ほどほどで生き残れ。まずはそれから。
シヨゥ
第1話
「まずは生き残ること。これを最優先にしてほしい」
リーダーがそう話し出す。
「たしかに営業が決めた納期は大事だ。納期は会社としての約束だからね。これは守らないと次がない可能性すらある。それでもだ。ぼくはこうやってこのプロジェクトに参加してくれるみんなのほうが大事だ。」
白髪まみれの頭髪とそのやせ細った体はこれまでの苦労を物語っていた。
「会社を構成する要素はなにか。それは人だ。人が育てば会社も育つ。もし今回失敗したとしても、みんなさえ残ってくれれば次に賭けるチャンスが生まれる。育ったみんなが次もプロジェクトに参加してくれればきっと次は成功するはずだ」
壇上で語る彼の言葉は熱を帯びていく。
「だから生き残ることを最優先にしてほしい。完璧を求めるな。ほどほどで構わない。求める水準に達しさせすればひとまずはクリアとなることを忘れないでくれ」
拍手が起こる。ひとりの拍手は全体に広がり、気づけば全員が拍手をしていた。
「ありがとう。ありがとう。それじゃあ堅苦しい話はここまでにして。今日は懇親会だからね。無礼講ということで。みんなグラスは……持っているね。それじゃあ乾杯!」
乾杯の音頭で会場のあちこちでグラスがぶつかり合う。これから戦場を駆け抜ける戦友たちとの初の乾杯。
誰もが過去にリーダーの下でそれぞれのプロジェクトを成功に導いてきた猛者たちだと聞いている。
その中にあって僕は失敗の経験しかない。リーダーの噂を聞き、伝手をたどってやってきた外様。それが僕だ。
そんなぼくでもリーダーの演説を聞き、ここでならと思っている。彼の下でなら、そう思わせてくれるに足る内容だった。
ほどほどに。それを意識して明日から頑張ろうと思う。
ほどほどで生き残れ。まずはそれから。 シヨゥ @Shiyoxu
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