エピローグ

 窓際に一人の少女がたたずんでいた。


「神様、お願いします。寿命と引き換えに友達をください……」

 

 次の朝。少女の側に一人の赤ん坊が寝ていた。透明な肌を持つその赤ちゃんは少女に育てられ、短期間でかぐや姫のようにぐんぐんと成長していった。

 やがてその子が学童くらいの背丈まで大きくなった頃、不意に誰かに呼ばれている気がして月明りが照らすベランダに出た。その光源を見上げる。目が月に釘付けとなる。瞳孔が開き、脳裏を閃光が駆け巡る。

 おもいだした。わたしは。

 結局、あうあを殺さないまま世界から消えたんだ。そして今この場にいるってことは……。

 ちょうどその時、少女がベランダに出てきた。その人物を目にした途端、彼女は月から目を離し言葉を漏らした。

「あうあ……」

 少女こと、あうあが目を見開き、頬を緩める。

「つむぎ?!思いだしたの?!」

「うん!」力一杯に頷く学童くらいまで育った赤ちゃん、改め紬。小さくなった足を全速力で動かしてあうあに飛びつく。彼女は両手を開いてそれを待ち受け、ぎゅっと抱きしめる。

 

 あうあが「自分を殺してほしい」と頼んだ時、紬はその願いを飲まなかった。刃が振り下ろされるのを覚悟したあうあが目にしたのは、包丁を机の上に戻す紬の姿だった。

「なんで……?」

 紬は厳しい口調であうあに詰め寄った。

「殺したりなんか、出来るものか!簡単に諦めないで、最後までどちらもが残れる方法を模索しようよ!」

 紬の頬は僅かに濡れていた。紬の口調はそこで失速した。「私にだって、ころさせないで、よ……」

 あうあがはっと小さく息を飲んだ。

「うん。分かった」


 二人は暫く抱き合った後、紬があうあの目をみて言った。

「成功したね……」

「うん」

「私の記憶が戻るまで長かった?」

 あうあが苦笑して答える。

「もちろん。ずっともどかしかった。見た目はつむぎになっていくのに、中身は幼いままなんだもん。」

「上手く紬になりきれた?」

「うん。大丈夫、安心して」

「体調は?体重くない?」

「全然。へっちゃらだよ!」

 平気平気、と笑い飛ばすあうあ。それを見て紬が笑みをこぼす。突然あうあが口元を手で覆い、目を瞬かせて何かを懸命に堪えようとし始める。

「う、う、へっくしゅっ!うー」

 「あ」と二人は顔を見合わせる。

「「くしゃみぃ!!」」



 こうして二人は再会を果たした。

 これから先、何十年と二人は同様にして出会いと別れをつむいでいくことだろう。

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あうあ! ホトケノザ @hotokenoza_

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