第32話


 脳裏にを思い出したのか、レヴェナントは苦々しい表情だ

『115回経験死に戻りした『大氾濫』で遭遇した

 にゃね』

 黒猫が喋る


 光も届かない奥深い迷宮から噴水の如く外部へと、さながら血肉に飢えた餓狼如く

 一斉に溢れ出す魔物の『大氾濫』

 這い出てくるのは、何も上層階層に棲む魔物だけではない

 最下層の奥深で我が物貌で彷徨い、と称す場所に

 棲息する異形の者達も含まれる

 そこには地上にはに出現するはずもなく、例え遭遇しても

 伝説レベルの実力者の証である『蒼玉』級冒険者でも命がけの闘いが発生する

 程の存在までもが含まれる

 その数如何によっては一都市程度壊滅する事すらある




 奥深い迷宮の最下層には、下位級種悪魔から最上位種の魔神王の他に

 吟遊詩人が語り継いでいる神話系

 古代より生きあらゆる生態系から逸脱した半獣人系

 存在そのものが天災と称される巨像系

 未だに分類が困難であり、『冒険者ギルド』も調査中で

 他生物は比較にならない程驚異的な生命力と長寿性をもつ古龍などが棲息する

 それぞれが地上に這い出れば、被害は一都市だけでは済まされず国の一地方が甚大な被害がでるほど影響がある

 もちろん討伐できれば名誉と莫大な宝や素材が手に入るため、この世界では

 上位冒険者達は、相手が危険種でも金を積んででも挑むような、憧れと夢

 だったりもする



 115回も経験死に戻りした『大氾濫』はどれ一つも楽な闘いではなかった

 迷宮から這い出た『総軍』と死にもの狂いの形相で抗う『冒険者ギルド』防衛

 群は、近距離で血みどろの死闘を展開した

 特に最下層から這い出した魔物は、も性格は非常に獰猛かつ

 凶暴で一匹でも途轍もない脅威だ

 それら『師団』規模で襲撃を諸に受けた、未熟な『金』等級以下冒険者達は

 阻止できるはずもなく全員が滅された

 例え一流『集団クラン』でさえ、為すすべなく消滅した

 その絶望的状況下においてさえも、 数多の冒険者の犠牲を以って

 常に最善手を見出し、難敵を退け葬った



 114のほとんどは、『冒険者ギルド』からの

指名依頼強制命令』で占められ、

 レヴェナントが満足できる十分な追撃を許されなかった

 最下層から這い出た『総軍』に先手をうつつもりが、最上位種の魔神王や

 古龍などからの逆奇襲を受けて、圧倒的な力を持ち貌馴染みでもった

 手練れ揃いの金等級以上冒険者を葬られた




『115回目の時にはにゃ、防衛側内部の激烈な権力闘争の末に

 一部の貴族が私兵を率いてクーデターを起こしたにゃ』

 黒猫が喋る

「 国が亡ぶかの瀬戸際で、政治腐敗や農村困窮を政治問題を解決するために

 決起する?」

 レヴェナントは忌々し気に応える

 確かにレヴェナントの『世界』の歴史上も革命軍が農民や都市市民の支援を受けたりしているケースはあった

 死に戻りリスタートで経験した修羅場の記憶では、そんな大義名分などあったためしはなかった

 ただただ目の前の利益と利権を守るために貴族同士で殺し合っていた




『混乱に乗じて事を起こす事は、あり得ない事じゃないにゃよ

 それに、一介の冒険者から間もないのに、

『お前達は国を亡ぼすつもりかっ!! 馬鹿な事はよせ!!』って 言ってたにゃ』

 呆れたように黒猫が喋る



「 何も得る物がないのに、誰も幸せにならないのに、なんであんな

 馬鹿な事をするのやら

 その返答も、『黙れ!! 成り上がり者の分際で口を挟むなっ!! 引っ込んでおれ!!』

 だったからね」

 レヴェナントはそう応えるが、その声には怒気が孕んでいる

 それは当然だろう

 レヴェナントにしてみれば、苦労して成し遂げた事を否定するような

 言葉だったからだ


『 『成り上がりで何が悪い!! 混乱に乗じて権力を奪う屑よりは

 まだ価値がある! 目的を達成して進みたいなら・・・・俺の屍を

 踏み超えていけ!!』 そう言い返していたにゃ』

 黒猫が喋るが、恐らくその状況ではレヴェナントは怒りと憎しみが込められていた

 事だろう


「 死に戻りリスタートする事が確実なら、ちょっとくらいは

 カッコいい台詞を言うには罰はあたらないでしょ? 」

 レヴェナントが短く応えた




『 『スタンピード』は221回にゃよ』

 その答えを聞きつつ、呆れた様な声で黒猫が喋る

 この異世界各地に生息する魔物にはそれぞれ別称が付けられているというな

 事を以前に書いた

 多彩な特殊能力を秘める多種多様の魔物を軍隊の様に、規律良く

 足並みを揃えさせ進む方向に狂気の様に進撃させる『 変異種』が存在する


 それらは、自然淘汰や冒険者による討伐といった生存競争を生き抜いた末に

 変化した個体種だ

 それはこの世界では『進化』とも言える

 その中でも特に危険度の高いのは、『上位種』『 変異種』、さらに『歴戦個体』

 より凌駕する広範囲の攻撃を持ち合わせた魔物だ

 遥かに凌駕した攻撃力と狂猛性を持ち合わせ、一群れの統制者として君臨する

二つ名持ちネームド』だ





 大地や空を全て埋め尽くし、津波の如く押し寄せる『スタンピード』に

 防戦線は各所で分断・包囲され統一した作戦のもとで連携して反撃することは

 できなかった

 200目以降、レヴェナントは要領良く動き回り比較的高い

 密度で展開している防衛線にちゃっかりと紛れ込んだ

 特に精鋭『白金』級以上の冒険者を多く含まれ展開していた地域にだ

 だが、一群れの統制者として君臨する二つ名持ちネームド』の魔物は、その200とも大規模な二重包囲戦を仕掛けてきた

 もちろんレヴェナントは、『死に戻りリスタート』経験を生かして

 様々な策をめぐらせたが、圧倒的な攻勢の前には無力だった

 空を全て埋め尽くした古龍などによる咆哮と共に、空から赤く燃える隕石を

 複数落とす上空攻撃や、口から吐き出すどの属性にも属さない青白い吐息の

 前には、をしても破壊された

 堅固を誇る城壁で囲まれた街や鄙びた村も等しく関係なく、全てを呑み込み

 劫掠された

 昼夜連日のように死闘を繰り広げたことは言うまでもない


 逃げ遅れた一般市民や冒険者などは、津波の如く押し寄せる

『スタンピード』の中で 犠牲となった

 空を全て埋め尽くした大型飛竜種が、耳を塞いで動きを止めてしまうほど大音量の

 咆哮と共に降下し、ピンポイントで火球を吐きまた空中から連射も行っては、

 抵抗火点を沈黙させられた

 地獄のような業火の中でもレヴェナントは死に物狂いで戦い抜いた

 大きく消耗して迅速な撤退中でも魔物は容赦はしなかった

 複数の『二つ名持ちネームド』の魔物は、昼夜連日に渡り赤く燃える隕石を

 満遍なく振り撒き、追撃も熾烈を極めた

 また管理人神様の気紛れなのか、時たまに予想外の異常気象も

 発生する事もあった

 大嵐によって発生する落雷や洪水により幾人もの命が奪われる事も多かった



 221目の死に戻りリスタートでは、『冒険者ギルド』は

 防衛線を整理し戦力密度を高めるため

 大きく立ち回っていたレヴェナントに半強制的に

 前線の維持を命じた

 この命令により、戦況が一時的に安定はしたが、その代償として多大なる犠牲を

 払うことになった

 レヴェナントはタダ働きをするつもりもなかったため、成功報酬を

 要求し、または『冒険者ギルド』持ちにさせたがったが、

 さすがのレヴェナントでさえも、そこまでの要求は通らなかった




「・・・経験は詰めたけど、もう十分だよ」

 レヴェナントが言う

221の時は、『冒険者ギルド』からの命令通り撤収してきた各部隊と

 防衛する街の市民合わせ5万人規模を編成して最終防衛線を構築したにゃよ』

 黒猫が喋る

を締めるために厭戦的な冒険者『集団クラン』や

 戦闘放棄し脱走した先で悪逆無道行為に及んでいた『軍団レギオン』を

 みせしめに処刑したけどね」

 レヴェナントが言う

 秩序のためには必要だったが、彼らが行っていた非人道的行為は目に

 余る物があった

 ただでさえ人手不足の防衛側からすれば、貴重な戦力を減らした事も

 事実だったが、非人道的で残虐そのものにレヴェナントは我慢ができなかった



『確か恋人や妻、家族を見殺しにされ半狂乱になった三千人以上の群衆に

 酷く詰め寄られては逆切れし、殴り蹴り倒し張り倒していたにゃ

『恨むなら魔物を恨め!! こっちだって嫁さんハニーを化け物に

 殺されるんだ!!

 怒り狂う力を俺に向ける気力があるなら、闘え!!

 血反吐吐き『死にたくねえ 死にたくねえ』でも叫びながら闘え!!』

 っと言ってたにゃよ』

 黒猫が喋る

「・・・確か『闘うにしても武器も何もないじゃないかっ!』

 とか『俺達は見捨てられたんだ!!』とか言われたけどね…」

 レヴェナントが言うが、その声には感情など込められず無機質なものだった

 しかし、その言葉だけで、この場の空気が変わるようなそんな迫力があった


『 『あんたらの頭は飾りかっ!!

 武器無しで闘うにはどうしたらいいか、その頭から知恵を絞りだせ!!

 そんな立派な手足がついているなら、あんたらの棺桶で家族でもある

 この街を護る事ぐらい出来るだろうが!! 他人に縋ってもどうにもなんねぇぞ!!』

 ・・・・とまぁ、そう言い返していたにゃね』

 黒猫が喋る

「言い訳にしかすぎないけど、嫁さんハニーが戦死したから、いろいろと自棄になっていたんだよ」
































 



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