―21― 追走

 雄叫びをあげた鋼鱗竜アセーロドラゴンと対面していた。

 鋼鱗竜アセーロドラゴンの鱗は剥がれ落ち、内面が露出している。鋼鱗竜アセーロドラゴンはその鱗のおかげで、高い耐久力を維持している。

 鱗が剥がれ落ちた今なら、耐久力は大幅に低下しているわけだが、そもそも俺自身の攻撃力が尋常なく低いため、戦況に大きな変化はないだろう。

 とはいえ、〈地雷〉や〈巨大爆弾〉はまだ至る所に設置している。

 多少は警戒されるだろうが、鋼鱗竜アセーロドラゴンが俺を狙い続ける限り、罠を設置している場所まで誘導することができる。


「クガァアアアアアアアアアアッッッ!!」


 高く跳んだ鋼鱗竜アセーロドラゴンが俺のとこまで急降下してくる。極力、地雷があるかもしれない地面を踏まないようにっていう考えだろう。

 とはいえ、こちらには〈繰糸の指輪〉がある。

 避けるのはお手の物だ。

〈繰糸の指輪〉から発せられる糸を遠くに飛ばして粘着させ、体をその地点まで引き寄せる。


「ついでに、爆弾をプレゼント」


 移動しながら〈手投げ爆弾〉をほいっと投げて、鋼鱗竜アセーロドラゴンに当てる。

 鋼鱗竜アセーロドラゴンは一瞬怯むが、それでも俺に果敢に飛び込んでくる。

 だから、再び〈繰糸の指輪〉を使って、避けては〈手投げ爆弾〉を投げて、攻撃。

 よしっ、いい感じだ。

 もう少し誘導すれば、次の罠を設置しているポイントまで辿り着くことができる。


「ん?」


 そう言葉を紡いだのは意味があった。

 鋼鱗竜アセーロドラゴンが俺につっこんでこなかったのだ。鋼鱗竜アセーロドラゴンは獰猛なモンスターとして知られ、冒険者を見れば執拗に責めてくるモンスターだ。

 そのモンスターが俺に突っ込んでこなかった。

 いや、それどころか。

 俺に対し、背を向けて逃げていた。


「まずいっ」


 確かに、モンスターは冒険者に対し、敵わないと判断したら逃げるという選択をとることがある。

 とはいえ、簡単に逃すつもりはない。

 俺は追いかけようとするが――。

 バサッ、鋼鱗竜アセーロドラゴンは翼を広げ、崖から飛び降りたのだ。鋼鱗竜アセーロドラゴンは体が重く空を飛ぶことはできない。だが、滑空することは可能だ。

 だから、崖から落ちても滑空することで安全に着地することができる。


「くそっ」


 流石に、この崖を飛び降りるのは難しい。

 だから、遠回りをする必要があるため、俺の足では追いつけないか。


「フィーニャッッッ!!」


 だから、俺は真上を向いて叫んだ。


「呼んだか、主様」


 数十秒後、狐の姿をしたフィーニャが俺の前に姿を現す。


「逃げられた。だから、お前の力が必要だ。俺を標的のところまで運んでくれ。臭いで追うことはできるだろ?」

「あぁ、おぬしに言われずともその程度造作もない。ほれ、わらわの背中に乗るが良い。すぐに、追いついてやる」


 そういうことなので、フィーニャの背中に乗って、すぐに移動を開始する。


「それで、標的を無事倒すことはできそうなのか?」


 移動中、フィーニャがそう話しかけてきた。


「正直、厳しくなった」

「むっ、おぬしが弱音を吐くとは珍しいのう。遠くから、戦っている様子を見させてもらったが、おぬしが終始圧倒しているように思えたがの」


 確かに、鋼鱗竜アセーロドラゴンとの戦いは今まで順調だった。

 しかし、これからはそうもいかなくなる可能性がある。


鋼鱗竜アセーロドラゴンは遠くに移動してしまったからな。流石に、その地点には〈地雷〉も〈巨大爆弾〉も仕掛けていない」

「だったら、新しく仕掛ければいいだろ」


 確かに、フィーニャの言うとおり、〈アイテムボックス〉の中には余っている〈地雷〉と〈巨大爆弾〉がある。

 だから、再び仕掛けることも可能だが。


「新しく仕掛けても意味がない可能性が高い」

「それは、なぜじゃ……?」

「俺の罠を使った戦術は、モンスターが俺に対して突っ込んでくるという前提があるから、成り立つってのはわかるか?」

「ふむ、確かに、〈地雷〉にせよ設置した〈巨大爆弾〉にしても、おぬし自身を囮にすることで、敵の動きを誘導できるからうまく嵌めることができるのかもしれぬな」

「あぁ、だけど、鋼鱗竜アセーロドラゴンは俺に対して逃げるという選択をとった。それをされると、罠に誘導することはできない」


 鋼鱗竜アセーロドラゴンは俺を警戒して、逃げることを選んだ。

 そして、それは今後鋼鱗竜アセーロドラゴンと直接対面しても、俺に突っ込まず逃げるという選択をとられる可能性があるというわけだ。

  

「だったら、おぬしの得意な弓矢を使うか、〈手投げ爆弾〉を投げればいいんじゃないのか?」


 確かに、罠なんて回りくどいことをしなくても、弓矢と〈手投げ爆弾〉があれば攻撃することは可能だ。

 だが、それには大きな問題がある。


「弓矢も〈手投げ爆弾〉も攻撃力が貧弱だ。日の入りまでに倒せないかもしれない」


 これからは逃げる鋼鱗竜アセーロドラゴンを追いながら戦うことになるだろう。そうなれば、こちらの攻撃できる機会もぐっと減る。

 そうなれば、低い攻撃力を与えるしかできない俺では日の入りまで倒すのが難しい。


「夜になる前に倒せなかったら、今回の討伐が失敗なのは理解できるよな?」

「そうじゃのう、夜に戦うのは危険じゃからのう」


 フィーニャがそう言って頷く。

 そう、夜というは危険だ。

 まず夜になると、俺自身は見えなくなる。

 そんな中、モンスターと戦うのは非常に危険だ。

 とはいえ、なにも見えないなら、松明を使えば明るさに関しては改善されるが、明かりを手に持つということは、他のモンスターを引き寄せる可能性が高くなるというわけだ。

 俺が鋼鱗竜アセーロドラゴンと戦っている間に、モンスターに乱入されたら、倒すどころではなくなってしまう。

 まぁ、それ以前に夜になっても戦うほど、俺の体力がもたないという問題もあるんだがな。


「つまり、おぬしは詰んだということじゃな」

「なんで、嬉しそうなんだよ」

「おぬし一人の力で倒せなくても、わらわと協力すれば倒すことが可能じゃ。それには、わらわと契約する必要がある。ほれ、今すぐわらわと契約しろ」

「嫌だ」

「むっ、おぬしも強情よのう。おぬしと結婚なんかしたら、さぞ苦労させられるに違いない」

「ひどい言い草だな」

「事実じゃろうに」


 と、会話に一区切りついたと同時、遠くに鋼鱗竜アセーロドラゴンを視認する。

 なので、フィーニャは立ち止まり、俺は背中から飛び降りる。


「それで、わらわと契約しないということは、アレを倒せる手はずがおぬしにあるってことでいいのよな?」

「あぁ、そういうことだ。だから、お前はそこで大人しく見ておけ」


 そう言うと、フィーニャは笑って、俺の邪魔をしないようにと、遠くへと去って行った。


「それじゃ、第二ラウンドといこうか」


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