなるまで校舎内でやり過ごすのが一番大変でしたね

暗くなるまで...?

ほら、天体観測って夜しかできないじゃないですか。

......

だから、下校のチャイムのあと、ずっと部室に隠れてたんですよ

お、おまえ!そ、その、...(聞き取れない)してないだろうな?!

すみません、今なんて?

だから、...してないだろうな!

もう一度言ってください

だーかーらー!て、て、手出したりしてないよな!

はぁ...してませんよ。第一、喧嘩してないんですから

...え?

だいいち女子に暴力振るうって発想がどうかと思います

...え、え??

え、ちがうんですか?手を出すってそういうことでしょ?

いやいや...

幼い頃からおばあちゃんに教えられましたからね、「先に手を出したら負けだ」って。だから、一発殴られるまでこっちからは何もしないって決めてますよ

いや、その、なんだ

...???

...(裏声で)「み、美雪ちゃん、手、繋がない?」「え?」「ほ、ほら、これ、僕の左手だよ、」みたいな意味の手を出すだよ

...(疑問符を沢山うかべる)

悪かった!!俺が悪かったよ!!

...はい。

まぁ、あれだ、その...仲のいいのはいい事だ、うん!

そうですね。



そうだ、先輩。

ん?

あの。

何さ。

ちょっと耳貸してください

ほらよ、て貸せるか!俺は耳なし芳一かよ!

耳だけ芳一にしてやんよ

死んでんじゃんそれ...

話それましたけど、真面目な話があって

なんだよ、言えよ

いやあ、何も無いと思いますけど、もしも、誰か来たら困るじゃないですか

なんで?

やだな、先輩と僕だけのひ、み、つ、ですよぅ。(気持ち悪さ)

お、おう!

じゃあ言いますね?

うん。

ふっ(息を耳に吹きかける)

うわあああああ!(離れる

え、え?!ちょ、やめろよ?!え?

(ゲラゲラわらう)

はあー、お前そういうことするの。へえーそう。そういうことしちゃうんだ

反応...

そりゃな!驚くだろ!あんなことされたら!

まぁまぁ、男同志じゃないですか。

そこなんだよ!

...へ?

そりゃな!こんなこと、お前相手じゃなくてさ、もっとこう、いるだろ、可愛い子!

...

何かありましたか?

(素っ気ない顔ではいってくる美雪)


二人(ハモって)  え


.........どこから聞いてた?

何がですか?

い、いやなんでも。

はい。

じゃあ、今日も部活を始めましょう。

もう同好会じゃんか。

一緒ですよ一緒。やること変わらないし。

ちょっと迫害されるだけで。

あーそれ言うの酷い。

事実でしょ

そんなことないって

生徒会長ならその辺努力してくださいよ

いや、その、だな。ほら、公平性が...

公平性とか言ってる場合ですか?!

いやいや。



そういやさ、早川さんは今日何かあったの?

あ、はい、(カバンからチラシ出して)これを持ってきたんです!

これ?

なになに、「高校生天文コンクール」...?

...

...これ、どうしたの?

みんなでやる目標?みたいなの、欲しいじゃないですか。それで、ネット漁ってたら出てきたんですよ!

...そう。

あれ、どうしたんですか?

今から?無理無理。だってこんなの、お金持ちの、ほら、何十万の天体望遠鏡とか持ってる学校がでるやつでしょ。ねぇ先輩。

......あぁ。

なんか歯切れわるいですけど

そんなこと、ねぇよ。

そうですか。

だからさ、美雪ちゃん。残念だけど...

あ、

どうしたんですか、先輩?

いやさ、このチラシ。

なんです?

ほら、ここ、右下。  「星」のスピーチ部門  って書いてねぇか?

書いてますね。

これなら何とか..

やですよ、こんなちゃちいの...恥ずかしい

ンなこと言うなよ。なぁみゆきちゃん。

は、はい。

そういや、今日遅れてきたけど何かあった?

なにか、ですか?

