第30話





 ―――依頼元の村までは、徒歩で2時間程度の距離だ

 ローランの街周辺には幾つかの集落が存在し、それぞれ農業や牧畜など

 の一次産業を主にしている

 そこには街より派遣された警備兵が交代で派遣されているのだが、

 村を守るのが警備兵の役目であり、魔物討伐は冒険者の死事しごと



 太陽がほぼ真上から光を突き刺してくる時間帯に、レヴェナントは村の入り口に

 立っていた

 村はのどかな西洋の農村を彷彿とさせる

 麦や野菜を栽培している村では、大人達が忙しそうに畑の世話をしているのが

 見える



 そして子供達はその手伝いをする者もいれば、もっと小さな子供達の

 面倒を見ている子供たちの光景もあった

 はしゃぐ子供達の笑い声が響き、それは明るくて活力を感じる

 街とはまた違う風情あるその光景は、死に戻りリスタートを繰り返している

 レヴェナントには馴染みの光景だった

 だが、よく見れば幾人かの村人達は悲痛な面持ちもしている



 レヴェナントは周囲にさりげなく視線を走らせ、戦闘時の遮蔽物の

 有無と脱出路を目視による観察する

『平和で長閑な光景にゃ

 しかし一つでもが発生すれば、地獄へと変貌するにゃ

 現に

 足元から声が聞こえる

「またそういう事を・・・

 まあ、確かににゃんこさんが言われた通り、が重い

 それに―――はないけど、の臭いと

 耐えがたい死骸が腐ったような臭いと食べ物が腐った酸っぱい臭いが

 漂っているね」

 レヴェナントは苦笑した表情を浮かべつつ、声の主である黒猫に視線を向けた


 死に戻りリスタートで、戦争や野盗による略奪や魔物の襲撃という、

 原因は様々だが、村という村、街という街が崩壊した光景をさんざん

 見てもきたし、奪われる側と奪う側も

 その人並み以上の修羅場経験があるのか、レヴェナントには戦場を感知する

 嗅覚が備わっていた



 甲冑と共に黒熊の毛皮をまとった蛮族一式装備の姿を見た村人の大半は

 驚き身構えた

「・・・やはり村なんかでは、こんな格好は不気味か」

 レヴェナントは呟く

『明らかに不審者にゃ

 街や大都市といった所では、それほど目立たないにゃ』

 黒猫の声が、レヴェナントの頭の中で響く


 幾人かの村人達は、警戒した様に眼を向けていた

 レヴェナントには、その警戒している理由は十分知っている

 娘が冒険者に惚れ、そのままついていってしまった・・・という

 出来事が世間ではあるためだ

『630,403回』にも及ぶ死に戻りリスタートで、そんな光景や出来事も

 レヴェナントは見てもきたし、幸せな生活を送っている話、または

 破滅的で救われない話も聞いてきた



 黙々と村を歩き、村人の家よりも少し大きめの家の前で立ち止まった

 村長宅だ

「こんにちは

『ローラン』冒険者ギルドで、『ゴブリン』討伐を引き受けた

 冒険者です

 村長さんはご在宅でしょうか?」

 レヴェナントは玄関先で、柔らかい口調で尋ねた


「これはご丁寧に・・・

 私が村の村長をしております」

 まもなくして、ひょろっと背が高く、緩く癖のある灰色がかった柔らかな

 茶色の髪で 項を隠す程度の長さの性村長が、そう応えつつ出てきた

 レヴェナントの服装を見て一瞬だけぎょっとした表情を浮かべた

 しかし、服装から想像できない口調に少し戸惑いつつも、挨拶を交わした



「早速なのですが、幾つかお伺いを・・・

『ゴブリン』らしき群れの足跡を発見したと依頼書では記入しておられたのですが、

『冒険者ギルド』に依頼されて日数もかなり経っているみたいなので、何かすでに

 人的被害とかは?」

 レヴェナントは柔らかい口調で村長に尋ねつつ、冒険者の身分証となる頸から

 ぶら下げる『青銅』の小板を見せた




「人的被害はまだないですがね

 件のゴブリン達は、今の所夜中に村に忍び込み、収穫間近の作物や家畜を

 拐っています

 村人も見張っているのですが、その時間にも犯行に及んでおり・・・

 このままではいつ村が襲われるか」

 額に流れる冷や汗を拭いながら村長が応える

『ゴブリン』の群れが棲みついているのは、足跡を発見し目的地へと向かい

 確認した村の猟師からの話では、村の西側に走る街道を進み、さらに川に

 掛けられた橋から離れた先にある森の中らしいことを付け加えた


 また、『青銅』の小板を確認して、一瞬だけ微妙な表情を浮かべた

 村長の表情をレヴェナントは見逃さなかった

 恐らく7段階の中で一番低い『青銅』等級ランク 冒険者がやってきたため

 だろう

 その表情を見逃す事なかったレヴェナントは、『さもあらん』と思った

 最底辺で登録仕立ての駆け出し『青銅』等級ランクは、依頼主側からも

 実績からして毒にも薬にもならん役に立たないと思われているからだ



「なるほど・・・

 状況は把握しましたので、早速ですがいってきます」

 柔らかい口調でレヴェナントが応えた

「無理はなされぬように」

 村長が何処かほっとした表情をしつつ告げた













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