38 帰ってこなかった男
緩くほころんだ
「良くやったと
「そのヤスって人は死んだってこと? それなのに、死体はなかったの?」
「あぁ。回収できなかったんだとよ。それが真実かどうかなんて俺には分からねぇが、あの頃のキーダーは上の話を「そうだ」と飲み込む事しか許されなかった」
颯太は水分補給を繰り返し、再び視線を漂わせる。
「
「能力者の力を
トールを選んだ颯太を、家族は笑顔で迎えたという。
祖父と祖母が互いに子連れで再婚したのは颯太が十歳で、修司の母である千春が四歳の頃らしい。
「解放前のキーダーなんてノーマルにとっては悪魔みたいな存在だったのに、初めて会った時も、トールになって帰って来た時も、あの二人は俺を受け入れてくれたんだ」
「伯父さんは、力を失ったことに後悔してないの?」
「してねぇよ」
キーダーの過去を断ち切る為、家族全員で母親の旧姓である『
「シスコンだったって言ったろ? 俺はトールになって千春の側に戻れた事が本当に嬉しかった。それなのに、お前の父親が突然アイツを奪っていきやがったんだ。アイツは生まれつき心臓が弱くて、出産なんか
颯太は目を閉じて、手の甲でそっと
「あの男が死んで千春はどん底だったけど、出産から五年も生きられないだろうって言われたアイツが、息子の十歳の姿を祝うことができたんだよ」
颯太は修司の髪をてっぺんから掴んで、ぐしゃぐしゃと
「お前が産まれた時、塞いでたアイツがやっと笑ったんだ。もう、お前を国に差し出してやることなんてできなかった。アイツを
修司は漠然と理解して大きく
どこか遠い世界の話のようだが、修司が一番驚いたのは颯太が自分と血が繋がっていないという事実だ。
産まれた時既に亡くなっていた母方の祖父の写真を見て、颯太と良く似ていると思ったことがある。自分もそのうちと期待した時期もあったが、残念ながら彫りの深いイケメンDNAは一滴たりとも流れていないらしい。
けれど修司にとって、颯太が伯父であることに変わりはない。
「あのマンションに二人で帰れるかな」
「そんな心配そうな顔すんなよ、俺はお前の父親変わりだと思ってるんだぜ? 帰ろうと思えばそのうち帰れるさ」
「伯父さん……」
「なぁ修司、トールになれよ。悩むことないだろう? キーダーになるってのは戦って死ぬ覚悟があるかってことなんだ。分かるだろう?」
颯太は感情を高ぶらせ、右の拳を修司の心臓に向かって真っすぐに押し当てた。
「こいつを掛けるんだぞ? ヒーローになってどうする、英雄だと称えられたところで死んじまったらこの世界に戻っちゃ来れない。だから、俺はお前をバスクにしたんだ」
「死んだら終わりだって事は分かってるつもりだよ」
「キーダーになると、金には苦労しない。けど、それは能力への対価だ。キーダーだ英雄だと持ち上げて、仕事にNOは言わせない、そのための金なんだよ」
興奮を沈めるように、颯太は水を
生きることに
お金の話は魅力的だけれど、颯太が言うようにそれだけでキーダーを受け入れられるものでもない。
「
そんな凄い確率で得た力なら、余計に今この場所に居ることを運命だと思ってしまう。
「
頭の整理なんて
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