終 章
終 話 今、私にできる事
2011年12月12日、月曜日
大学に通う私たち三人はサークル活動が終わってから良く、喫茶店ドレスデンへ寄っていました。だけど、今日は将臣が偶には違う店に行こうぜ、と持ちかけるから紅茶専門店の花水木へ向かったんです。
そのお店に到着して店員さんに席を案内してもらっている最中、またもや私達は慎治さんを発見してしまいました。
ちょっと異色な組み合わせで、何かを企んでいる雰囲気満々の慎治さん。
彼と同席していたのは皇女先生と、翔子先生。
それとなんと、弥生ん所のパパさん、将嗣さんもなんですよ。
一体全体どんな密会をして下さっているんでしょうね?
「しぃ~~~んじっさん、何を企んでいるんですかぁ~~~」
「親父、何やってんだよ、こんな処で。皇女先生。それとしょうこせぇ・・・、うんくぅゃぁ、翔子さんこんばんは」
「皇女先生、翔子お姉様、こんばんわです」
二人に丁寧に挨拶する弥生だけど、彼女のパパさんには厳しい目を向けていました。
「お前等の嗅覚は犬以上だな、まったく」
「褒めても、何も出ませんよぉ、慎治さん、どんな密談をしていたんですか?正直に吐き出して下さい」
「ちょっくらシンガポールまで行ってくるための段取りさ」
慎治さんはそうあっさり答えてくれるも、後に続く言葉は私達は絶対に連れて行かないとの事でした。
ふふふっ、ここは私の切り札の切りどきかな?
「もしかしてぇ、慎治さんがシンガポールに行く理由はこの人に関係あるのかなぁ、源太陽さんだったかな?」
私は言葉と一緒に何時も持ち歩いていたアメリカで見つけたあの写真を出して、一人の人物に指さし示した。
度肝を抜かれたような表情をするけど直ぐに冷静ぶる慎治さんと、鼻で軽く驚く、将嗣パパさん、懐かしそうな目で写真を見る皇女先生。どうし、私が源太陽と言う名前を出したのかは、基本的に適当です。
ただ、写真の中の人物関係は前もって調べていた事でした。
情報入手に貢献して下さったのはクライフさんです。
弥生には秘密ですけど、弥生との仲を取り持ってあげるって言ったらものすごい反応速度でOKして下さいました。
「余計な事に首を突っ込まないでくれってお願いしたじゃないかっ!いつ何時、どこに危険が転がっているか分からないだ」
「一緒させてくれないと、私達もっと危険に足を突っ込んじゃいますよ。それを止められるのは慎治さんの判断にかかっているんですけどねぇ」
「翠ちゃんなぁ、俺を脅す気か?」
「はい、シンちゃんの負けです。将嗣ちゃん、いいですわよね、将臣ちゃんと、弥生ちゃんをお連れしても」
「・・・、仕方があるまい。行って何になるとは思えぬが」
「翠ちゃん、弥生ちゃん、それと将臣君も遊びに行くのではない事をしっかりと認識して下さいまし」
「そりゃぁ、引率の翔子先生がちゃんと監督しなきゃならない事っすよ」
将臣は悪戯に笑いながらそう言うと翔子先生も負けじと怒りを孕んだ笑みを彼に戻していました。
それから17日、土曜日に一行ちょっと予想以上の団体になっちゃいましたけど私達はシンガポールへと向かいました。
そこへ何しに行ったのかは秘密です。
第五部のお楽しみです。ですから、それまで待っていてください。
シンガポールから日本に帰ってきてからここ数日、何かしらの危険に合う頻度が不自然なほど多かった。
慎治さんの推測ではアダム計画に反目する誰かが、それに関係する特定の人たちを早急に亡き者にしようとしているとのことです。
私はシンガポールから戻ってきてからさらに強く考える様になったことがあります。
私の命は確かに秋人パパや葵ママから授かったもの。
でも、私が生まれてくるのには多くの人達の協力があった上に成り立った物。
私が思っている以上に大事な命。だから、私はこの命を無駄にしちゃいけないです。
私に命を呉れたみんなに感謝したいから、大切にしたいんです。
誰とも知らない相手にむざむざと私の命を奪われたくなんかない。
もうそばにいない春香お姉ちゃんや私の大事な先輩達の分まで一生懸命に生きていきたいんです。だから、守らなきゃ、私を。
一人では無理かもしれないけど、私には私を理解してくれる親友弥生がいる。彼氏将臣もいる。
アダムに関する事。もう、私にどうこう出来る問題ではない事を悟っています。
慎治さんがこの複雑な事件を解決してくれるまで、私が出来る事は唯一つ。
それは相手の思惑に落ちない事。私自身を守り続けること。それは弥生たちも同じ。
慎治さんは言ってくださいました。
シンガポールの帰りの飛行機の中で『この一週間のうちに必ず決着をつけるな』と。
私達三人は事件の早期解決まで普段の生活に身を置きながらも、私達の身に忍び寄ろうとする魔の手から逃げ切る事を誓ったんです。
『私達、切りぬけて見せます。でも、慎治さん、無理はしないでくださいね。慎治さんも狙われている一人なんですから』と、青天の空の向こうの何処かに事件解決のために奔走している慎治さんへ、その様な事を思ったのでした。
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