38 癖のある男
法廷もとい報告室前。
一時間に及ぶ質問攻めからようやく解放された京子は、よろよろと廊下のソファに崩れた。
「今日は三人とも機嫌が良かったですね」
先に報告を終えた
「まさかのキーダー確保だからね。年齢は置いといても、訓練が明ければ東北支部にキーダーが入るってだけでアルガス全体がお祭り騒ぎだよ」
「東北はずっと空席でしたからね」
「まぁ嬉しいのは分かるけどさ。三人ともテンション上がりすぎて、眉毛なんて「熱出したんだって?」って言って
眉毛・髭・眼鏡と京子に呼び分けされている三人のうち、一番面倒なのが眉毛だ。
主張の強い太眉を貼りつけた彼は毎回京子を
「それだけ京子さんが頑張ったってことですよ」
「綾斗にもいっぱい迷惑かけちゃったけどね」
「俺は構いませんけど。それより」
ソファに沈む京子の横に腰を下ろし、綾斗はもの言いたげにその顔を覗き込んだ。
「泣いてたんですか? 顔が
「えぇ……朝ちゃんと顔洗ってきたんだけどな」
「だったら余計にです。ちょっと泣いてたって顔じゃないですよ」
「えぇ」と京子は腫れぼったい
「あれから
「うん。マンションに戻ったら調度帰って来たんだけど、それから色々あって出て行っちゃったの」
「出て行ったって、桃也さんがですか?」
力なく
「俺、セナさんと二人でマサさんから桃也さんの話聞いたんです。多分、全部……」
「そっか。びっくりしたよね?」
「一人で泣くくらいなら、俺のトコ来てくれて構わないんですよ? こんな時はお酒飲んだって文句なんて言いませんし、愚痴でも何でも聞きます」
「ありがとう、綾斗。私、どうしたらいいんだろう」
桃也と暮らし始めて、罪悪感が抜けることはなかった。ついこの間、それを綾斗に話したばかりだ。
綾斗はその気持ちを受け止めるように頷く。
「桃也のこと好きなのに、現実は私が思ってたよりずっと複雑で。自分が今何をしていいのか分からなくなっちゃった」
『大晦日の白雪』があったあの日、キーダーとして何もできなかった自分への罪悪感を
それなのに、あの事件を起こしたバスクは桃也自身だという。
「話がしたいのに、どこ行っちゃったのかな。数日で帰るってメモは置いてあったけど」
「数日なんてすぐですよ。だったら今は桃也さんを信じて待ってればいいと思います」
「そう思う?」
「はい」
心配顔で返事する綾斗の声に、遠くからやってくる足音が重なる。
騒々しく近付いた気配に顔を見合わせると、
「
その意外な人物へ先に声を掛けたのは綾斗だ。
「綾斗ぉ! やっと会えたね、嬉しいよ」
立ち上がった綾斗に勢いよく抱き着いた
恋人同士の再会かと思わせるような彼の抱擁に、綾斗は嫌がる素振りも喜ぶ様子も見せず、されるがままの状態だ。
「京子ちゃんも、お久しぶり」
取って付けたような挨拶に、京子は「お久しぶりです」と二人をじっとり観察する。
「そういう関係だったんですか?」
「そういうって、京子ちゃんどんなの想像してるんだよ」
久志は人懐っこい猫目を光らせて、
京子はこっそりと薔薇色のロマンスを頭に描き、「何でもないです」と目を
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