198 夜の提案
「
ホールに満ちる強い気配に「凄いな」と焦りを覚えながら、京子は大の字に寝転ぶ彼の所へ駆け寄った。普段感じないほどの気配は、全身がザワリと殺気立つ程だ。
トンと頭の横に膝をついて綾斗の顔を覗き込むと、彼の目がゆっくりと開く。
「何かどんどん強くなってない? ちょっと驚いちゃった」
「その分
綾斗は京子を仰ぎ見るように
バーサーカーの力は他の能力者に比べて数段に火力は上がるが、力を維持する持久力は乏しく疲労も半端ないらしい。
「綾斗もお疲れ様」
「ありがと。松本さんがどれだけの力で何を仕掛けて来るか分からないけど、俺も同じバーサーカーだって名乗り出たからには、肩書通りに戦えるようにしておかないとね」
天井へ向けて腕を伸ばし、綾斗はゆっくりと上半身を起こした。傍らに座る京子を振り返って、「あれ」と眉を
「何かあった?」
「え?」
じっと見つめられて戸惑う京子に、綾斗は「だって」と苦笑した。
「涙の痕があるから。
「そうじゃないよ。これはマサさんに会ったから。制服着てるの見たら止まらなくなっちゃって」
「その事か。俺もちょっと震えた。まさかマサさんの力を失った原因が
「それは綾斗もだけどね」
綾斗はバーサーカーだ。
「俺が怖い?」
「綾斗が怖い訳じゃないよ。同じ力を持った松本さんが敵で、自分はどれだけ戦えるんだろうって思う」
不安気な京子に手を伸ばして、綾斗は涙の痕に指を
「威力だけでどうにかなるわけじゃないよ」
「うん、そう思いたい。マサさんと手合わせしたんでしょ? どうだった?」
「ずっと鍛錬してきたんだなって思った。昔はここで色々教えて貰ったけど、キーダーとしてのブランクなんて殆ど感じられなかったよ」
「そうなんだ。私もうかうかしていられないな」
綾斗は「俺も」と頷いて、身体を支えるように手を床へ着いた。
ここ数日バーサーカーとしての訓練をしてきた彼は、疲労が溜まっているように見える。九州から戻って休む暇もない程慌ただしかったせいもあるだろう。
明日はようやく土曜日で、二人の非番が重なっていた。
「今日はもう無理しない方が良いよ。それよりスタミナ付けにお肉でも食べに行かない?」
食べたいものをガッツリ食べて、明日はいつもより遅めの起床でぐっすり休めたら──そんな京子流の疲労回復術を提案してみたが、綾斗は「うーん」と言い
「肉も魅力的だけど、夕飯はここの食堂で食べて俺の部屋に来ない? ちょっとゆっくりしたいなと思って」
確かにこれだけ疲れていたら、外に出るよりも中で過ごした方が良いのかもしれない。
「分かった」と返事した後、京子はふと忘れていた事実に気付いた。
綾斗の部屋に行くのは、これが初めてだったのだ。
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