38 ジェラシー

 部屋の外にうるさく足音が鳴って、扉が乱暴に開かれる。

 飛び込んできた美弦みつるの姿に龍之介は安堵するが、彼女は苛立った様子で一直線に修司へ詰め寄った。


「ちょっと修司、余計なこと龍之介に吹き込まないで! ナイフはかすっただけよ。キーダーがノーマルを助けるのは当然の事でしょ? 私が油断しただけなんだから!」


 美弦は包帯に巻かれた左腕を掴みながら、修司に向かって声を荒げる。

 修司は不機嫌に腕を組んだ。


「三針も縫ったんだぞ? そんな怪我しといて『だけ』とか言うなよ! さっきも痛いって大声上げてたじゃねぇか」

「皮膚を針で縫ったら、誰だって痛いわよ!」

「そうしなきゃ治らないような怪我だったことを、自覚しろよ!」


 怪我人とは思えない剣幕でまくし立てる美弦は、目の前の修司を睨み上げた。


「あの女、次に会ったらコテンパンにしてやるんだから」


 彼女の首が痛くなりそうな身長差だが、見下ろされる威圧感などもろともせず、美弦は意気揚々と拳を握って戦意をあらわにした。これには修司も面食らって、額に手を当てる。


「そうじゃないだろ? シェイラは俺たちの管轄外。お前が行ったら殺しかねないぞ。今回は俺が出るからな」

「はぁ? 私の代わりに行くとか言うつもり? そんなこと言って私が喜ぶとでも思ってんの? アンタこそ迷惑だって自覚しなさいよ!」


 指を突き付けて訴える美弦を、修司は「はいはい」とあしらって、横の空いたベッドへ無理矢理座らせた。


「お前の代わりじゃなくて、俺がキーダーだからだろ? こういう時くらい行かせてくれ」


 「でも……」と唇を噛んで押し黙った美弦が、ようやく龍之介に気付く。


「龍之介ごめんなさい。忘れてたわ」

「美弦先輩、さっきはありがとうございました。俺のせいで……」


 腕の包帯に申し訳ない気持ちが込み上げて龍之介は深く頭を下げるが、美弦は「いいのよ」と出会ってから一番の笑顔を見せた。


「けど、京子さんの指示を無視して事務所を出た貴方は確かに悪いわよ。シェイラなんて貴方がどうにかできる相手じゃないんだから」

「おい、何でコイツに優しくするんだよ」


 態度の差にジェラシーをにじませる修司。

 「すみません」と思わず謝った龍之介に、「お前が言うな」とさらに機嫌を損ねたところで、再び部屋の扉がバタリと開いた。

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