83 衝撃の後に
「修司くん!」
吹き
意識と共に跳び上がった身体が地面に叩き付けられたらしい。ずっしりと重い手足がなかなか言う事を聞かず、頬に張り付いた硬いコンクリートを無理矢理引き剥がした。
口の中に入り込んだ
目の前の光景が悪夢のようだった。屋上に立ち込める光が
そんな風景の真ん中で姿勢を低くした彰人が、力なく横たわった律の身体を抱き上げている。
だらりと地面に垂れた彼女の腕に修司は
片手で軽く払い落とし、修司は二人の元へ急ぐ。
「無事ですか? 彰人さんも……」
「また君は敵の心配なんかして」
そういう彰人も、このまま律に
状況からすると、律の起こした衝撃は屋上だけで完結しているように見えた。崩れたのは建物の表面だけで、本体には殆ど影響がない。
あの大晦日の夜、モニター越しに見た光景と比べれば大分小規模な爆発だ。
最悪の事態を止めたのが彰人だと理解したところで、修司はハッと律の言葉を思い出す。
『私を庇って暴走を止めたせいで、その男も死んでしまった』
彰人の制服の所々が裂けていて、癖のある柔らかい髪も乱れている。かつて同じように律の暴走を止めた男が亡くなった現実を重ねてしまうが、
しかし彰人の膝を枕に目を閉じる律は息も絶え絶えで、もうこのまま動かなくなってしまうのではないかと不安が過る。
「律さんは……」
「死んではいないよ。バスクってのはどうしてこうも無茶な事ばかりするんだろうね。僕も
「本当に、そうですよね。律さん……」
返事のない律を見守っていると、彼女の
「……彰人?」
「どうしたの? 律」
朝の目覚めにでも応えるように、彰人は穏やかな表情で首を傾げた。
「私、暴走しちゃったの? 貴方、こんなトコに居たら、死んじゃうわよ」
やっと聞き取れる程のか細い声。力なく緩む律の目に涙が
「それとも一緒に、地獄へ行ってくれるのかしら」
律はそうなることを望んでいるのだろうか。けれど、彰人は「まさか」と
「地獄に行く気もないし、今君と心中する気もないからね」
「冷たいのね」
「だって、死んだら君は向こうで恋人の元へ行くんでしょ? そんな
「確かにそうかもしれないわね」
「君とはもう少し一緒に居たかったんだけどね。それと、バレたからには率直に聞くけど、松本
その名前を聞いた律が、明らかに動揺の色を見せる。震える唇をきゅっと結ぶ彼女に、彰人は「分かった」と笑んだ。
「その顔で十分。詳しいことは別の担当に拷問されながらでも吐けばいいよ」
「拷問なんて受ける気ないわよ。けどそうね、私も貴方ともう少し一緒に居たかったわ……」
「そうか、それは残念」
律の言葉が途切れる。再び閉じた目に修司が「律さん!」と呼び掛けるが、彰人が静かに首を横に振った。
「気絶しただけだよ」
彰人は仰向けに眠る律を、膝から地面へそっと下ろした。
「律、君は死というものを安易に受け入れようとしすぎだ。君の罪は消えないけど、
語り掛ける彰人の言葉に、律が笑顔で答えたような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます