182 特別な場所
まるで荷物を運び出すように連れて行かれた
在籍のキーダーが居なくなった支部は事後処理に追われ、京子とたち本部の3人がその手伝いをする。勝手の分からない事も多くてんてこまいの日々を送り、ようやく仕事も落ち着いた頃、佳祐の葬儀が
佳祐は親戚とは
「佳祐の馬鹿野郎」
椅子の前へ放り出された右足は、白いギプスでガチガチに固定されている。喪服を着ることが出来ず、Tシャツとハーフパンツに黒い腕章という姿だ。伸びきった髪は、耳の後ろでぎっちりと結わえられている。
松葉杖で何とか歩くことはできるが、完治までは暫くかかるという。
短い法要は午前のうちに終わり、火葬した骨を寺に預けて支部へ戻った。
まだ明るい夕方に三人を迎えたのは、アルガス長官の
「お疲れ様」
「ありがとう」と
佳祐の
「長官、今回の件は申し訳ありませんでした」
「何を謝っているの? 一條くんの粛清は、手段を選ばないと言ったでしょう?」
「はい。でも……」
「良いんだ。それよりホルスの男と接触したんだろう? 本部に戻ったら三人ともその話を
聞かせて欲しい。もちろん
「分かりました」
京子は二人の後ろで小さく「はい」と答えた。
ここぞという時に、私情が入る。
この先に控える忍との戦闘に向けて、キーダーとしての自覚をもっと持たねばならないと思う。
支部を出る誠の背を神妙な顔で見送ると、綾斗がそっと京子の背に触れた。ずっと緊張していた気持ちが少しだけ和らぐ。
「じゃあ、僕はそろそろ戻るよ」
晴れない顔のまま、久志は病院へ戻る車に乗り込んだ。
「またね」と後部座席から手を振る彼に会釈した綾斗は、「京子さん」と走り出す車から視線を返した。
「ちょっと行きたい場所があって。もし良かったら一緒に行って貰えると嬉しいんだけど」
「これから?」
夜まではまだ時間がある。
明日の午後に二人で東京へ戻る事になっていて、それまでは特に用事もなかった。
彼の誘いが楽しいデートでない事は表情でわかる。
「いいけど、どこだろう……」
「特別な場所。じゃあ着替えたら部屋に迎えに行くね」
「良かった」とはにかんだ綾斗につられて、京子は数日振りに笑顔を零した。
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