そ、そう。ほら、普段毎回欠かさずきてるからさ。何かあったのかなーって。

えーっと、その...(迷いつつ)

言いたくなかったら別に...

兄に付き添ってました

兄?

そうです。兄が今日、少し用事があったので、その付き添いに。

健気だねぇ。

ちょっと、茶化さないで

すまんすまん

お兄さんって、えっと、確か前に言ってたよね

はい。

先輩と家族ぐるみの付き合いがあるんだっけ?

そうです。

美雪ちゃんの兄貴、凄いんだぜ?

へぇ〜

まさに神童って感じでさ。

やだな、そんな、大層なもんじゃないですよ〜(なぜか照れくさそうにする美雪)

神童?

そうそう。大袈裟に聞こえるけどほんとだよ。

...

ほら、英語で才能のこと、「ギフト」って言うだろ?つまり神様からの贈り物ってことなんだけどさ。

はい。

あいつ、なんでも出来んだよ

なんでも?

模試の成績はトップクラスだったし、運動だってできた。教室でバク転とかしてたんだぜ?信じらんないだろうけど。ピアノも綺麗に弾いてたし、絵も確か県のコンクールか何かで賞とってたはず。万能の天才ってやつだよなぁ。

え...

天は二物を与えず、とか言うけど実際何個与えられてんだか。

兄は努力の人でもありますから。

そうなのか?あまり、そういう面を見たことは無かったな。

...

でも、そんな話聞いたことないですよ。うちの学校の高三に、そんな化け物がいるだなんて、

それは、まぁな(歯切れ悪そうに)

(フォローする形で)ちょっとしばらく体調崩してて、入院してたんですよ。だから、千秋さんが知らなくても無理はないです。

そうなんだ。

そのお兄さんが、何を?



退院したんです。

退院?

はい。それで、帰ってくる準備を。

なるほどねえ、岬が。そっか。

お兄さん、体調はもう大丈夫なの?

一応、退院してからも定期的に通ってくださいってお医者さんから。

そうなんだ。

...

...ごめんね、なんか根掘り葉掘りきいちゃって。

いいんです。隠し事をしてるのも、ちょっと辛いですから。それに、

それに?

お二人にだったら、話してもいいかなって。

...

...

なんか照れちゃうな、えへへ

そうだな。

...

それで、美雪ちゃんは今日ここ来てて良かったの?

というと?

ほら、久しぶりに兄貴が帰ってくるんなら、家族で退院祝いとかするもんじゃないの?わかんないけど。

いいんですよ。兄さん、私が天文部に入ったこと、喜んでくれてますし。

そうなんだね。

.........

特に、兄さん、学校の話すると喜ぶんです。ほら、こないだの天体観測なんて!(気づいて気まづく)あ...ごめんなさい...

いいよいいよ、俺は俺でやることあったしさ。

そう言って貰えるとありがたいです。

あいつ、その話聞いたら怒ってなかった?シスコンだから。大事な妹がどこぞの馬の骨と二人で星見デートなんて聞いたらブチ切れるぞ

馬の骨って...それとデートじゃないですってば

そうですよ、手出されたりしてませんし。

え、もしかしてそこから聞いてた?



3K


ピンライト。千秋。


でも。星は落ちてしまった。未来を諦めて、今に満足したふりをして、現実から目を逸らし続けている。

だからその星を、僕はきちんと終わらせないと。

星の、あなたの輝きに目を奪われた!心を照らされた!だから、いっそ...。


僕は、僕は......!!


明転


千秋一人。上手からミサキ入ってくる。目を閉じているちあきはきづかない。



おや、知らない子だ。

え!......(驚いて)どなたですか?

人に名前を尋ねるなら、先に自分から名乗るのが礼儀じゃない?

あ、、、すみません。

別に謝らせる気はないけど。

えっと、千秋です。西条千秋。

君が千秋くんね。なるほど。

?どうしました?

いやいや、なんでもないよ。こっちの話。

そうですか。

うんうん。

で、どなたですか?

え?

え?って...

僕名乗ったじゃないですか。あなたは?

