82 暴走の予感
「ボロボロって。
「昔、平野さんに注意されたことがあって」
修司に力の兆候が見え始めて、
戦闘訓練と呼べるものではなかったが、初めの頃は光を発動することさえままならず、その練習を繰り返した。
一日を山で過ごして、それでも納得のいかない修司に「帰るぞ」と促した平野を「もう少し」と引き留めた時だ。
──『そんなにボロボロになってまでやったら、暴走するぞ』
流石の
実際にそうなった現場を見たわけではないが、事実なら今の律の状態が危険だということは明確だ。
「可能性があるなら、注意して動くのは大事だね」
彰人が気配を強めて構えを取り、律と
「修司くんに平野さんの話をされた時は驚いたけど、あの人も相当危ない橋渡ってるんだね。僕は身を削るような戦いはしたことないから分からないけど。律、さぁ君をどうしようか」
「私の事は構わないで。殺す気がないなら、ほっといてよ」
「今は暴走の可能性を言ってるんでしょう? 意地張るのは勝手だけど、これ以上他人を巻き込むつもり?」
「暴走なんてしないわ! そんなこと言って、あの男を思い出させないで」
『あの男』というのは、恋人だった高橋を殺された衝撃で暴走しそうになった律を、命がけで止めた男の事だ。
律は、怪我を忘れさせるような声で主張した。
「あの男は、死ぬ間際私に自由になれって言ったの。けど、高橋を殺した奴なのよ? そんな男の言葉なんて、受け入れられるわけないじゃない……ホルスを捨てるなんて私にはできないわ!」
頬を掌で強く押さえ、律は首を横に振った。もう一度パンと音が鳴って、彼女の周りで光が弾ける。
「もう理想論ばかり吐くのはやめた方がいい。本当に暴走するよ」
「私は、ホルスのまま死んでもいいの!」
「死ぬとか簡単に口にするものじゃないよ。望まない死を受け入れなければならない人が、この世にどれだけいると思ってる?」
彰人が強い口調でたしなめる。
律は乱れる呼吸に目を細め、改めて人差し指を構えた。
「律!」と彰人が叫んで、通信機のマイクを素早くオンにする。
「屋上に絶対近付かないように!」
目の前の盾が消え、彰人が掌を胸の前に構えた。
律へ向かって放たれた四つの光が、大きな面となってくるりと彼女を四方から囲む。
彼が手を横に広げるよりも若干長い直方体が、
描きかけた円から指を引いて、「何するの?」と律が目を剥く。
動揺する彼女の必死の抵抗。
「やめて」
なけなしの気配が壁の中に
暴走するのか──修司がそう思った瞬間、ドンと大きな音を立てて律の身体から光が放射した。
白い光が空いた天井から
「修司くん、離れて!」
呆然とする修司を庇って、彰人が前に飛び出る。
光に奪われた意識が戻され、修司は慌てて後ろへ下がった。
『暴走しそうになったら私を殺して』
彼女はこの状況を予想していたのだろうか。バスクでいる覚悟がそう言わせたのだとしても、
「そんなこと、できるわけないじゃないですか! 律さん!」
ミシミシと鳴り出す光の壁に崩壊を示唆して、修司は彰人に視線で助けを求めた。
この屋上で、大晦日の白雪と同じことが起きてしまうのか──光の激しさに身の危険を感じたところで、修司には攻撃することも逃げることもできなかった。
「心配いらないよ。させないって言ったでしょ?」
彰人は「全く」と悲痛な声を漏らす。
「彰人さん、律さんをどうするんですか?」
「今はとりあえず君も堪えて。一気に来るよ!」
「ええっ」
律の姿は見えない。
彼女を取り囲む壁が崩れたのは、彰人が拘束の手を緩めたからだ。
その瞬間、時限爆弾のリミットがゼロを示したかのように、光が壁を突き破ってあらゆる方向へ一気に伸びる。
修司は、必死に自分を
白い光に視界を覆われ、修司は死を予感して強く目を
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