夢に桜を恋に手を

くうき

夢に桜を恋に手を

 夢に咲いたあの日の恋は気が付いたら熟された腐りかけていた。それでも、好きという本音を嘘で隠すことだけはしたくなかった。高校3年間で積み上げてきた恋心を私は・・・無駄にだけはしたくなかった。


 卒業式まで残り3日を切り、気が付けば彼のことだけが頭の中で過っていた。

「・・・」

「ちょっと!?くるみ!!大丈夫!?」

「あっ・・・・う、うん。大丈夫だよ。」

ちなみに、余談だが私の名前は乙坂くるみだ。突如話を切って御面なさい。

 しかし、ぼおっとしている。彼が視界に入るだけで私はいつまでも傍観とため息を繰り返す。その姿を見て友人から心配をされてわ、それに間を置いて回答する。・・・まるで、3年前のあの日と同じようだった。


~2年前、とある冬の日の一幕にて。~

「あっ、乙坂。」

「ども、小鳥遊くん。」

「・・・」

「・・・」

夕日なんて存在しない寒い寒い放課後、私はたまたま隣の席の男子である小鳥遊くん。基、小鳥遊和樹たかなしかずきと一緒に帰ることになった。


「「・・・・」」

しかし、帰ってみてわかるのがいつも話さない人と帰ると、静けさが倍増する、それだけだった。そんな時だ、彼はいきなり私に声をかけ始めた。

「なぁ、乙坂。」

「ん?何、小鳥遊くん。」

「お前って、なんか夢持ってる?」

「・・・へっ?」

いきなりの質問に、私は鳩が豆鉄砲を食らったようにおとぼけた表情をする。

「あぁ、なんかごめんな。いきなり変な質問して。」

「い、いや。問題ないよ。・・・でも、夢かぁ~。」

「・・・あるか。」

「あっ!」

思い出したように私は手をポンと叩いて少しだけ腰を上げて話し始めた。


「う~ん、笑わないで欲しいんだけど私はねイラストレーターになりたいんだ。」

「・・・はぁ。」

「あれ?これは、続けた方がいい感じ?」

「あぁ、頼む。」

そこから、小1時間ぐらい彼と夢について話していた。そうすると、彼は笑顔で最後に、

「ありがとう。・・・いい夢だな。」

その一言、肯定を示してくれた一言が・・・心臓に高鳴りを与えてくれた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 回想終了。そんな、しょうもない過去だが、私にとっては思い入れの深い過去だ。

そんな懐かしい時間も、気が付けば風化されていく。そんな夢物語だ。


 突飛な妄想をしていたら、気が付けば卒業式当日を迎えていた。先生の面倒くさい話を適当に聞き流し、歌を歌い、証書を貰って退場して、一人一人が思い出を語る。

「はぁ、やっと終わった。」

時計の針が12を指そうとしているその瞬間は、何処かシンデレラのように時間を気にしている素振りをあたかも見せる。

 その時だった。桜の花びら一枚が私の髪にかかると同時に、小鳥遊くんが目の前に立ちはだかった。

「な、なぁ。乙坂、一緒に帰らないか?」

約二年、話してなかった私の答えは・・・言わずともわかるだろう。


 帰路に入り私たちは沈黙の空間に投げ込まれた。その時の雰囲気は眠さに耐える不機嫌な4時間目の空気・・・って言ったら伝わるだろうか。

「な、なぁ。乙坂。」

「ん、何?小鳥遊くん。」

それでも、頬は熱かった。しかしそれは、私だけではなかったようだ。

(あっ・・・)

気づいてしまった。彼の表情が私よりも赤く、そして火照っていることを。

「少しさ、寄り道しないか?」

「う、うん。」

少し寒い春の日のこと、私は想い人と共に公園に歩みを進めた。


 誰もいない公園の片隅で、時間を少し潰し、談笑して気が付けば夕日が差そうとしていた。

「・・・ははは」

「ハハッ・・・」

乾いた笑いがうっすらと正体を現し始める。時計の針は12から反対の方向を示している。

「あっ・・・そろそろ帰らなきゃ。」

「っ!!」

私は、わざとらしく逃げようとすると、彼は私の腕を掴んで細々と告げていく。

「少しだけ・・・話を聞いてくれないか?」

「・・・うん。」

卑怯な私に小鳥遊くんは、チャンスを与えてくれた。

「・・・」

この日、高校を卒業して、肩書が空白になった。その瞬間埋めたいものは何かと聞かれたら、どう答えるのだろうか?その時、頭は真っ白に染まる。


「「・・・・」」

気まずさと火照った体が、夕日によって曲線と影を鮮明に表していく。

「ね、ねぇ。小鳥遊くん。」

「な、なんだ?」

「あの日のこと・・・覚えてるかな?2年前の、始めて話した時のこと。」

「っ!?な、何でそれを・・・」

私は、少しだけ意地悪したくなった。・・・まぁ嘘だ。少しだけ、風が押してくれるように感じたから、私は少し過去の話をしていった。

「その時さ、君は私に、夢について聞いてきてくれたじゃん。」

「あっ・・・」

「そして、私の夢に笑わずに・・・いや、肯定してくれた。」

「あぁ、したな。イラストレーターになりたいって。それは、俺にはできないし・・・」

「だからかも。・・・小鳥遊くん、いや。和樹くん。」

「!?!?」

「あなたの夢は・・・何ですか?」

「俺の・・・夢?」

その時、和樹くんは固まった。だから私は、さらに追い打ちをかけてやる。

「ちなみにだから、言っておくね。私、今夢を叶えようとしてるの。」

「・・・は?」

「・・・何だと思う?」

「・・・分からない。」

「ふふっ!そうだよねっ!じゃあ、正解は・・・」

そうして私は、彼の耳元で、そっと正解を囁いた。

「・・・あなたの、恋人だよ。」

「・・・っ!!」

その時、少し早く咲いた桜の花吹雪が舞った。彼の顔はそのおかげで隠れていた。

「・・・好きだよ、和樹くん。」

確実に赤くなっている頬に唇を当てた。恋は、もう掌の上に転がり始めていた。



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