んー、じゃあ、僕のことは、お兄さん、とでも呼んでくれたまえ

えぇ...

不満そうだね

そりゃそうですよ、突然初対面でお義兄さん、と呼んでくれ、だなんて。誰か知りませんけど、勝手に僕の婚約相手を決めないでください

それ、漢字が違うおにいさん...

...

なにか悩んでるんだろ?

え?

悩み事。してる顔してる。

えーっと、、、、

当ててやろうか?ズバリ、

わー!わー!(慌てて声で打ち消そうとするやつ)

恋煩い、だろ?

......

......

......

あれ?違った?

......えぇ。

ここで会ったのも何かの縁だ。どうせもう二度と会うこともないんだし、僕に相談してご覧よ

えぇ...

この胡散臭いイケメンに相談していいものか...と悩んでいる...?

イケメンとも美形とも思ってません

手厳しいねぇ

........僕の友達の話をします。それでもいいなら。

友達?

そうです。僕の友達。

それって...

ほら、僕の気が変わる前に。

はいはい。

...僕から尋ねててなんだけど、ほんとにいいの?

人生度胸が大切ですからね。

...

Y君は、部活に入っているそうです。と言っても、サッカーだの野球だの、そういうメジャーな運動部じゃなくて、文化部に。

...

Y君は高一からその部活に入っていて、二年になった今も、欠かさず部活に行っています。

偉い子だね。ほかに部員は何人いるの?

その部活は弱小で、前の代が抜けてからは数人しかいないんですって。

ふぅん。時代って怖いねぇ。

んですけど、実はそこに気になる人がいるらしくて。

いきなり踏み込んだ話になった

えぇ。

やっぱり恋の話じゃん

うるさいですね

ごめんごめん

続けますね?

うん。

気になる人がいるとは言っても、その人数で思いを告げたら、間違いなく気まずくなるじゃないですか。

それはそうだね。ただでさえ同じ部活内での恋愛はおおごとになりやすいのに。ましてや人数が少ないとくれば、ね

でも、それだけじゃないんです。

......

Y君が...好意を抱いた人は、とても優秀で、賢くて、人気もあって。Y君にとってはまさに星なんです。

星、ね。

ずっと憧れてきた星。今のY君を作り出し、その道筋を照らしだした光なんです。

......

でも、その星は、見えなくなったんです

見えなく...

はい

...

...

だから、y君は、僕は、ケジメをつけないといけないんです。

かっこいいねぇ

ちょっと...茶化さないでくださいよ

でも千秋くん、最悪の場合、その人とはもうう会えないんじゃない?

......そうなんですよね

なるほどねぇ。それで悩んでるわけか

...

じゃあ連絡先、交換しとこうか?いつでも相談にのってあげるよ

...あの(言いかけて遮られる)

心配しないで、優しさだけが取り柄なんだよ?僕。

...嘘ですよね

......嘘だけどさ。

...

まぁ、この学校の関係者だし、十分に天文部の関係者だよ。

え...それって...?

少しは先輩らしいことをさせて頂戴、ね?


(交換)


すみませんね、なんか初対面でくだらない話しちゃって。つまんなかった、ですよね。

言って欲しかったら、そんなことない、とか言ってもいいけど

...別に。

...

あなたに、誰に言ったって僕の悩みがわかるわけないじゃないのに。

...さん

わかってくれ、理解しろ、なんて言う方が身勝手でした。忘れてください。

......



...ずるいとは思わない?

...え?

君だけが悲劇の主人公、だなんて。十六年?たったそれだけしか生きてないだろうに。

…じゃあ何がわかるっていうんですか?初対面のあなたに!上辺だけ寄り添われてもかえって迷惑なんです!

...言ったね

.........

そりゃ僕にだって、大嫌いな人間くらい、いるよ...

...え?

これでも人生の先輩なんだから、少しくらい任せてみな。

...



ドアがバンと開く



お?どうした?

(緊迫するふたり。)

お前は...!

お前は...!


