CRoSs☤MiND ~ 想い、繋ぐ未来へ ~ 第 四 部 涼崎家編

DAN

第 一 章 儚き迷走

第一話 目覚める事の無い明日

第一話 目覚める事のない明日


 私、涼崎翠は今どこにいるの?

 殆どの友達に見せたことのない不安げな表情で、私の立っている場所からあたりを見回す。

 私の影すら射さない本当に地に足を着けたっているのか、私の方向感覚すらちゃんと働いているのか分からないそんな空間に私は放り込まれている感じ。

「ここはどこ?みんなどこへ行っちゃったの・・・」

 現実の世界で私の大切な親友と一緒に大きなトラックに撥ねられ、奇跡的に一命は取り留めたもののこん睡状態のまま意識を取り戻していない事を知らない私は非現実な暗闇の場所で一人そう言葉にしていた。

 全ての悲しみ、憤り、憎しみ、恨み、辛み、そして大きな悔みすら忘れ、私はその空間に無感情に佇んでいた、忘れてはいけない大事な思い出、私のことを好きだって、言ってくれたあいつすら捨て去り・・・。

「今の私に生き続ける意味なんて・・・」

 私は深淵の闇へ惹かれ落ちてゆく、ゆらりゆらりと回る事を諦めそうな独楽の様に身体を回転させながら、墜ちてゆく・・・。

 本当は今の私に落ちてゆくという感覚すら正しいかどうか分からないです・・・。

20XX年X月XX日、X曜日

 涼崎翠と結城弥生の二名がいる病室へ一人の男が訪ねてきていた。

 その男が持ってきた花束を古いものと活け換え身の回りの彼の出来る事を整え、それが終わると折りたたみのパイプ椅子を開き、それを二つの寝台の間に置きおおざっぱに座って、両名の顔を覗き込んでいた。

 代り映えしない彼女等を見、小さく嘆息するその男は勢いのまま天井に顔を向け、少しの間、面白みもない天井の模様を漠然と眺めていた。

 誰が此処へ来て今その様な姿をしているのか眠ったままの涼崎翠には分からなかった。

 一人目の来訪者が訪れてから、大凡一時間弱、また別の男が病室へ訪ねて来た。

 その男は涼崎翠に見舞いに訪れたのではなく、結城弥生の方だった。

 しかしながらその彼と彼女に直接的な面識はない。

 年の頃は結城将臣と一、二歳くらいしか変わらない。

「今日も、来てくれたのかい?」

 結城将臣はやや皮肉色を乗せ、後から来た男へそう告げる。

 男は白眼視を返し、将臣はその目を鼻で笑う。

「これは僕の義務ですから・・・」

「そんな義務、誰も望んじゃいないさ」

「確かにそうかもしれません、ですが詩織姉さんが事の原因なら、亡き姉に代わりその弟が務めを果たすというものが道理でしょう・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、・・・、そもそも、あの男が、藤原貴斗がこの世に存在していなかったら、将臣さんの妹さんも、貴方の大切な方もこのような事に巻き込まれずに済んだはずなのに、詩織姉さんも、涼崎さんのお姉さんだって・・・」

 その男は将臣から視線をそらし〟その男〝と〟藤原貴斗〝と口にした時の瞳と声には相当な憎悪が込められていた。

 将臣はその言葉を耳にし、怒り心頭顔と威圧する視線で声を出した。

「てめぇ、それ以上、貴斗さんの事を悪く言うんじゃねぇ、泣かすぞ」

「出来るものならどうぞ。どんなに凄まれても僕は将臣さんに負ける気はしませ。でも、指は痛めたくありませんから、遠慮しておきます。

ああ、そうでしたね、僕が得意なのはもとも足技でしたから勝負になりませんね」

 冷ややかな視線を向けながら余裕な口調で将臣に返すその男。

 彼は将臣が藤原貴斗を尊敬していたことを知っていた。

 その逆に結城将臣もその男が貴斗を嫌悪する理由をそれなりに察していた。


―   ―   ―


 だけど、私、涼崎翠には将臣が誰と話しているのか、その相手がどんな顔をしているのか、どうして、貴斗さんの悪口を言うような態度をとるのか知ることはできません。

 将臣もその彼の相手をすることが馬鹿らしくなったのか急に立ち上がった椅子へどっさりと座り込み、ぞんざいに言い放つ。

「こんな所で喧嘩沙汰して、次の大事な大会をポチャにするのも馬鹿らしいイ・・・」

「ぼくも、将臣さんのその判断は賢明だと思いますよ」

「用がないなら、さっさ帰ってくれよ」

「ええ、そうします。ぼくも忙しい身ですから」

「なら、来る必要なしだ。お前が来たからとって翠も、弥生も目覚める訳じゃないしな」

「そうかもしれませんね・・・・・・、将臣さんが僕の事を嫌いだからって持ってきたこの花束、ゴミ箱へなんて捨てないでくださいね・・・、では」

 そう言い残すとその男の人は帰っていくようでした。

 将臣は、将臣の奴が持ってきて、私と弥生に半分にして分けて花瓶に添えていた花束を私の方だけに綺麗に活け直すと、捨てるなと言った彼の花束を無造作に弥生の花瓶に突っ込もうとせず・・・、ちゃんと包装を剥いで丁寧に挿していました。

 将臣は見た目、そういう事を無造作にしそうに見えるけど、そうじゃないんだよね。

 私がいつから、ここで目を覚まさない眠りについているのか見当がつかない。

 初めの頃、どのくらいって聞かれたらはっきりと答えなんて返せないけど、その頃は学校の友達がお見舞いに来てくれた。

 徐々にその足は遠のいて、結局最後には将臣とその男の人しかこの病室へは訪れなくなってしまった。もう、ひどい事にパパもママも春香お姉ちゃんの時と同じようにほとんどお見舞いに来てくれないんだもん。頭にきちゃう。

 現実の状況が全く分かっていないはずなのにどうしてそのような感情が私の中に込み上げてくるのか一切理解できなかった。

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