191 望まない再会
そしてもう一人。
到着便が悪天候で遅れていて、一時間以上暇になってしまった。午前中は外出扱いになっているが、午後からの訓練へ戻るにはギリギリになってしまうだろう。
『ちょっと遅れそうだから、その時は先に始めてて』
『分かった。気を付けてね』
すぐに返って来た京子からのメールは、そんな短い文字だった。外出の詳細は伝えていないが、彼女は特に気にもしていない様子だ。
「興味ない? いや、信頼されてるって事にしておこうか」
到着ロビーに併設されたカフェで時間を潰し、頃合いを見て店を出る。
彼が乗っている便を確認し、出口から少し離れた場所で待ち構えた。
昨日、
『もうみんな知ってるの?』
『
『そうか。
『あります。今更、引けませんから』
今までその力を隠していたのは、誘拐事件の時に佳祐から『隠せ』と言われたからだ。それが上からの絶対の命令に聞こえて疑いもしなかったが、もし初めからオープンにしていたら彼が
現にトールだった松本でさえ、バスクとしてホルスに居るのだ。
『けど、君が好きに戦えば良いんだよ? 周りから期待されてしまうだろうけどね』
『ホルスと戦う事になるなら、俺は強い方を選びます』
大切な人を全力で護れるように。
バーサーカーだと言って顔色一つ変えなかった誠は、こちらが思っている以上に状況を把握しているのだろう。その上で一瞬だけ思い詰めたように息を呑んで、彼は綾斗に頭を下げた。
『松本くんの力を抑えられるのは、君だけだと思う。だから、頼むよ』
『長官……』
『君がバーサーカーで良かった。うちがホルスとの戦闘になったら、指揮系統を全て
『────』
『明日の早朝の便で彼は羽田に来る。親戚に会うんだと言ってたから、彼の伯父さんだろう。近くの大学の教授をしている人でね。まぁ、どうするかは君に任せるよ』
誠はにっこりと笑んで、机上のメモにペンを走らせた。
「綾斗! お前、こんなトコで何してんだよ」
到着の出口から姿を見せるなり、桃也は綾斗を見つけて近付いてくる。顔いっぱいに不満を貼りつける理由は幾らでも想像できた。
そんな望まない再会をした二人のすぐ横では、ずっと綾斗の隣で待機していた見知らぬ女が、別の男との再会に全力で抱き付いていく。
「会いたかった!」という声を少々
「何してる、って。会いに来たんですよ」
綾斗は半ば棒読みではっきりと答えた。
「俺に? そんな嫌そうな顔して? 大体何で俺がここに来るの分かったんだ?」
「長官に聞いたんですよ」
「はぁ? それで何だ、お前は京子との仲を自慢しにでも来たのか?」
「それとは別の話です」
だからといって事実が変わるわけでもなく、桃也の機嫌が晴れる事はない。
「来いよ」
桃也は小さめのキャリーケースを引きながら、人の少ない壁際へ移動した。
到着便が重なって、ロビーはたちまち人で
日差しの落ちるロビーの隅で、綾斗は「桃也さん」とすぐに話を切り出した。長官に言われるままこんな所まで来たが、なるべく手短に済ませたいと思うのは相手も同じだろう。
京子との事以外で彼とは別に仲が悪い訳ではないが、他のメンバーと話すようにはいかない。
睨み合うようにムッスリとした顔を突き合わせて、綾斗は淡々とその事実を告げた。
「俺はバーサーカーです。いざって時は、俺を使って下さい」
「──は?」
桃也の短い驚愕が
「マジで言ってんだよな? それって、京子は知ってんの?」
「知ってますよ」
「そっか……」
──『京子さんは知ってるんですか?』
前に桃也からサードに呼ばれていると聞いた時、同じことを尋ねた。
彼と話をする時、どうしても間に京子が居る。それはお互いにという意味でだ。
「分かった」と囁くような返事をして、桃也は停止するように沈黙した。
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