(睨み合う。)

え、え?!(慌てて止めようと真ん中に入る千秋)

(駆け寄って抱き合う)


ミサキ!!

マコト!!


え?


ミサキって...

あー、千秋は面識ないんだっけ?ほら、早川岬だよ、ミサキ。ほら、美雪ちゃんの兄貴の。

...え?

なんか酷いこと言われなかったか?こいつデリカシーないから。悪気はないんだけど。

まったく、ひどいな君は。何もしてないよ。ただの、アドバイス。

ほんとか?難しいたとえ持ち出すし、初対面で二人きりとかなかなか辛いぞ?

...まぁ生徒会長様に比べたらそういうの、苦手だし。

なんだ、知ってたのか。

そりゃ知ってるさ。有名人、じゃん。

お前、もしかして...

...やめてくれ

...そうか。

(千秋の方に向き直って)よかったな、気に入られてんじゃん

......へ?

気難しい天才くんからアドバイスとか、やるなぁ

あはは、誰が気難しいって?

天才は認めるんですね

でもほら、僕より凄い人なんてザラにいるから断言はしにくいよね

たとえば誰?

......マコト

いやいや、比べるまでもなく惨敗だよ

どうかな、カリスマ性とか敵わないし

カリスマ、ねぇ。

...

で、今日はどうした?

ん?友達の顔見に来た、じゃダメ?

そりゃそうか

(笑う)

..早川さん、遅いな...

...

...

あー、なんだ、その、千秋、ちょっとガリガリ君食べたくなったから、2つ買って来てくれ

え?

いいから。ほら、500円あれば足りるだろ。お釣りはやるから行ってきてくれ

は、はい?

お前の分も買っていいからさ。

(下手くそなウィンク)

は、はい。


千秋退場

......

それで?ホントはなんの用で来たんだよ

あーあ、千秋くんかわいそ?(からかうように)

うるせぇ。別にいいだろ、それくらい。

ふぅん、

何だよ

仲良いんだね

まぁ、な。



もしかして、美雪ちゃんの事で?

察しが良すぎるのも問題だね

...そうか

美雪は上手くやれてる?

どうだかねぇ。

それは無責任だぜ、会長。(からかうように)

その話は...

なんの話?

...いや、なんでもない。



そういえば千秋と何話したよ

なんだと思う?

...教えろよ

大事なんだね、あの子のこと。

...

おい!(掴みかかる)

ちょっとちょっと、そんなに怒らないで

...不穏なことを言うからだろ


間 


勉強は、上手くいってんのか

んー、どうだろう。マコトこそ、どうなの

俺は...まぁ、な

なになに、気になるじゃん

...ほっとけ(不貞腐れて)

君が先に聞いたんだろ?

じゃあ先に答えろよ。

...僕は...進学自体、迷ってるよ

...

学校なんてさ、結局、人間関係を作る場じゃん。

...

でもさ、僕には向いてないから。

..

才能があればまだ意地張れたけど、それももう、ないから。

...そんなこと

あるんだよ、そんなこと。

君に、負けてから。



曲が流れる。群青世界(僕に足りないものは君が全部持ってる)

2人は話している。

長い空白を埋めるように。

一瞬暗転する。

少し空が赤くなる


アイス2つ買って帰ってくる千秋。


せーんぱいっ、買ってきましたよ〜!!

...

えー、俺、バニラ味買って来てって頼まなかったか?

ガリガリ君にバニラなんてないですって

そうだったか?じゃあ、もっかい行ってソーダ味買ってきてくれ、あと3つ。(1000円渡す)

2つ?

お前の分も入れて、だよ。

そうですか...?(指折り数える)あれ?

おう

千秋くん、ゴメンね?(手を合わせる)

は、はい。

...

行ってきます!!


下手側(ドアの向こう)でばったり美雪とちあき。美雪は鞄、チラシ持ってる


どうしたの、千秋くん

あ、早川さん!

