2.クラス替え悲喜こもごも-3
そのまま世間話をしつつ、クラス替え発表が行われている掲示板の前まで三人一緒に来た。既に人だかりが出来ていたが、掲示板の位置が高いので後ろからでも充分見えるだろう。わざわざ最前列まで行く必要はなさそうだ。
のんびりした気持ちで近付いて行くと、人だかりの後方で女子生徒二人と手を取り合って喜んでいた少女――婚約者の東堂院花蓮が龍治達に気付き、パァッと明るい笑みを浮かべる。
彼女はいつも通り、テチテチ小動物じみた足取りでこちらへ来てくれた。
「龍治様! おはようございます!」
「おはよう、花蓮」
「はい! 柾輝様も禅条寺様も、ご機嫌麗しゅう」
「おはようございます、花蓮様」
「おはよう東堂院さん!」
花蓮の後からついて来た女子二人とも挨拶を交わし、本題へと入る。
「花蓮は何組だ?」
「A組でしたわ。ふふ、龍治様も柾輝様も、禅条寺様もご一緒ですのよ?」
「おお、そうか」「わっ、本当に?」
「えぇ、本当ですわ」
「初等科最後の二年、宜しくお願い致します、花蓮様」
(硬いよ柾輝……)
花蓮の友達二人も同じA組だそうだ。「よかったな」と声をかければ、花蓮は名前の通り花のような笑みを浮かべてみせた。かわいい。頭をヨシャヨシャ撫でたいが、公衆の面前。我慢である。
それは置いといて。花蓮とは一、二年は一緒だったものの、三、四年は別クラスだったので素直に嬉しい。
玲二が云っていた通り、五、六年は大きなイベントが幾つかある。同じクラスであれば一緒に参加出来る機会が増えるので、これは素直に嬉しかった。
「あの、それと、ですね……」
花蓮が声を潜めた。云い辛いような顔をしている。女子二人も、少し困ったような顔だ。
「どうした」
「……
(あちゃー……)
嬉しい気持ちが若干しぼむ。恐らく顔にも出ていた。花蓮が困ったような表情を浮かべたので、察してしまう。あまり顔に出すものではないな、と自分の頬をむにりと捏ねた。
(眞由梨とも一緒かぁ……)
風祭眞由梨は龍治の
それゆえ生まれた時から頻繁に顔を合わせているのだが、実を云うと龍治はちょっと彼女が苦手だ。
見た目は良い。龍治の母と同じロングストレートの黒髪を持った、まさに大和撫子と云った風情の美少女である。赤い振袖がよく似合うと龍治も認めるところだ。
従姉妹が美少女と云うのは悪い事ではない。しかし彼女は、どうやら龍治が好きらしいのだ。乙女心なるものを上手に理解出来ていない龍治でもわかるくらい、その好意は明け透けだった。
それだけなら「まぁ俺の婚約者は花蓮だから別に」で流せるのだが、眞由梨ががっつり花蓮を敵認定しているのが困りものだ。その上、「龍治様の真の婚約者はわたくし!」と声高々に云ってくれるものだから、さらに困る。その度に否定する方の身にもなって欲しい。
風祭家は男三人兄弟の後、年を離して眞由梨が生まれたので、家族ほぼ全員が彼女に甘い。厳しいのは伯母くらいなものだ。
その伯母に会いに行くと、他の風祭一族が「眞由梨に会いにきたのか!」と出迎えて来るのでまさに勘弁するのです、だった。「いえ、
しかし風祭は大事な取引相手であり、叔母が嫁入りした家でもある。龍治の一存で邪険に扱う訳にはいかないのだ。かと云って父に云えば、物理的財産的にぶちゅんと潰されそうで怖い。自分の
とにかく眞由梨と云う少女は、龍治の手には少々余る相手だった。
一年から四年まで別のクラスの上、龍治が柾輝達の協力の元逃げていたので学校での遭遇は少なかった。だが同じクラスでは逃げ場がない。その上、花蓮まで同じクラスと来たら――
「……波乱の予感がする」
「あはは……」
「大丈夫です。龍治様の障害は、僕が取り除きます」
(真顔でお前)
「柾輝様が仰ると冗談になりませんわねぇ」
「はぁ……」
龍治の言動は個人の枠に収まらない。何かしら周囲への影響が出る。それが大きいか小さいかはまだ判断が付かないけれど。
(眞由梨、頼むから余計な事しないでくれよ……)
ナタを振るう機会が訪れませんようにと祈る。龍治の場合、ナタどころかマシンガン、いや建物解体系の重機くらいの威力になり兼ねない。
「従姉妹を排除するなんて事態にしてくれるなよ」と額を押さえる龍治に、ゼンさんの記憶が「頑張れ
他人事か。この前世。
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