131 初めての感覚
バスクを捕まえるのはキーダーの仕事だ。
外で気配を捕らえたら、自己判断で追跡するように言われている。
けれど今までは感覚が弱かったせいか、京子がそんな場面に遭遇することはなかった。そもそもバスクの数も多くはない。相手がキーダーの可能性だってあるのだ。
流れてくる気配はそう強い訳ではなく、京子は走り出したい気持ちを抑えて一度立ち止まった。何かあったら連絡を入れろと
事務所へ
すぐに出た綾斗にも話し、「追い掛けてみるよ」と意気込む。
『気を付けて下さいね? 深追いしすぎて囲まれたりなんてことないように』
「うん、なるべくね」
『肝に銘じて下さい』
ピシリと釘を打たれて、「分かってる」と肩をすくめる。
京子は気配を見失わないように、ゆっくりとその方向へ足を進めた。
仕事モードで話す綾斗の向こう側で、パソコンのキーボードを鳴らす音と、
『京子さん、気配はただ発しているだけじゃなくて誰かをおびき寄せようとしている可能性もありますからね? 自分の気配にも気を付けて』
「そういう事も……あるよね」
『俺たちじゃちょっと遠いんで、修司を向かわせます。近くに居るみたいなんで合流して下さい』
追跡にヘリは使えない。
やよいの件以来、
「いいよ、私一人で行けるから」
けれど綾斗は『駄目です』とバッサリ切った。
『普段ならともかく、今はやよいさんの事があって警戒中ですよ? これからだっていつ何が起きるか分からない。後輩たちにも経験を積ませてやって下さい』
「修司、今日の休暇取る時、楽しみそうにしてたんだよなぁ」
『こういう時の優先順位は彼だって分かっているはずですよ』
『そうですよ、全く』と、今度は美弦の声がハッキリと聞こえる。苛立ちがエスカレートしている原因は、修司の休暇の理由にあるのだろうか。
「分かった。じゃあ、修司と行ってくるね」
『宜しくお願いします』
「うん。それと、さっき調べてきた水死体やっぱりバスクだったよ。勘だけど、ホルスと関係あるような気がする」
『後で詳しく聞かせて下さい。俺たちも待機してるんで、何かあったらすぐに呼んで下さいね』
「了解」
この感覚は新鮮だった。罠かもしれないと思いつつ、ワクワクしてしまう。
そんな気持ちが伝わったのか、綾斗が『京子さん』と声を強めた。
『無事に戻って来て下さいね』
「気を付ける。大丈夫だよ、綾斗」
京子は明るく振る舞って通話を切った。
大丈夫だとは思う──けれど、嫌な予感がしたのは事実だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます