4 バレた
彼女の細い手首に巻かれた銀色の環を、時計かと疑ったのは一瞬だ。そうでないとすぐに理解できた。
初めて見る実物に驚いたのも
「ちょっとアンタ……まさか、よね?」
彼女の声が震えている。
一瞬
「おい!」と反射的に振り払うと、彼女は自分の
ほんの一瞬
懐かしいような不思議な感覚だ。
「お前……」
「何でバスクがこんなトコにいるのよ」
「俺にだって、事情があんだよ」
突き返すようにそう言って、修司は警察に
「けど。お前がキーダーだって言うんなら、俺の事
バスクを捕まえるのはキーダーの仕事だ。
こんな結末など予想もしていなかったが、気持ちのどこかで
けれど彼女はすぐに修司を捕まえようとはしなかった。
「はぁ? 何それ。刑事ドラマの見過ぎじゃないの?」
「何それって、お前キーダーなんだろ?」
「アンタは捕まるためにここへ来たの? だったら自分で行きなさいよ。それとも何? 見つかったら仕方なくキーダーになってやろうとでも思ったわけ? ゲームか何かだと思ってるなら迷惑
非難する彼女の言葉に修司は言い返すことができなかった。
彼女と同じ力を持って生まれた。それなのに銀環をして縛られた彼女と、自由なはずの自分の立場が逆な気がして、急に自分の運命を呪いたくなってきた。
誰にも言うまいと縛り付けていた感情が、彼女との出会いでするすると解けていく。
駅に入って来た電車の音に
「お前は小さい頃からキーダーだったんだろ? ちやほやされて生きてきたんじゃねぇか。そんな奴に俺の気持ちが分かるかよ」
自由に生きるためにと閉ざしてきた力には
しかし彼女の口から返された言葉は、頭上のアナウンスをぶった切るような鋭い
「ふざけんな! アンタにだって私の気持なんかわかんないわよ!」
一瞬涙を引き起こすように
押し黙る修司に詰め寄り、彼女はいきり立った声を上げた。
「そんな
「トール? って、何?」
彼女の言葉に押されつつ、修司はどうにかその単語を聞き返した。
初めて耳にする言葉だ。
「そんなことも知らないの? キーダーの力はキーダーの力で消すことができる。そうやって力を消した人間のことをトールって言うのよ」
力を持って生まれた能力者のうち、
国の管理を逃れて身を
トールは、元々力がありながらもその能力を故意に
「別にトールになる事は悪いことじゃないと思ってる。キーダーの仕事は特殊だし、なりたくないならならない方がいいと思うの」
少し落ち着きを取り戻した彼女は、
「でも何で捕まえるのが今じゃなくて次なんだよ」
「私は正式な
キーダーの仕組みとやらが修司にはまだ良く分かっていなかった。
そういうものなのかと
「だから今日だけよ? バスクは危険だって言うけど、アンタのこと信じる。何かしたら今度こそ私が捕まえるから」
「わかった」と頷いて、修司はアルガスの方向を仰いだ。
壁に
「少しだけ付いて行ってもいいか?」
建物を一目見てから帰ろうと思った。そしてまだ
もう少し近付いたら、平野に会えるかもしれない――その可能性を捨てきれなかった。
「変な奴。好きにしたら?」
彼女は否定せず、青灰色の石畳が敷かれた道を先に歩き出した。
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