魔法少女のヒーロー
てふてふてふ
プロローグ 運動会で親が撮影した映像を見返す気分
「これとか迫力満載でとても見ごたえがあったっきゅ」
薄暗い部屋の中、2つの影が1つの大きなテレビに映し出された映像を見ながら話をしている。
変な語尾を付けて興奮気味に唾を飛ばしている影は、まるでまんじゅうに獣耳と尻尾を付けたような、どう取り繕っても人間であるとはいい難い姿形をしている。
異形の姿はもちろん、時折宙に浮遊しながら踊るように揺れている所を常人が目撃したならば、自身の正気を疑うかもしくは新種の生物であると無理やりにでも納得させるだろう。
「いつの間に撮影なんかしてたのやら・・・。顔も隠れてないし映像に残すのはまずいんじゃなかったの・・・?」
その無理やりにでも当てはめるのならば猫だと呼称すべき異形のまんじゅうの隣では脱力したようにソファーによりかかり、呆れたような表情をしながらもどこか満足そうに映像へと目を向ける影がいる。
十人に聞けば半分は人間の少女であると断言をしてもらえるだろう彼女は、残りの半分からは人間ではなく人形なんじゃないかと疑われるような容姿と服装をしている。
脚まで届く黒紫のロングヘアー、シミのひとつも見当たらない素肌、鋭い視線を強調するかのような桔梗を彷彿させる鮮やかな紫の瞳。
そういった、ただでさえ人形染みた容姿の数々に加えて、服装はリボンとフリルがたくさんあしらわれているファンシーな、黒と深い青紫で彩られたものを着こなしている。
ヘンテコな生き物?とまるで人形のような生き物?の組み合わせは、まるで朝の番組に登場する正義のヒロインを彷彿とさせる。
「これはプライベート用だから問題ないっきゅ。それとも撮影されるのは嫌だったっきゅ・・・?」
それまでピンッと立っていた耳と尻尾がヘナヘナとしおれていくまんじゅうに少女は苦笑しながら手をひらひらと振る。
「いやいや、問題ないならいいんだ。僕も別に嫌ってわけじゃないからね。ただまぁ、こんな風に楽しんじゃっていいのかなってちょっとだけ罪悪感をおぼえちゃってね・・・」
その言葉を聞いて徐々に耳と尻尾がとがり始めを見せるまんじゅうとは裏腹に、軽く振っていた手から力を抜きながら少女はソファーに徐々に沈んでいく。
「気にしすぎはよくないっきゅ。それにボクらは仕事もきちんとしてるっきゅ。役得と思っておくくらいがちょうどいいっきゅ。それよりも次はこっちを見るっきゅ!」
いそいそとリモコンのようなものを操作しながら飛び跳ねる姿を見た少女は、少しだけ身体を起こしながらまた映像を見つめる。
画面の中では黒くドロドロとした粘液に赤い眼を取り付けたかのような、怪物といっても差し支えがないであろうモノが、真夜中の大通りを街灯や周囲の建物の窓から差し込む光によって照らされながら蠢いている姿が映し出されている。
家やビルなどの建造物と比較して、おおよそ象くらいは体長がありそうな怪物の前には、その怪物からすればあまりにもちっぽけな少女が立っている。
怪物が押しつぶせばひとたまりもないであろう体格差のあるはずなのに自身の数十倍はある大きさの怪物に慄くこともなく、少女が手に持つものを向けながら何かを呟いた次の瞬間、鋭い閃光と共に輝く光の刃が怪物に突き刺さる。
「|||||||||||||||」
言葉として認識のできない怒号を上げながら消滅していく怪物を満足そうに見つめた少女は、風になびく、その余りにも過多なリボンとフリルで装飾されたスカートとロングヘアーを翻しながら闇へと消えていく。
ドヤ顔といっても差し支えがないであろう表情をしていた画面の中の人物を見ていた、双子どころか同一人物である少女は、自身のちょっとした気分の浮つきによる行動を改めて見てしまい恥ずかしいやらなんやらで顔を覆い隠してしまう。
(だって仕方ないじゃないか。誰だって子供のころに願っていた夢が叶えばこうなるはずだ。それがたとえちょっと不本意なものだったとしても・・・)
誰が聞いてるわけでもないのに自身への言い訳を悶々と繰り返す少女と、お気に入りの場面を繰り返すまんじゅうの平和な日常が過ぎていく。
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