状態異常治癒要員、追放されるも、実は【究極呪術解呪】の持ち主で聖者に成り上がる

一(はじめ)

第1話パーティー追放


 グラン・マドロック王国の首都に居を構える冒険者ギルド『誇り高き獅子』。

 俺はそこに所属するSランク冒険者パーティー『翡翠の翼』のパーティーメンバーの冒険者リック・アバネルだ。


 と言っても俺に戦闘力はない。一応、冒険者育成所で訓練は受けたが剣術も槍術も弓術も攻撃魔術もどれも才能がなかったようで身に付かなかった。


 その代わり、状態異常治癒魔術にかけては他の誰にも負けないだけの才能を発揮した。

 毒や火傷と言った基本的なものからステータスをダウンさせて来るようないわゆるデバブを受けても俺の状態異常治癒魔術にかかればすぐに平常に元通りだ。

 それが評価されて、Sランクの冒険者パーティー『翡翠の翼』に置いてもらっている。


 他のメンバーはまずリーダーのラフマニ・ギランド。


 この人は横暴な一面があり、いつも俺に強く当たるが、それに相応する剣の実力を誇っており、攻撃魔法も使える。

 グラン・マドロック王国の冒険者の中でも指折りの実力で、Sランクパーティーを纏め上げるのに申し分ない。


 ただ、言ったように少し性格には問題があるかもしれない。

 横暴な性格で誰に対しても強気。俺には特に強く当たるし、上手くいかない事があるとすぐにわめき散らすような幼稚さも持ち合わせている。


 24歳の男性としては少しどうかと思う。

 まぁ、それでも戦闘力はそれらの欠点を補ってあまりある者だと思うし、『翡翠の翼』がSランクパーティーになれたのも彼のおかげである事が大きいだろうから諫言したりなんかしないが。


 というか俺が諫言なんてしたら殴り飛ばされてしまう。


 次にサブリーダーのシドレ・フォシル。

 こちらは多少、老齢の域に入る年齢をしているが、その槍捌きは若い者たちにまるで劣ってはいない。


 熟練の技を発揮する老戦士だ。年の功による冷静な戦略眼で戦況を見極める事にも長けており熱くなりがちなリーダーのラフマニをサポートする。

 ただ、ラフマニは我が強いので進言を受け入れて貰えない事も多いようだが。


 三人目が女魔法使いのベルナデーレ・フォン・アストリフォル。

 フォンの名が示す通り、貴族のアストリフォル男爵家の娘だが、五女という事もあり、跡目を継ぐ事は期待されておらず、魔法を学び冒険者の道に入ったようだ。


 貴族の娘に生まれながら、その跡取りとして期待されていない事にコンプレックスを持っているようだが、その魔法の腕前は本物で、まだ10代にして上級魔法を行使する事が出来る。


