もう一つの結論

「おにや……ここって……」


見渡す限りの夜景。それはおにやのサングラスの反射光よりも眩しくて、ドラマチックだった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

時は2時間前、はんじょうはおにやの家の前にいた。

「3日後の17時に僕の家の前に来て欲しい。」というおにやからのLINEを思い出して、全く人の予定も聞かず勝手な奴だなと笑みがこぼれる。

ーーーー瞬間、はんじょうの目の前が真っ暗になる。さすがに驚いて声を上げそうになったが、匂いだけで犯人が誰か分かった。

「おにや?」

「ははっ、正解」

予想通りの鼻声に嬉しさが込み上げる。実はえぺまつり後初めて会うのだ。同じマッチでプレイしていたとはいえ、あの時は完全に敵同士であり、久しぶりの恋人としてのおにやを感じて心拍数が高くなるのが分かった。


正解しても中々離してくれないため、どうしたのかと聞くと、このまま目隠しをしてさらにイヤホンをつけて車に乗って欲しいと言う。

YouTuberという職業柄、はんじょうはまさかこれからドッキリでも仕掛けられるのか?という疑念があったが断るのも変かと思い、言われるがまま車に乗り込んだ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


そして、冒頭に戻る。


目隠しとイヤホンを外したはんじょうの目の前には光り輝く夜景と、その夜景を反射しさらに輝いている海が見えた。

これだけでは無い。はんじょうとおにやはクルーザーに乗っていたのだ。途中、車から降りて乗った乗り物の揺れる感覚で船とは察しついてたがまさかクルーザーだとは思わなかった。(船に乗ったってことは無人島生活ドッキリか?と本気で思った。)


「おにや……ここって……」

「どう?クルーザー貸切&熱海の夜景、気に入ってくれた?」

「え?ああ、うん。もちろん、気に入ったっていうか……なんなんだよこれ。」

「別に理由という理由はないんだけど。えぺまつりでさ、僕達の距離が少し離れちゃったのかなって感じて。それでもっともっとはんじょうと距離を縮めるために用意したんだ。」


理由あるじゃねえか、というツッコミは飲み込んだ。何故なら、おにやとの距離が離れてしまっていることははんじょうも少し感じていたからだ。

それはもちろん、おにやとは別チームだった以上当たり前の事だ。だがおにやは初対面のよしなまと思った以上に仲良く出来ていて、特に本名で呼びあっていた事に関しては素直に嫉妬した。悔しいが、よしなまはおにやと相性が良いんだと思う。

俺は俺で、布団ちゃんに俺の家に一緒に住まないか、と求愛されていた。誘いには乗らなかったがおにやとよしなまがそんな感じだったので少し心が傾いてしまった所はある。


「……おにやも気付いてたんだな。」

「当たり前だよ、なんたって大会優勝者だからね。」

「それは全く関係ねぇだろ。」


彼の戯言にもツッコミする余裕が出てきた。

夜景と海も楽しむ事が出来て、おにやの笑顔と夜景のコラボレーションに軽く脳震盪を起こしそうになった。

少し談笑していると、おにやが線香花火を取り出して勝負をしないかと仕掛けてきた。

子供だましの勝負だなと笑うとお馴染みのスルースキルで躱される。

既に水の貼ったバケツが用意されており、そこで俺たちの勝負は始まった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

おにやが2人の線香花火に火をつけ、火の粉が弾ける。

線香花火は何回もした事はあるのだが、はんじょうには今までで1番儚く映った。

ーーーと思っていたら、ポタ、と球が落ちる。


「はい、僕の勝ちですね。gg guysです。」

「こんなの個体差と運だろ。」

「……はんじょう」


いつにも増しておにやが見つめてくる。サングラス越しでも視線が焼き付くようにかんじる。


「いきなりどうしたんだよ。」

「いきなり、ですか。まあ確かにはんじょうからしたらいきなりかもしれない。だけど、もうこの状況が既にいきなりであり、僕がただ見つめただけでいきなりというのは少し違うのでは」

「あーもう分かった分かった!お前長くなりそうだからストップな。本題は?」

「そうだね。はんじょうに伝えたい事があるんだ。まずは、出会えた奇跡にTY。そして一緒にいつもAPEXLegendsをしてくれてTY。まあはんじょうの全てに感謝をしたいと思っていて、それで今日このクルーザーで2人で話して確信した事がある。否、それはもう当然の事だったのかもしれない。」


そういうとおにやはポケットから小さな箱を出した。


この状況、おにやの言葉、……もう見なくても中身は分かっていた。


「おにや……」

「はんじょう、僕の編み出した結論はこれです。」


おにやが中身を開く。

その瞬間、花火が打ち上がった。単発などではなくそれはもう沢山の花が夜空に上がった。


「それで、はんじょうの結論は?」

「俺は……、まあ、もらってやるよ。お前俺じゃないと誰にも扱えないしな!」

「ははは。」


初秋の夜、空には大輪の花火、その下には2人の朽ちることない大きな大きな笑顔。


もうひとつの結論が、証明された瞬間であった。


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「てか、お前この花火を用意したお金ってまさか……」

「ああ、それはポケットマネーと後はえぺまつりの賞金さ。」

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