聞き分けのいい奴隷エルフ娘の蛮族ランド暮らし

大和田 虎徹

アニン、もしくはエルフ語で1

「あたし、奴隷になるのね」

「妙に聞き分けがいいな」

「そうね、あたしのおでこを見て。これはハイエルフの証。あたし、ハイエルフの先祖返りなの。フィエンデリシスの森にいる氏族は、ハイエルフを『野蛮で傲慢な古くさい連中』って、排斥してるの。先祖返りも例外じゃないのよ」

「なるほど、どっちにしろ奴隷なのか」

「そうね。いっつもアニン、アニンって。番号で呼ぶのよ。本名はエルシアレーヴェなのにね。フェルジーネシオもトゥレって呼ばれてたし」

「そいつはグレングスが入手した。取り分のほとんどがあの強欲なオークに持って行かれたさ」

「ふうん、あのオークはグレングスっていうのね。あなたは?そもそも種族は何なのかしらね」

「俺か。俺はデギバザ。種族は食人鬼だ」

「食人鬼も種族なのね」

「まあな。オーガの変種だ」

「親がそうなのかしら」

「いや、ここ数百年は食人鬼から食人鬼が生まれる」

「なら数百歳くらいね」

「まだ若いさ。そもそも、食人鬼は寿命がない。他生物の寿命を喰らい生きながらえる」

「あら怖い」

「他の連中も肉を食うくせにな」

「それもそうね」

「お前さんはいくつなんだ?」

「二十後半。エルフとしてはまだ子供ね。それなのにリシャ引きさせて暇つぶしや八つ当たりに殴られてしまいには強姦よ」

「今のエルフの方がずっと野蛮じゃないか」

「野蛮よ。それ以前に、今の世の中じゃどんな種族も野蛮なのよ。タスマンも、エルフも、ドワーフも、他の種族もね」

「タスマン、ああエルフ語でトールマンのことか」

「そうね。昔の言葉で『ただ生きる生き物』って意味。嫌味よね」

「嫌味だな。ところでリシャとはエルフの文化か?」

「あらそうだったわね、フィエンデリシスの人力車よ。引くのは大抵ハイエルフの先祖返り、まああたしのことなんだけど」

「どこもかしこもろくでもないな」

「これが世紀末っていうのかしら。それとも修羅の国?」

「地獄絵図だろ」

「いいわね。どの種族も蛮族に早変わり、地獄絵図よ」

「こうして奴隷にしても刃向かわない奴もいるからな」

「あたしのことね。ところで、どこに行くのかしら」

「天空都市、空楼街。魔漏人の金持ちが運営している一大マーケットに出品するんだ」

「あら楽しみね。大抵のことはやられたけど、森の外は初めてなの」

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