ちょっと聞いてよ〜、なんかさ、知らない先輩?OB?が来て、まこと先輩盛り上がっちゃって

へぇ。

さっきも、アイス買ってこい、なんて言われて、買ってきたらやっぱり違うのがいいからもっかい、って。

...

理不尽だよねー

そう...だね

ねぇ、千秋くん

ん?

何かあった?

何かって?

その、屋上に来てた人と。

うーん、あったかと言えばあったよ、でもなかったといえば無かったかな

ふーん、よくわかんないね

へへ、そうかもね。

...

あ、そうそう、アイス買いに行かない?

アイス?お使いの?

そうそう。

その代わり、これ1個あげるから

(手に持った袋を掲げる)

学校内で食べるの禁止でしょ?

な、なんのことかな

(2人して笑う)

(ちあきはける)

(みゆき、屋上を気にしながらはける)


高3s


そう言えばさ

なんだよ

美雪、さ

またその話かよ...ほんと妹好きなのな

違うんだよ...

あ?

あいつが好きなのは、マコトだろ

...

...

...は?

部活行く度に美雪、楽しそうに君たちのこと話してるんだよ

...

美雪、だけなんだ。落ちぶれて、おかしくなって、どうしようもない僕の事、見捨てずにいてくれたの。

...

だからさ...

珍しいこともあるもんだな

...?

大きな勘違いだよ

...え?

美雪、部活に来る度、どんな話してると思う?

...さぁ。

自分の事のように、嬉しそうで自慢げに、でも少し恥ずかしそうに照れながら

...

兄貴の、お前の話をしてんだよ

...え

いくら天才でも、自分の事は見えてないんだな

...知らなかったわ

...はは、ははは(2人で笑う)


間 2人また、楽しそうに。


千秋、美雪、帰ってくる


ただいま〜

失礼しますー

あ、先輩!聞いてくださいよ!

さっき買ってきたアイス、なんと2本とも当たりだったんです!!

え、食べたのか?!

買い直せって言ったの誰ですか?

す、すまん...

千秋くん、だいぶ凹んでたんですよ?

美雪ちゃんまで、付き合わせちゃって悪いな

悪い、で住んだら...

警察はいらない、か

(みんなして笑う)

何してたんですか、先輩?

あーいやなに、旧交を温めてたんだよ

アイスは溶けちゃいましたけど



(美雪、言いかけて、辞める)

美雪、どうしたの

え?

なにか言おうとしてたでしょ?

(少し照れて)えっと、兄さんには言ってなかったコトなんだけど...

...

みんなで、これに出ようって話


 前述の、天体・星のコンクールチラシ


ちょっと待て、まだ出るとは言ってないはずだが?

大体、無理だって話になったじゃん、美雪ちゃん...

(口々に)

...そうです、けど...(プリントを持つ手の力が抜けていく

...なるほどね

あなたには、関係ないでしょ、ミサキさん

...初めて呼んでくれたね、名前。

茶化さないでください

僕はね、ただ、美雪がやりたいことはやらせてあげたいだけ。



マコトさん。千秋くん。

...なんだよ

出たくない理由は、なんですか

逆に、出たい理由はなんだよ

私は、ただ。

...

ただ、みんなで、思い出を作りたくて。

いいじゃん、出てあげれば。

シスコンは黙ってろ

ひっでえなぁ...

(ちあきの方に向き直って)

千秋くん。

な、なに?

千秋くんにとって、部活は大事?

..うん。当然。だって、僕は。僕が、先輩と...

なら、ちゃんとやらなきゃ

ちゃんと...

これを逃せば、一生後悔する。

一生...?

おい千秋、丸め込まれるなよ。コイツの妹だ。口下手なはずがない

...俺の妹に当たるなよ

当たってるわけじゃねえだろうが



だいいち、俺は高三だ。受験だって、控えてる。今更、部活に現(うつつ)を抜かしてる暇なんてないんだよ(絞り出すように)


その話を、盾にするんですね

悪いかよ...

いいえ?

...

じゃあ、(カバンから「学校生活の手引き」取り出す)

先輩。分かりますよね。生徒会長なら。

...学園生活の、手引き。

そうです。何が書いてあるか、分かりますよね。

俺を...脅す気か?