 最後が回復魔法使いのティナミア・コーリング。

 こちらもベルナデーレ同様、まだ10代だが、その回復魔法の腕前は一流で切断された腕などを繋げる事も出来る。


 回復魔法使いがいるのなら状態異常治癒の俺は不要ではないかと思うかもしれない。


 実際、傷を回復する魔法と状態異常を治癒する魔法は混同される事が世間でも多い。

 しかし、本質的には全く別の魔術なのだ。だから役割が被るという事はない。


 この『翡翠の翼』で俺は状態異常治癒師として働いている。

 そういえば今日はリーダーのラフマニから大事な話があると呼び出されていたのだが、何だろう。


 心当たりはないのだが。疑問に思いながらギルド『誇り高き獅子』内にあるラフマニの私室を訪れる。


 このギルド『誇り高き獅子』ではSランクパーティーメンバーには一人一室の個室が与えられる特権があるのだ。

 その分、Sランクパーティーの数は少なく十に満たない。

 数十組は存在するAランクパーティーとの間には確たる差がある。


「来たか、ただ飯喰らい」


 扉をノックして開けた俺がラフマニに挨拶をすると返って来たのはその言葉だった。

 横暴なラフマニだが、今日はいつにも増して機嫌が悪いようだ。


「ラフマニ。俺に用ってなんだ?」

「ああ。大事な事だ。よーく、聞け」


 大事な事。これから難易度の高いSランク依頼を受けるとかだろうか。それより上の特Sランクかもしれない。

 それなら俺の状態異常治癒魔術も活躍する機会が多いだろう。


 そんな事を思っていた俺が見当はずれの予想をしていた事にすぐに気付かされる事になる。


「お前をパーティーから追放する」


 一瞬、言われた事が理解出来なかった。

 ツイホウ? 追放……追放だって!? 俺は驚いて声を上げる。


「ラフマニ! 俺を追放ってどういう事だよ!」

「鈍い奴だなぁ。お前を首にするって言ってんだよ。給料泥棒」

「なんでだよ!」


 俺の問い掛けにそんな事も分からないのか、屑が、とでも言いたげな見下した目を俺に向けてラフマニは続ける。


「お前の仕事は全部、ティナミアがこなす事が出来る。大体、あいつという優秀な回復魔法使いがいるのに状態異常しか治癒出来ないお前をこれまでパーティーに置いておいたのがおかしかったんだ」

「そ、それは違うぞ! ラフマニ! 回復魔法と状態異常治癒は似て非なる魔法で!」

「同じだろうが!」


 それは違う。確かにティナミアは優秀な回復魔法使いだ。でも彼女じゃ、敵にかけられたデバブを治せない。

 低ランクの依頼ならこちらに深刻なデバブをかけて来る敵は少ないが高ランクの依頼で出て来る敵魔物はこちらに戦闘続行を困難にするレベルの妨害、デバブをかけてくる敵が山ほどいる。


