夢のあとで
鳴海路加(なるみるか)
1
気付いたらここに立っていた。
でも、ここがどこなのか、わからない。何故ここにいるのかもわからない。
わかっているのは自分のことだけ。私の名前が『新井美和』ということだけ。それ以外は何もわからない。
知らない場所で、知らない人がすぐ傍を行き交う。誰も立ち止まったりはしないし、私には目もくれない。
そんな場所で立ち尽くす。私はひとり、知らない場所に取り残される。
寂しくて、心細くて、どうしようもなく泣きたくなる。でも泣いてもどうにもならないから。なんとか頑張って涙を堪えている。
それでも私にできることは、その場所で、ひとりで立っていることだけ。
しばらくそうしていると、誰かがこちらに手を振りながら近付いてくる。けれど、その人の後ろから指す光が眩しくて、顔はよく見えない。
その人は私の傍まで来ると立ち止まり、私の名前を呼ぶ。
「美和」
その声はあたたかくて、優しくて。心細かった私の胸に染み渡るようで。堪えていた涙が溢れそうになる。
そうしてまた泣きそうになっている私は、ぎゅっと抱きしめられる。
その腕は、まるで大切なものを優しく扱っているようで。知らない人のはずなのに、何故だかとても心地よくて、安心した。
なんだか落ち着いてきて、ほっとしたら涙がひとつ、零れた。すると私を抱きしめる腕が少し強くなって、その人のぬくもりを感じながら、耳元で囁かれる。
「もう、離さない」
そして私は、今までにないくらいの幸せを感じる。とても満ち足りた気分になる。
そこで、目が覚めるの。
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