別に、そんなことありませんよ。


(美雪、ゆっくり間をとって。、余裕綽々。この場を支配。)


ねぇ、マコト先輩。いや、津田マコトさん。なんで、なんで生徒会長になったんですか、

それは...

まさか、なんとなく、とか言いませんよね

ただの...ただの推薦狙いの点数稼ぎだ...

この期に及んで...

...

私は、知ってますよ

おい...早川。やめろ。

ねぇ、千秋くん。部活って、いや同好会って何人いれば認められると思う?

それは...三人?

じゃあ、言い方変えるね。

...

ねえ千秋くん、部活の引退っていつだとおもう?

だからやめろって...!

そりゃ...高校三年生の夏でしょ...?

それは、マコトさんが言ってたの?

...

運動部だけなんだ、それ。

...

本当はね、千秋くん。文化部は二年の終わりで引退なんだよ

え......?

そうですよね、まことさん。

.........

ここが、同好会が存続する条件は三人。高二以下の生徒を、千秋くんしか知りませんけど、あとの二人は私が来るまでどこにいたんですか?

...それは...

無所属の生徒の名前書いて、誤魔化してたんですよね?実は、ここに来る前にコソッと見てきました。

...

そんな誤魔化し、本格的に調べられたらすぐバレちゃうのに。

...

それでもまだ点数稼ぎだって言えます?バレたら最悪停学ですけど。

...ただの。ただの自己満足だよ。

...

だから!俺が...ただ俺がしたいようにした、それだけだ。



...参ったな。僕の妹ながらここまで盛大にやるとは。

...マコト先輩。ありがとうございます。

だから別に...

でも、でももういいんです。

...

今からでも、まだ。やれますよね、天文コンクール。

...

やりましょうよ、みんなで。それでいいじゃないですか。

...

有終の美なんて柄じゃないかも知れませんけど、これ以上...

...

これ以上迷惑はかけられませんから。



...なぁ千昭。

...はい。

少しは、大人になってくれよ

...大人に

あぁそうだ。

美雪ちゃんも、ミサキもさぁ。

...

分かるだろ?俺だってもう3年生だ。こんな時期に仲間と夢を追う?馬鹿げてるにも程がある!友達と?はははっ!はははは!

...おい

夢なんてのはなあ!いつまでも、いつまでも見れるもんじゃないんだよ...

...

曲がりなりにも受験校なんだ。もうくだらない夢なんて見るのはやめて、現実に目を向けたらどうだ?千秋。

...先輩

...絆されないよね、千秋くん。夢を見るのが、学生の仕事だ。星を見て、憧れて。知らなくてもいいんだよ、届かないかもしれない、なんてことは。

...

背負ってやればいいんだよ。無駄な苦労なんか、させる必要ない。

...

先輩って、兄っていうのはさ。後輩を、妹の道を開く為に先に生まれてきてるんだよ

...周囲のせいで諦めるなんてこと、あっていいはずがない

ハッ!過保護にも程があんだろうがよ

...なんと言われようが構わないよ

その過保護さが将来アイツらを追い詰めるんだろう

...なんだと?


(長広舌)

夢に破れる絶望を知らず、努力が敵わない無力さも知らず、報われない愛の悲しみも知らない。過保護に育てられ、痛みを知らない子供達がいざ社会に出たらどうなる!痛みに過度に反応し、人の顔色を伺いつつおびえる!あぁ!なんて悲しい!!


...詭弁だ

詭弁でも構わない

構うよ。自分の言い訳に他人を都合よく使うことの愚かさなら、痛いほど実感しているしね。

...

大っ嫌いだよ、マコト

...

口先で人を丸め込む所が嫌いだ!他人に無条件で信用されると信じている所が嫌いだ!無責任な行動に結果が伴うところが嫌いだ!何でも...なんでも出来ると思ってるところが、大嫌いだよ、マコト!

...言いたいことはそれだけか

...いいや?

