かつて、いじめられっ子だった一人の独白

ヘイ

いじめてたけど、心を入れ替えました!→「はあ?」


 小学生に上がった時、俺は多分、期待していたんだと思う。だって、同じ保育園に居た友達とは離れて、新しい生活が始まると感じていたから。


 同じ地区、つまりは比較的家の近い人ととなりの地区の同級生。多分、俺を含めて四、五人だったはず。

 直ぐに家が近いから遊ぼうと言う話になって、不安もなかった。正直、俺は生きてきた中で「いじめ」と言う物を理解していなかったと思う。


 そもそも、この前まで保育園児だった俺がいじめという言葉を理解していると言うことは無かったと思う。

 ある日、入学から何日か経った日。

 その日も、皆んなで下校していた。

 楽しかったんだと思う。

 俺だけは「途中までは」なんて枕詞が付いたけど。

 

「うっ、げっほ……」

 

 突然、腹に衝撃を感じて蹲った。

 殴ってきたのは隣の学区のMという奴だった。

 

「ぁぁああああ」

 

 俺が痛みに耐えられず(正直、子供だったと思う)泣き叫べば、Mは大笑いしながら「泣いてるのか、笑ってるのか分かんねー!」と言って逃げる様に帰って行ってしまった。

 

 そこはそのMと同じ地区のAの家のすぐ近く。放課後といっても小学一年生の放課後で全然、人は通ってなかった。

 ただ、偶然通りがかったおばあさんが心配そうに尋ねてきて、それが分かったからMも逃げたのだと後からは考えられた。


 俺が受けた被害の中で、個人的に一番キツかったのがこのMからの仕打ちだった。

 それからと言う物、小学五年生頃まで彼らからのいじめが行われた。

 

 と言っても、小学生の頃の経験なんてあやふやな物でただ、強烈な印象に残っている物を何個かでも紹介出来たらと思う。

 

 例えば、俺はもういじめが嫌になってて、死んでやると脅しを掛けたが、そいつらはガキだったから。

 人が死んだ所でどうなるのかなど考えなかったんだろう。だから、平気で「死ねよ」と笑っていたし。

 俺はそんな生活が嫌になってきて、ある日に仕返しをする事にした。このいじめのリーダー格とも言えるTが俺の後ろの席だった事もあり、落とし物の鉛筆が回ってきた時に態と動かしてやった。

 狙いなんてなかったし、どうせバレやしないと思ってた。そいつが目の当たりを抑えて喚くものだから、俺は少しだけ気分が良くなったのも確かだった。

 大概、俺は反抗しようとは思えなくなっていて、どうしたってどうにもならないとは理解していた。だから、振り返ってみてもこれが最大の抵抗だったかもしれない。

 

「何でこんな事するんだ」

 

 と、そう尋ねた事もあった。

 返ってくるのは楽しいからなんて物ばかり。こっちは楽しくねぇんだよ、と不快な感情が湧いてきた。

 この頃の俺は荒んでいたと思う。家に帰ってきたら殺意を込めてサッカーボールを蹴る毎日だった。怪我ばかりして帰ってくるもので親には心配されたり、連絡帳に先生への相談と言う物が書かれたり、と。

 それが効果を示したことは無かった。

 

 何せ、先生からの返答も、「問題なく過ごしてると思います」というくらいのものだったからだ。

 

 俺は一人で帰りたくても一人で帰れたことはない。だってコイツらが待ち伏せしてたから。一番楽だったのってなんだったっけ。

 

 一番、キツかったのは覚えてるけど。

 休みの日以外は毎日やられたし、色々感覚がバグったと思ってる。あと、価値観も。

 三年生だか、四年生くらいの時に転校生が来てその頃からいじめはヒートアップした。俺の地区と同じ地区、俺以外の奴らと仲良くなっていじめグループの一人になった。

 そいつはYとしよう。

 

 まあ、色々あった。田んぼに突き落とされたり、蹴られたり。人ってここまで来ると助けてほしいとかじゃなくて、誰も構わないで欲しいってなるんだと初めて知った。

 

 ある冬の日。

 何故か、Mと一緒に帰ることになって、俺は離れたいと思いながらも俺に歩幅を合わせるものだから距離を作れずにいた。

 今日は何もないと思ったら、雪の中に後頭部を突然に掴まれて何度も突っ込まれた。息ができなくて、死ぬかと思った。

 家に帰る時には唇が大きく腫れ上がっていた。

 

 また、別の日。

 俺は踏切で前を歩いていた、家が一番近所のFの背中(ランドセルだな)に軽く体当たりをした。

 その程度なら、「止めろよ〜」とか、そんくらいで終わると思うじゃん。次の瞬間、顔面を地面に叩きつけられた。

 唇と鼻から血を垂れ流し、たぶん涙も出てたと思う。自分が悪かったと思うけど、ここまでは流石にないだろ。

 そんな俺を見かねてなのか、どうか分からなかったけどTの兄が心配して声を掛けてくれた。

 結局、その日は「大丈夫です」って言って俺は一人で帰った。

 

 時間はかなり飛んで、このいじめ問題が解決したきっかけは、俺の頭にTが投げた石が当たった事だった。

 まあ、うん。

 完全に俺の精神は終わってたと思う。流れ作業的にいじめを受けてたし。その日は確かAに落ちてた木の棒で首をぶっ叩かれたり、Tに胸元殴られたり。その後の集団での石投げがあった。

 あんまり思い出せないけど、後日、同じ部活の部員に頭にタンコブが出来るのが見つかってそのまんま先生にー……って感じで、この俺に対するいじめの件は幕を下ろした。

 簡単な会話にしてみる。

 

先生「T、お前がいじめてたんだな?」

 T「…………」

先生「同じ地区なんだから仲良くしなさい、謝りなさい。Wもそれでいいな」

 俺「あ、はい」

先生「ほら、T」

 T「ごめんなさい」

 俺「うん」

 

 いや、全く。

 どう考えても、俺はガキだったと思う。というか、小学生が、先生立ち会いの元にこんな事をしたら、謝らなきゃならないし、許さなきゃならない。

 でも、考えてみたらコイツは俺の人生とか価値観とかを歪めたんだから、もっと苦労して欲しかったと思う。というか、これから一生苦労して欲しかった。

 こんな世の中じゃいじめたもの勝ちの世界だと、俺は思う。謝れば許されるとか、人一人の人生を歪めておいて軽すぎるだろ。

 いじめってのは長い目で見れば殺人だと思うんだけど。

 俺は殴る蹴るとか、それが当たり前になってたりしたし、コミュニケーション能力がクソみたいになった。

 

 以上、俺の話終わり。

 

 はー、疲れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かつて、いじめられっ子だった一人の独白 ヘイ @Hei767

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