ハロウィンの終わる時には

幸郷裕志

第1話 私の親友の話

私が住んでいる街は、どういうわけか行事にすごく熱心だ。

クリスマスやお正月、七夕などの行事が迫ってくると、決まって街を飾り付けたり、お祭りのような屋台を沢山出す。

それは、ハロウィンの時も例外ではない。

今日は10月30日。言うまでもないが、ハロウィンの前日。

しかも夜という事もあり、既に街はあらゆる所にハロウィンかぼちゃが飾り付けられていたり、少し見上げれば、そこにはイルミネーション用の小さい電球がたくさん民家や店の間に吊るされている。

それは星屑よりも明るく色とりどりに輝いていて、街ゆく人々の瞳をも輝かせる。

確かあの電球って、ガーランドライトとか言うんじゃなかったっけ。まあ、どうでもいいや。

仮装して無邪気に走り回る子供を想像し、今私の視界に広がっている景色に合わせてみる。明日はさらに賑やかになるんだろうなぁと、笑みが自然とこぼれた。


ハロウィン。それは死者の魂がこの世に舞い戻って来る日。


ハロウィンというのは本来そういう日らしい。

仮装をするのは、この世に戻ってきた幽霊に取り憑かれないように、幽霊と見分けがつかないようにするためらしいけど、今となってはなんでもありになってる。

流行りのアニメのキャラだったりと、少なくともそれ幽霊の仮装ではないよね、というようなものばかり。

まあ、皆が楽しんでいるのだから、今更仮装の基準だなんてどうでもいいのだろう。

現に今も、明日を楽しみにしながら、なんの仮装をするかとか、どこの屋台をまわるかだとかの話で盛り上がっている人々でいっぱい。人とすれ違う度に、そんな会話が聞こえてくる。

でも、私はそれほどまでに楽しみかと言われたら、首は縦には振れない。

賑やかになる街を見るのは楽しみではあるけど、でも、それだけだ。

誰かと一緒に仮装して盛り上がったり、誰かと一緒に屋台をまわり合ったりということはしない。というより、できない。

去年までは、その「誰か」が1人だけいたんだけどな。

さっきまで自然とこぼれていた笑みは、いつの間にか消えていた。

私は、唯一の友達──かつての唯一の友達と言うべきなのかもしれないけど──あずさのことを思い出していた。

あずさは、3年前に出会った私と同い年の女の子。孤独だった私に手を差し伸べてくれた唯一の友達。

それはもう姉妹のように仲が良くて、ハロウィンの時も一緒に過ごしたものだった。

でも、去年の冬にあずさのお母さんが亡くなってしまってからは、疎遠になってしまっている。

あずさのお母さんは、私とあずさが出会った時には既に病院にいたらしい。その事は、亡くなるまでは一切知らなかった。

あずさは酷く落ち込んでいて、私はなんと声をかけたらいいか分からず、そのせいであずさと一切会話をしない日が続いた。

あずさと初めて出会った時は、あずさは独りぼっちだった私に寄り添ってくれた。それなのに、落ち込んでるあずさに寄り添ってあげることが出来なかった自分は、すごく愚かだと思う。

そんなことがあったから、今更なんと声をかけたらいいのか分からずにこうして疎遠になってしまっている。

今年のハロウィンは、1人かぁ…。

親も明日はいないし。

そんなことを思いながら、私は帰路に就いた。


家に着いた時には既に21時だった。明日は休みだけど、夜更かしする必要もないし、さっさとお風呂に入って寝よう。

とりあえず荷物を置くために、自分の部屋に入った。

本棚に目をやると、私とあずさが笑顔でピースしてる写真が、可愛らしい花の彫刻が施された写真立てに収められている。

この頃のように、またあずさと仲良くなれたらどんなに幸せだろうか…。

あずさは今、私のことをどう思ってるのかな。まだ私のことを想ってくれているのかな。謝ったら許してくれるのかな。などという考えが頭の中を駆け巡る。でも、謝ると言ってもどう謝ればいいんだろう。

あの時寄り添ってあげられなくてごめんなさいとでも言うべきか。でも、何を今更って怒られるかも。

どっちにしろ、私に謝るような勇気はない。

仲直りしたいけど、行動は起こさないという矛盾した考えに、我ながら嫌悪感を抱く。

これ以上考えても虚しくなるだけなので、その写真から逃げるように部屋を出て、お風呂に入りに行った。

結局お風呂の中でもあずさのことは脳裏から離れず、お風呂から上がったらすぐにベッドに潜り込み、現実から目を逸らすように夢の中へと逃げ込んだ。

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