Episode2 修司

1 350キロ先の衝撃

 能力者として生まれた自分が、バスクとして育って。


銀環ぎんかんの束縛を逃れて生きることは、本当に自由なのかな――?」


 何気に聞いた質問に答えをくれないまま、平野ひらの修司しゅうじの前から姿を消した。



   ☆

 町の一角が一瞬で消えたその日の光景は、今でもはっきりと覚えている。

 テレビに映し出された風景は、350キロ以上離れた東京で起きた爆発事故だ。

 記録的大雪が東京に舞い降りたその日、白に覆われた町が黒いすすで丸くくり抜かれた風景を子供なりに怖いと思って、かたわらで一緒に見ていた伯父の手を必死に握りしめた。


 その日は大晦日。

 家には伯父が来ていて、体調の良かった母親と三人で「日が変わる頃になったら、近所の神社に行ってみようよ」と話していた矢先の事だ。

 年末ムードだったテレビが一斉にその事件に切り替わり、深夜の約束が消えてしまった。


 半径八十メートルを一瞬で焼いた光は、二十年以上前に世間を騒がせた隕石落下を彷彿ほうふつとさせたが、五年経った今になっても詳細はいまだ公表されていない。

 いつも穏やかな伯父がテレビに向けて「畜生ちくしょう」と吐いた横顔は、今でも修司の頭にこびりついている。


 死者四人、負傷者八人を出す大惨事となったこの事件は、インタビューを受けた青年が「白い雪が全てを隠そうとしているみたい」だと呟いた事から、『大晦日の白雪おおみそかのしらゆき』と呼ばれた。


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