...

ずっと昔からきらいだったよ、そういう所が!俺が持ってないもの全部持ってるくせに普段はずっと謙遜してる所が!なのに自分の都合のいい時だけ才能をフルで使う所が!

...天才様にそれ言われても、なぁ

だから!そういう所が...

.........しょうもな。(食う)


え...?

みんなで終わろうって?有終の美?天文コンクール?せめて綺麗に?

...おいマコト...

なぁ、ミユキ。俺がお前の持ってないもの持ってるって?

...

しょうもな!しょうもな、しょうもない、ほんましょうもないわ!

...



ちゃうやん。

...

...一番しょうもないのは俺やんか

...

ほんまは全部、全部全部わかってるわ!わかってるけどさ...



...いいよ、コンクール。出てやるよ。

...え!

その代わり。

...

千秋、美雪、ミサキ。3人とも、出ろよ。そこでケリでもケジメでも、なんでもつけてやるから。

...(顔を見合わせる)

あと。


(みんな、少し緊張して)


ドロドロになったアイス、処理しろよ

(みんな緊張が切れて、笑う)


暗転。



綺麗なだけの言葉なんて、響かない



綺麗なあいつに届きはしない



星を貶したい


...今ここにいるのは、プライドだけ高くて、今や凡人にすら及ばない、ただの早川みゆきだ(自虐的に)


手が届かない天才には自分なんてくだらない人間のことで

曇って欲しくない


一人一人のエピソード。手早く。


拍手の音。


(原稿用紙を持って)

早川岬です。

僕は、天才だった。なんでもできた、そのはずだったんだ。

初めは、嬉しかった。父が、母が褒めてくれた。友達が頼ってくれた。先生が讃えてくれたから。

でも、僕は気づいたんだ。僕への評価が、「優等生」への評価でしかなかったって。

学校をサボっても、テストで悪い点を取った。誰も僕を見てはくれない。

僕ってなんなんだ。

ハナから特別じゃなかったんだ。

いつもまにか、手を抜いていなくても誰かに負けるようになって。

学年一の天才は、どこにでもいるような凡才になって。

やがて見向きもされなくなった。

落ちぶれた才能には誰も興味なんてない。

こんなことでは、僕の姿をずっと見てくれていた妹にも愛想をつかされてしまう。

躍起になって出馬した生徒会長選挙。

昔、俺を慕っていたマコトが相手で。

完膚なきまでに負けた。そりゃそうだよな。人気者と、プライドだけが肥大した凡人以下と。

でも、僕は忘れない。選挙が終わったあと。勝ちを喜ぶ笑顔!友達に囲われている姿!みな当然のように僕の横を素通りして、当然のようにまことの勝ちを賞賛する!その中で。

マコト、お前は言ったんだよ。僕の方を指さして。

あいつは、天才なんだ。だから、勝ったのは、何かの間違いだって。

やめてくれ!違う!違うんだ!僕はもう、とっくに堕ちた星なんだ。

光を失い、虚空に投げ出されただの石ころに成り果てた。

才能が!星が、原石が!

お前が...僕を憐れむな!僕を褒めるな!僕の過去を賞賛するな!僕を!僕を!僕を!!

綺麗な言葉なんて、いらない。

頼む、頼むよ…

なぁ、マコト。

俺を、俺だけを見てろよ、マコト!!


続いて


(原稿用紙を持って)

早川美雪っていいます。

私は、兄が大好きです。

なんでも出来て、優しくて、だからずっとわたしの憧れ。

でもある日、兄は落ち込んでしまいました。

自分にも、持っていないものがあると、気づいてしまったのです。

それは友達や、人望。そんな、取るに足らないものでした。

落ち込んで、落ちぶれて、自信を失った兄を見て、私はとても辛く思いました。

選ばれた天才は、凡人を見る必要などないのだと。一番星が、全てをなげうってまで手に入れるものなどないんです。

存在するだけですべてを照らす、その綺羅星のような姿をもう一度。

ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは1番じゃない自分でいることに言い訳してるだけじゃない。その場ににとどまることを本当に妥協できたの?受け入れられた?それで、過去の自分に顔向けできるの?



