ある悪魔の災難
しろ
ある悪魔のプロローグ
俺はリアン。悪魔だ。誰もが想像するあの人々を自分勝手に陥れ、恐れられるあの悪魔、なのだがここ十年ほど妙なものになつかれている。これは俺にとって今一番の疑問であり悩みなのである。妙なものというのは『天使』である。そう、今想像したであろう白い服と翼をもったやつだ。悪魔が天使になつかれるなんて聞いたことがないだろう。俺もない。六百年ぐらいは存在しているオレですらつゆほども聞いたことがない。
「あ、リアンだ!やっぱりここにいた~」
この気の抜ける声、タイミングよく件の天使が来やがったようだ。ちなみにここは東京の無数にある高層ビルの屋上。俺は端に腰かけている。天使は真っ白な翼を広げ俺の目の前に姿を現した。
「またお前かよ。」
不機嫌な気持ちを隠さずに音に乗せるが、この少女の姿をした天使は気にすることなく俺の背中に体重をかけてくる。重い。
「えー。そんなこと言わないでよ~。せっかくリアンがお仕事終わるまでまっててあげたのに」
「待っててくれなん言ってねぇし重い!」
腕で天使を振り払うと背中から重さがなくなる。
「女の子に重いとか言っちゃダメなんだよー。これはおしおきが必要だなー。」
えい、と子供が無邪気に遊ぶように天使は俺を突き飛ばす。俺の身体は重力に従って空中に投げ出される。しかし俺も飛べないわけではない。悪魔のイメージにもあるだろうあの黒い蝙蝠のような翼だ。それが俺にもある。しかし今の俺の服装だと背中側の布を突き破らなくてはならない。割と気に入っている服なのでできるだけやりたくない。そんなことを考えていると思っていたより早く体に衝撃があった。しかしふわりとした衝撃で地面に突っ込んだ感じではなかった。頭にはてなが浮かぶが、直ぐに視界に入った真っ白なものに俺はすぐにこれに受け止められたと気が付いた。
「てめぇもいたのかよ」
俺を受け止めたのは俺を突き飛ばしたのとは違う少年の姿をした天使である。しかしこの天使にもなぜか俺はなつかれている。二人同時に来るなんて今日は運が悪い。
「やあリアン。元気?なんで落ちてきたんですか?そんなに僕に早く会いたかったんですか?」
俺を姫抱きしながらこの天使は思ってもいないようなことをつらつらと述べる。
「あほか。んなわけねぇよ。あいつに落とされたんだよ。くっそ。
つか、下ろせ自分で飛べる。」
「くそとか言っちゃだめですよ?でも、あの子はもうついてたんですね。」
俺のぼやきを適当に流しつつ天使は屋上へ向かう。
「あ、ルーくん。おつかれさまー。今日は合流できたね」
ルウくんというのはこの少年の姿をした天使のことだ。
「エスト。君もおつかれさまです。」
少女の方はエストという。なぜ俺が今更二人の名前を言い始めたのかここまでなぜを呼ばなかったのか、それは簡単だ。俺が普段呼んでいないからだ。天使の名を呼ぶなんて嫌だろう?
「あ、二人そろったんだし名前、呼んでくれるよね?リアン」
俺が考えていたことを読んだようにエストは俺に問いかける。確かに俺は天使が二人そろっているときは紛らわしいのでそれぞれの名を呼んでいる。しかし本当は呼びたくない。なので二人そろってしまう時は運が悪いのだ。
「わーったよ。エスト、ルゥ早く俺の前から消えろ。これでいいだろ。」
「もー暴言混ぜないの」
エストは文句を言いつつぐりぐりと俺の頬をいじる。
「でも、きみはそんなことを言っていても自分から僕らと距離を置こうとはしませんよね。」
「……。」
確かにそうだな。自分から距離を置けばいいのか。でもそれだと俺が逃げてるように見えるよな。それは嫌だ。
「あれ、リアン図星?」
「ちげーよ。俺は悪魔だぞ。何もないよりはお前らにかまってやる方がいいんだよ」
どうにか言い訳をした。間違ってはいない。悪魔に寿命なんてものはないのだから暇な時間の方が多いのだ。
「ふーん、そうですか。でもそれって僕らが来た方が良いってことですよね。」
「あ、そうだね!リアンてば『つんでれ』だなー!」
「つんでれってなんだよよくわからんが違う!」
断じて違う。ああ、やっぱり天使とか以前にこいつら嫌だ。
衝動に任せて俺は翼を広げ地面をける。服なんて後で直せばいい。そのまま俺は空を切り寝床にしている亜空間へと続く穴を開く。これは悪魔ならみな使っているもので、魔回廊という穴でつながっており中では割と自由ができる。例えば家具などを置いて人間の家のようにするなど、好きなように使える。俺の場合は薄暗い亜空間の雰囲気に合わせた色のふかふかなベッドとソファ、ローテーブル、絨毯を置いて休憩スペースにしている。
亜空間に入ると羽をしまい、破れた服からゆったりとした服に着替え灯りもともさずにベッドに横たわる。ふわふわとした布団がイラついていた俺の心を少しだけ眠気に変えた。本当は悪魔に睡眠なんていらないのだが眠って起きると少しだけ気分がよくなる。なので俺はたまにその時の気分で睡眠をとっている。真っ黒な闇に沈む心地よさを感じながら俺は瞼を閉じた。
きらびやかに輝く東京に無数にある高層ビルの上、雪のように白く美しい翼をもった天使たちが街を見下ろしている。
「やっぱりリアンは面白いね。」
エストは無邪気に笑いながらビルの端に腰掛けて足を遊ばせている。その横にはルウが張り付けたような美しい微笑を浮かべながらたたずんでいた。
「そうですね。あれほど面白い悪魔はいません。」
「だよねー。ふふ、彼はこれからどんな面白いことしてくれるかな」
ビルの屋上にまばゆい光が瞬くとそこに天使たちの姿はなかった。
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