 そいつらに対抗するために俺の状態異常治癒魔法は必要なはずだ! それを必死にラフマニに訴えるが、ラフマニは耳穴を指でほじってマトモに話を聞こうともしない。


「うちの真の治癒師、ティナミアは優秀なんだよ。状態異常を治癒するエリクサーやバジル・ポーションを調合する事も出来る。それがあればお前なんていらないんだよ」

「だ、だから、それじゃ治せないような妨害をかけてくる敵が出て来るのが高ランクの依頼で……」


 エリクサーは優秀な魔法使いしか作れない良薬でその効果を否定するつもりはないが高位の魔物はそれでも治せないレベルのデバブをかけて来る。

 それに対抗するには俺の状態異常治癒の能力が必要なんだ。

 そう思ったがあまりの事態に動転していてラフマニが持っている物に気付かなかった。


「あ、それは俺の杖……」

「お前には身分不相応な杖だからな。没収だ。売り払ってやるよ!」


 その杖は俺が愛用しているものだった。

 状態異常治癒の効果を高めるエメラルドの魔石が仕込まれ、杖全体は魔力を高めるハブロバの樹木で出来た杖でどちらの原材料も貴重でそう簡単に手に入るものではない。


 俺が気に入っているものでもあった。

 俺の状態異常治癒師としての道は偶然この杖を手に入れられた事から始まったと言っていい。


「か、返してくれよ!」

「お前には必要ないもんだ。パーティーを追い出されるのにもうこんなものいらねえだろ」

「だから、俺を追い出すなんて事は……」

「ただ追い出すだけじゃねえぞ。お前という足手まといをこれまで抱えて戦った事への謝礼金を払ってもらう」

「しゃ、謝礼金!? それって一体いくら?」


 杖を奪われる事にも追い出される事に納得した訳ではないが、思わず訊ねてしまう。ラフマニはニンマリ笑って言った。


「金貨100枚だ。これまでお前が受け取って来た給料を思えば安いもんだろ? オレ様の温情に感謝するんだな。まぁ、この杖を売り払った金はその利子って事で」

「そんな……」


 すぐに用意出来る金ではない。

 Sランクパーティーメンバーへの給金は月に金貨10枚が貰えているが、それはある事情でほとんどその月の内に使い切ってしまっている。

 俺に貯蓄はない。払える訳がなかった。


「そんなの払える訳ないだろ……」

「払ってもらうぞ。これはギルドマスターも承認している事だ。払わないのならお前は罪人としてしょっぴかれる事になるな」

「そんな……」


 俺が罪人として捕まる……? それだけは何としても避けなければならない。俺には面倒を見ないといけない人がいるのだ。


「ほ、他のみんなは……シドレやベルナデーレ、ティナミアも俺の追放に賛成なのか?」


 そんなはずはない、と一縷の望みを懸けて問い掛ける。いくらなんでもラフマニ一人の独断で俺を追放なんて出来ないはずだ。

 俺の言葉にラフマニはにんまりと笑った。


「大賛成だったな。シドレの爺もこれから戦いが激しくなる中、足手まといをいつまでもかかえる訳にはいかないって言っていたし、ベルナデーレは大喜びであの下人の顔を見なくていいなんて嬉しいって言っていた。ティナミアも私一人でパーティーの治癒は賄えるから問題ないってさ」

「そ、そんな……!」


 みんな理解していないのか!? Sランクパーティーにもなりながら、状態異常治癒の重要性を! あの博識なシドレでさえ!? あまりの事態に俺は絶望する。


「とにかく、お前はもう『翡翠の翼』のメンバーじゃねえんだ。とっととこのギルド内の部屋から荷物纏めて出て行けよ。謝礼金もしっかり払うんだな」

「待ってくれ、ラフマニ! 考え直してくれ!」

「くどいんだよ! お前みたいな屑はいらねえんだよ! とっとと出ていけ!」


 そう言い、ラフマニの愛剣。名剣モラベガルの柄に手を当てられる所か鞘から少し抜き、煌めく銀色の刀身を見せられては出て行くしかなかった。

 これ以上、異議を申し立てていると斬られる。その本能的、恐怖がよぎったからだ。


 確かにSランクパーティーメンバーは高給取りだ。

 月、金貨10枚なんて平民の我が身には分不相応と言われても仕方がない。


 しかし、金がいるのだ。難病を抱えた妹の治療のため。

 治療、いや、今は延命としか呼べない処置のために金は湯水の如く飛んで行く。

 パーティーを首になって収入を絶たれたら、妹の入院費さえ出せなくなってしまう。


 こうなったら仕方がない。このギルド『誇り高き獅子』内にあるパーティーは『翡翠の翼』だけではない。

 パーティーを追い出された事に未だ納得は出来ないが、別のパーティーに入れて貰って、そこで働く事にしよう。


 そう思い、その紹介をしてもらうべくギルドマスターの部屋に向って歩き出す。

 それにしても謝礼金金貨100枚というのは、安くない金額だ。思い入れのある杖も奪われたショックで、どうすればいいのか。目の前が真っ暗になった気分だった。


ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。

こちらの小説は長編ですが、序盤の流れだけでも楽しめるように出来ております。

主人公の成り上がり、評価されるのが面白い、主人公たちの愉快で華麗な冒険譚が楽しい、追放側のざまぁが爽快。

そう思われた方は星評価やフォローをしていただけると嬉しいです!



長らく更新を怠ってしまい申し訳ありません。私事が忙しかった事と公募小説の執筆に時間を取られてしまいこちらの方は後回しになってしまいました。 また体調不良もあり、執筆時間が確保できないでいましたが、今はある程度持ち直したのでまた書いていきたいと思います。 以前のように毎日更新は無理かもしれませんが、またぼちぼち再開していきたいと思いますのでお付き合いいただけると幸いです。


 新作小説「夜になるとロリになるJK妹。元気系従姉妹・素直クールのハーレムの中で俺が面倒を見る」https://kakuyomu.jp/works/16816927863211960457

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