(原稿用紙を握って)

...僕は、千秋。

天文部の、高校二年生です。

部活には、唯一の先輩部員がいます。偉くて、真面目で、でもふざける所はふざけて、愛くるしくて、後輩思いで。

そんな先輩との日々がずっと、ずっと続くと思っていました。

でも、結果は違います。

当たり前、当たり前ですよね。そんなこと。

そんな折、先輩は途端に来なくなりました。彼が部活に顔を出さなくなって、僕は1人残されて、それで。

本当は知っていました。来れない事情があるんだろうって。でも、僕を見捨たんだ、なんて妄想じみた結論を捨て去ることなんて出来なかったんです。

怖くて、とても怖くて、足が竦みました。

凡人の僕には測れないような。



(原稿用紙を握りしめて)


俺は...


(ハウリング)


俺は、仲間に恵まれている、少なくとも、そう思う。

俺を慕ってくれる後輩だっているし、俺を特別視してくれる友人やその妹もいる。

...なんの才能もない、ただ口だけの俺なんかに、勿体ないくらいで。

だから。

俺なんかの背中なんて見なくていい。反面教師にすらならないだろうから。

夢なんて、星なんてさ。いつか見えなくなるんだよ。俺達はさ、いつか都会の明かりに慣れて、空を見上げることも無くなって。


ははっ、何言ったってお別れの言葉みたいになっちゃうな。笑えてくる。

でもさ。


...ありがとう


そして、マイクの前で、何かを喋る。無音で。どんどん暗転していく。



負けて帰ってくる。どうしようもなく、辛い。辛いけれど。


...負けたな。

負けたね。完膚無きまでに。

ぼろ負けですね。

でも、楽しかった

言いたい放題だったもんね(笑いながら)

あながち間違ってもいないでしょ?

同感。

でも



今年が最初で最後、なんだよね。

...

千秋くんだって来年は三年生。お兄ちゃんとマコトさんは、そもそも学校にいないじゃん...

...

..

せっかく、せっかく...(泣きそうな声)

(ポン、と手を頭に置く)

ほら、心配しないで。来年は、新入生たちを連れてこればいい。

千秋君だって、まだ高校生だろ?

...

強制はしないけどね。

それに



僕達は遊びに来るから。

...俺らは部外者だろ、もう。

それはそっか。

少なくとも、僕は行くよ

千秋くんが来てくれるなら安心だね。

そういう事だから(笑いながら)



美雪、千秋を上手側に連れていく。


どう?

どうって...

千秋くん、あんなこと考えてたんだ。

は、早川さんだって相当でしょ。

いいじゃない?(クルッと回って自らの手を伸ばしつつ後ろで組む)

お互いに、頑張ろうね

??なんの話?

恋の話。

???!!


下手側。


これからどうする、か。

へへ、うちの妹ながら強烈だったね。

あぁ。

お前は、どうする

...僕は。

...

僕は、大学、目指そうと思う。

今からか?

あぁ。難しいことはわかってる。

...学校名は聞かないでおく。

そうだね。...何年か、足踏みすることになるかもしれない。

...

けどね。

...

やっと僕にも目標ができたんだよ。

...

美雪に、もう一度格好いいお兄ちゃんの姿、見せてやりたいしね。

そうか。

マコトはやっぱり、推薦取るの?

どうだかねえ

なんだそれ(笑いつつ)

だってほら、あの子の居場所、守ってあげたいんでしょ?

...

愛が重すぎるよ

(一瞬驚いた顔をして、微笑む)さぁな。


ねぇ、先輩達、見てっ!


客席の上を指差す千秋


満点の星空

各々のポーズ?で見てる四人。

次第に青天。みんなはしゃいでる(声は出さない)


流れ星、きらり。

指さす。

M、次第に大きくなる。


青天から黒くなって落ちる。

閉幕。

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あの夏の残滓 i & you @waka_052

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