―08― 言い訳

 大爪ノ狼マンビブロボの討伐を終えた俺は、素材を回収して、森を抜けることにした。

 道中、ついでとばかりに薬草の採集も行う。

〈鑑定〉がレベル3になったおかげで、薬草の〈鑑定〉もできるようになったため、効率的に採取することが可能になった。

 あとは、時間があるときに〈調合〉を用いて、ポーションを作ってみようと思う。


 そんなわけで馬車を乗り継いで、冒険者ギルドのある町まで戻った。


「あの、換金のお願いに来たんですけど」

「はい、いいですよ」


 カウンターにいる受付嬢が快く頷いてくれる。


「では、これをお願いします」


 と、言いながら大爪ノ狼マンビブロボの素材を〈アイテムボックス〉から取り出す。


「え、えぇぇええええええええっっっ!?」


 なぜか、受付嬢が絶叫した。


「あ、あなた、この前、冒険者になったばかりの方ですよね!?」


 そういえば、この受付嬢は以前、俺にギルドカードを作ってくれた人だったな。


「そうですけど……」

「いやいやいや!? 初心者の冒険者がレベル60以上のモンスターを持ってくるとかあり得ないですよ!?」


 んなこと言われても……。

 現にこうして持ってきたわけだし。


「おい、なんかあったのか?」

「あっ、ジョナスさん!」


 様子をうかがいに来た冒険者を見て、受付嬢はそう叫ぶ。


「って、この前の錬金術師の坊主じゃねぇか」


 ジョナスと呼ばれた男は俺のことを見て、そう呟いた。

 どこかで会ったか? と、一瞬思考して、あぁ、この前俺に冒険者をやめるよう忠告したおっさんだと思い出す。


「お前、錬金術師は冒険者に向いてないからやめとけ、と忠告したじゃないか。なのに、なんで冒険者ギルドに?」

「彼、この素材を持ってきたんですよ!?」

「って、大爪ノ狼マンビブロボの素材じゃねぇかよ! 初心者が持ってきていい素材じゃねぇぞ、これは!?」


 よほど驚いたのか、ジョナスはそう言って叫ぶ。


「流石に、一人でこれを狩ったわけじゃないだろうな?」

「まぁ、一人ではないですね」


 早く換金してほしいなー、という思いから、否定せず話を合わせることにした。このほうが早く解放されそうだ。


「ちなみに、誰とパーティーを組んでいるんだ? 俺の情報網では、大爪ノ狼マンビブロボを狩れるだけの実力がある冒険者が初心者とパーティーを組んだなんて聞いてないんだけどな」


 参ったな。そこまで、話を深掘りされるとは。

 さて、なんて答えるべきか。


「えっと、ボブって人とパーティー組んでます」


 テキトーに思いついた名前を口にする。

 ボブってよくある名前だし。これで、なんとかなるだろう。


「ボブか。確かに、あいつなら大爪ノ狼マンビブロボを狩るだけの実力はあるな」


 よしっ、なんか知らんけど、うまくいった。

 どこぞのボブよ。ありがとう。


「おい、ボブ! ちょっと、こっちに来い!」

「なんすか? ジョナスのおっさん」


 おーい、なんで、お前が冒険者ギルドにいるんだよー。


「ボブ、こいつとパーティー組んでいるって本当か?」

「いや、知らないっすよ。こんなやつ」


 どうやら俺の嘘があっけなく破綻したようだ。ちっ。


「おい、これはどういうことだ?」


 ジョナスがしかめっ面で俺のことをにらむ。

 はぁー、うっざいな。


「えーと、なんか、たまたま森にいたら、このモンスターが崖から落ちているとこに遭遇したんでー、それでラッキーと思って、素材を換金してもらおうと来たんですよー」


 どうせ、俺が倒したと言っても、信じてもらえないだろうし、誤魔化すことにした。

 モンスターが崖から落ちたって部分は当たっているし。


「モンスターが崖から落ちるって、そんな都合のいいことあるのか……?」


 と、なおも俺のことを疑う。


「あの、ユレンさん。失礼でなければ、あなたのことを鑑定してもよろしいでしょうか?」


 ふと、受付嬢が俺のことを名前で呼んで、そうお願いしてくる。

 冒険者を鑑定か。

〈鑑定〉のレベルが低い状態で冒険者を鑑定しても、名前とジョブ、それからレベルしかわからない。

 それだけなら、正直見られても問題ない。

 スキルを鑑定されるのは嫌だが、確か、他人のスキルを鑑定するには、スキルのレベルが相当高くないとダメだったはず。

 だから、大丈夫だろう。

 そう判断した上で、俺は「いいですよ」と頷いた。


「では、させていただきますね」


 と受付嬢は言って、俺のことを鑑定する。


「どうだ?」


 と、ジョナスが質問する。


「えーと、ユレンさんのレベルは1ですので、ユレンさんがモンスターを倒したわけではないかと。なので、本当に崖から落ちたモンスターを回収したんでしょうね……」

「だが、どうやってここまでモンスターの遺体を運んだんだ?」

「あぁ、それなら、彼〈アイテムボックス〉持ちですので、その点は不自然ではないかと」

「お前、〈アイテムボックス〉を持っているのか……!」


 ジョナスが目を見開いて俺のことを見る。


「そういうことなら、納得はできなくはないのか……」


 どうやら、騒動は無事収束したようだ。

 それから大爪ノ狼マンビブロボの素材を換金してもらい俺は十分の有り金を得た。

 流石、レベルが60のモンスターなだけあり、換金したらお金を大量にいただけた。


「この前、あんなことを言って悪かったな」


 ふと、ジョナスが話しかけてくる。


「あぁ、いえ。気にしてませんから」

「〈アイテムボックス〉を持っているなら、不遇職でも冒険者としてやっていけるだろうからな」


〈アイテムボックス〉は自分でモンスターを倒して獲得したんだけどな。


「あぁ、ちゃんと自己紹介してなかったな。俺はジョナス。レベルは200を超えているBランク冒険者だ。ジョブは見て通り、大剣使い」


 ジョナスはそう言いながら、背中の大剣を見せびらかす。


「この冒険者ギルドでは顔役として、そこそこ人望はあるはずだから、なにか困ったことがあったら、俺を頼ってくれ」


 レベル200を超えているってことは、それなりに熟練の冒険者であることに違いない。

 この冒険者ギルドでの顔役なのも納得だ。


「ユレンと申します。こちらこそ、よろしくお願いします。それと、なにかあったら頼らせていただきます」


 今後もここの冒険者ギルドを活用する予定なので、仲良くするに越したことはない。なので、丁寧に挨拶をする。


「それで、早速で悪いが、ユレンに相談ごとがあるんだが」

「はい、なんでしょう」

「実は、今、新人の冒険者を集めて教育実習をしているんだが、お前もそれに参加しないか。他にもお前のような新人の冒険者がいるからな。仲良くなるきっかけにもいいと思うぞ」

「…………全力でお断りします」

「おい、なんでだ!?」

「ソロで活動したいので」

「いやいや、そのジョブでソロは厳しいと思うぞ! どっちかという支援職だろ錬金術師は」

「………………」

「おい、無言で逃げるな!!」


 ダッシュで逃げた。

 俺は強いモンスターを倒したいだけなのに、新人研修とかやってられないだろ!

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