ぼくが勇者になれたのは、みんなのおかげです。
ソラノ ヒナ
前編
この世界には、無敗の魔王が存在している。
けれど人間は諦めなかった。
魔物を率いる長を倒すべく、勇者に選ばれたものを魔王の元へ送り込み続けた。
そして今回の少年も、勇者と呼ばれるものとして、魔王城へ足を踏み入れた。
***
「行こうか、みんな」
「えぇ。と言いたいところだけど、アレンは1番後ろね」
「え……。でもさ、こういうのって、勇者が先頭……」
「だめだ。最後だ」
「アレンに何かあれば自分達の士気が下がります。いいですね?」
やっぱりか……。
「みんな、いつも本当にありがとう」
ぼくの声に幼なじみ達が笑いながら親指を立て、魔王がいる部屋の扉を開いた。
「よく来た、勇者達よ」
心が凍えそうになるほどの冷たい声と、部屋全体を包み込むほどの重圧を感じたが、その声の主は姿が見えない。いや、隠されていると言った方が正しい。
「妾達を倒さぬ限り、魔王様には近付く事すら許されぬ」
これが魔王の矛と盾か!
無敗の魔王と呼ばれる理由は、3人の側近のせいでもあった。みな歴代の勇者達は魔王に手が届く事なく、この城を追い出されている。
そのあと決まって勇者自体をやめてしまい、次の勇者が選ばれる。
「それはこっちの台詞よ。私達を倒さない限り、アレンとは戦わせないから!」
ぼくがこんな事言わせちゃってるんだよなぁ……。
なんだか情けなくなってきた時、さっきの冷たい声が頭に直接響いた。
『勇者よ。もしやお前は、その中で最弱か?』
うっそ。何これ。
『念話だ』
あ、そうなんだ。
考えが筒抜けな事に動揺しながらも、魔王にはそれを悟れないように徹する。
その間も幼なじみ達と側近達は、ぼくや魔王を巻き込まないような戦いの提案をし合っていた。
それを見ていたぼくは落ち着きを取り戻す事ができて、ちゃんと会話しようと、意識した。
『あの、なんでわかったの?』
『いや、私もなのだ』
『えっ!?』
***
『ぼくはアレン。辺境の村の生まれだけど、15歳で勇者に選ばれた』
「魂まで燃やし尽くしてあげるわ!
「そんなもの、妾には通用せぬ。
『ぼく達は、魔王を倒しにここへ来た』
「お前みたいにナヨナヨした奴が、俺の拳を受け止められるのかっ!?
「見た目で全てを判断するのは、愚かなり。
『仲間達は、みんな強い。だからぼくみたいな勇者だって、ここまで来れたんだ』
「派手にやってやりなさい。自分の鉄壁の護りがある限り、アレンは守り通します!」
「ふっ。同じくだ。我が障壁がある限り、魔王様には指一本、触れさせんぞ!」
『さぁ、ぼくと勝負しろ、魔王!!』
「って、本当は、君に言うつもりだったんだ」
「うむ。実に勇者らしい台詞だな」
玉座に続く階段に座り、幼なじみ達の活躍を眺めながら、魔王と一緒にお茶を飲む。美味しすぎて、ぼくの口から思わずため息が出た。
「あれ? ぼく、つい声に出しちゃったのに、普通に会話できてるね。っていうより、周りの音が静かになった?」
「もうな、煩くてかなわん。少しだけ音を遮断した。これなら会話も可能だろう?」
魔王が、幼なじみ達と側近達の勝敗がつくまで勇者には手を出さないと、誓いの魔法を使ってくれた。そのおかげで、ぼく達は一緒に護りの魔法の中にいる。
だからだろうけれど、みな安心して本気で戦ってる。
でもそのせいで、幼なじみ達と側近達の戦いがどんどん激しくなって、お互いの声が聞こえないぐらい、うるさくなった。
だから念話で話し続けてたんだけど、『そういえば自己紹介を聞いていないな』、なんて魔王に言われて、ぼくは思わず笑っちゃって。
その時、魔法でお茶まで淹れてくれて、魔王が本当に良い人なんだなって、わかった。
「無詠唱なんて、魔王ってすごいんだね!」
「こういった魔法しか使えんがな。勇者も覚えておくか?」
「ぼくさ、ま……」
『まずい!』
『何がだ?』
慌てて口を押さえるぼくへ、魔王が念話で話しかけてくる。この会話方法があって心底よかったって、思った。
『あのさ、これ、内緒なんだけど、ぼく、魔法、一切使えないから』
『おや? 魔法剣士だと聞いていたが、違うのか?』
『最初はぼくも魔法が使えると思ってたんだ。でもさ、それはみんな、幼なじみ達のおかげだったんだ』
『ほぅ……。その話、詳しく』
見た目はとても冷徹そうに見える少年の姿なのに、ぼくの話をワクワクした様子で聞いてくれる魔王に、自然と笑顔になる。
頭で会話するのに咳払いなんかしちゃったぼくだけど、当時を思い出しながら、ゆっくりと言葉を浮かべた。
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