26 あの顔
暗い夜を走る電車は、遠くに都市の
ボックス席の向かいで
時間は十時を過ぎている。
飲み会があると言っていた伯父の
電池が切れかかっていたことをすっかり忘れていた。予備の充電も持ち合わせていない。
仕方なしに外を眺めながら、音にならないメロディを小さく口ずさんだ。
ジャスティのいつもの曲は
『これからアルガスで訓練して、絶対に強くなるんだから』
彼女は最初に会った日の事を覚えているだろうか。
キーダーを選んで彼女の横に居る未来も、悪い事だとは思わない。けれど――。
停車駅を示すメロディが目的の駅を告げるのと同時に、律の目がパチリと開いた。本当に寝ていたのか? と疑ってしまう様な正確さに驚きつつ「おはようございます」と声を掛けると、「こんばんはだよ」と返事が返ってきた。
☆
いつも修司が使っている駅とは一区間離れていたが、その駅からマンションまでは程よく歩ける距離だ。別の路線へ乗り換える二人と別れようとしたところで、修司は予想外の人物がそこに居ることに気付く。
人の流れに逆らって、背の高い男が仁王立ちで修司を迎えた。見間違いかと目を凝らしたが、そうそう彼に似た人物などいない。
「伯父さん?」
修司の声に、彼の瞳が優しく細められる。偶然にしてはできすぎているが、
「どうしたの? こんなトコで。俺が来るって知ってた?」
「たまたまだよ。酔い冷ましに風に当たってたらお前が電車から降りてきたんだ。俺だって驚いてるんだぜ?」
「あ、うん。律さんと彰人さん。ちょっとだけ訓練に連れてってもらったんだ」
名前を出されて、先に
「遠山です、初めまして。遅くまで連れ回してしまって申し訳ありません」
颯太は「いやぁ」と顔の前で手を振る。
人の流れが途切れ、互いの声がよく聞こえた。短い深呼吸の後に、颯太の右手が修司の肩を叩く。
「こいつもそろそろ十八だし、そんなのは本人に任せてるつもりです。それより、自分の運命に対してはまだまだ未熟だ。変なことしないように見ててやってくれませんか? 何せこの力は下手したら自分以外の命にも係わる」
「それは僕自身も肝に銘じているつもりです」
☆
ゆったりと駅を出ると、夜道には人通りが
修司は彰人たちとの会話を思い出して、颯太を上目遣いに覗き込む。
「伯父さん、あの二人を信用してくれたの?」
「さぁな。あれだけの時間でそんな事分かったら苦労しねぇよ」
二人がバスクだと知って警戒心を見せなかった颯太だが、快く受け入れているわけではないらしい。
「バスクのお前が
「うん……分かってる」
「で、何してきたんだ?」
「力を出す練習……って言ったらいいのかな。初めて大きな力を使ったけど、凄かった。ちょっと怖いくらいで……」
正直、これが素直な感想だ。自分が放つ力は、他人の力を見た時の何倍もの恐怖を叩きつけて来る。
「そりゃそうだよなぁ。
酔いの分、いつもより陽気に颯太は笑う。
「自分が何をしたいかを考えるんだぞ」
そんなポジティブなセリフを口にした彼が、突然「あれ」と表情を陰らせて背後を
「どうしたの?」と
「あぁいや、さっきの……遠山さんだっけ? 男の方。あの顔どっかで見たことある気がするんだよなぁ」
『あの顔』はそう幾つもあるものではないと思うが。
颯太は無精髭の伸びた
けれど。
その答えがすぐに出ていたら、未来は少し変わっただろうか。
運命の日というものは、突然やってくるもので――。
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