ブバルディア

Miner

本編

小さい頃、少しの間だけ猫を飼っていたことがある。


小学校の帰り道に目新しい段ボール箱を見つけたんだ。最初は誰かが勝手に捨てていったのだと思っていた。


でも、中から小さな声が聞こえてきて何か動物が捨てられているってわかった。


当時の俺はわんぱくだったから興味半分で箱の中を覗いた。


そしたら中には、黒い子猫がいた。その子猫は弱っているみたいで小さな声で「ミィミィ」と鳴いていた。


俺はポケットに給食のパンが入っているのを思い出して、少しだけちぎって子猫にあげた。子猫は恐る恐るパンを食べると、お礼をするかのように小さく「ミィ」と、鳴いた。


それから毎日のように通った。最初は給食で残ったパンや牛乳を与えていたが、途中で幼馴染の露崎つゆさきあかねに見つかり一緒にキャットフードを買うことになった。


でも、飼い始めて半年くらい過ぎたある日、子猫は突然姿を消した。その日は茜と一緒に暗くなるまで猫のことを探しけど見つからなかった。


あとで聞いた話によると、どうやら近隣住民が通報したらしく、保健所に引き渡されたらしい。


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さて、どうしてそんなことを思い出しているかというと、日めくりカレンダーのページが黒猫だったからだ。そんな風に感傷にふけっていると


「徹(とおる)‼早く起きないと遅刻するよ!」


と、一階から母の言葉が飛んでくる。感傷に浸っていた俺はハッとして


「すぐ行く!」


という、返事を返しながらカレンダーをもとの位置に戻し、制服を手に持ち、一回のお風呂場へ向かった。


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お風呂場へ向かう途中でいい匂いが漂ってきた。どうやら今日の朝ごはんは昨日の残りのカレーらしい。


俺は急いでシャワーを浴び、制服に着替えた。そのままキッチンに朝食を食べにいく。


「あんたの好きなチーズ、ここに置いとくからね」


そう言いながら、先に取り分けておいてくれた俺のカレーの隣にチーズを置いた。


朝からチーズとカレーとか重! そんな食えんわ! まあ、うまいけど…

とか考えながらテレビをつけてカレーにチーズを乗っける。


テレビでは交通事故やら逃走犯、政治家の汚職などのニュースが流れてくる。あんまりおもしろくもないニュースをなんとなく眺めながらカレーを食べ進める。


「うわ、まじかよ、もうこんな時間じゃん!」


食べ終わったころには出発の時間が迫っていた。


歯磨きをする暇はなかったので、マウスウォッシュだけやって靴を履いた。


「行ってきます!」


返事を聞かずに玄関を出ていく。後ろから


「行ってらっしゃい」


と、母親の声がかすかに聞こえた。




家を出てすぐのところで


「おはよう」


と、茜がこちらに駆け寄ってきた。


茜は家が隣同士ということでよく一緒に遊んでいた。

あの猫も一緒に育てていたくらいだ。簡単に言うと幼馴染だ。

そして、俺の片思いの相手でもある。俺はいつものように


「おはよう」


と、返す。


家から学校までは歩いて二十分位かかる。そんなにかかるなら自転車を使えばいいのにと思うだろう、俺もそう思う。

でも校則で自転車が使える人は徒歩で三十分以上かかる人と決まっているので自転車が使えない。この校則作った人はなんでこんな校則にしたのか。

理解できない。


とか思いながらいつものように世間話をしながら歩いていると、後ろから自転車に乗った井上いのうえ裕也ゆうやが声をかけってきた。


「お二人さんは今日もラブラブですね~」


完全に煽ってきてやがる。まあ、いつものことなのでスルーしつつ、別の話題をふる。


「はいはい、ところでお前そろそろ大会だろ」


「まあな、最近は忙しいけど今日は朝練が休みなんだよな」


裕也はこの辺で有名なサッカークラブに入っていて、結構活躍しているらしい。

あんまわかんないけど、高一なのに二軍のエースをしていて、そろそろ一軍に上がれるそうだ。


そのまま茜と三人で話しながら学校に向かった。


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学校についたら、俺たちと茜は分かれる。少し残念だがクラスが違うから仕方ない。


俺たちクラスに入ると斎藤さとう和樹かずきが近づいてきた。彼はクラスでそんなに背は高くないし、運動も勉強も特段出来るわけではないが、一つだけ抜きんでていることがある。


それは、ませていることだ。


彼は河原で拾ったエロ本を学校に持ってきたり、先生へのセクハラや女子更衣室の覗きなど数々の伝説を残すませガキだ。女子は彼のことをまるで汚物のような目で見るが、ほとんどの男子は彼のことを尊敬のまなざしで見ることが多い。


そんな彼は別に悪い奴ではない。実際、裕也と俺と和樹でよく遊びに行く。


「おはよう!二人とも」


「おはよう!」


「こん~」


「いや、朝だから略すならおは~だろ!」


「そういえば、そろそろ新作のゲーム機が出るんだってね」


「お前あれ買う?俺は高いし買わないかな」


「え、買わないの?てっきり裕也は買うのかと思ってた」


「俺は買うぜ‼新作のゲームの中に推しキャラが出るゲームがあるらしいからな」


「お前そうゆうのばっかりやってるから女子から引かれるんだぜ」


「いやいや、俺はモテモテだぜ‼」


「女子以外からな」


なんて話していると教室に先生が入ってきた。どうやらもう時間らしい。


「はい、席着いて‼」


それを聞いてみんな自分の席に戻っていく。


「え~今日は…」


と、面白くない話を先生がし始める。正直ねむい。


それでも頑張って先生の話を聞き終える。簡単に言うと、最近物騒だから気を付けてね。ということらしい。


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キーンコーンカーンコーンと、大きな音でチャイムが鳴る。ようやく帰れる。

先生の話を終え生徒たちは思い思いの行動を始める。


みんな、部活に行ったりゲーセンに行ったりするらしいが、俺は部活に入っていないしゲーセンに行くようなパリピな人種ではないので帰る。


というか、新しく最近出たゲームを早くやりたい。決して一緒にゲーセンに行く友達がいないわけではない。ただ、裕也はサッカーで忙しいし和樹は部活に入っていて一緒に行けないだけである。決してボッチなわけではない‼


「は~」


と、ため息をつきながら教科書をロッカーにしまい帰ろうとしたところで、裕也と和樹が話しかけてきた。


「俺らこれから和樹の家で遊ぶんだけど来る?」


と、裕也が誘ってきた。


「サッカーはどうしたんだ?」


「どうやらコーチが体調崩したみたいで休みになった」


「そうなの?ま、わかった。何時に行けばいい?」


「四時くらいに集合で」


思いがけず遊ぶ約束をしてしまった。


そういえば何して遊ぶか聞いていない。まあゲームでも持っていけばいいか。


などと考えながら下駄箱へと向かった。


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下駄箱まで行くと茜が待っていた。茜は俺のことを見つけると、近寄ってきた。どうやら俺を待っていたようだ。いつものように少しだけしゃべり、一緒に帰る流れになり一緒に帰る。


いつもの交差点をいつものように茜と渡る。周りには下校中の中学生やこれから遊びに行くであろう高校生、パンパンの袋を持った買い物帰りのおばちゃんたち。いつもと変わらない帰り道。




そんないつもの風景が一瞬にして豹変した。




遠くから悲鳴が聞こえてきたと同時に猛スピードで車が近づいてきた。それは多くの人々が渡っている途中の交差点にスピードを緩めることなく進入しようとしていた。


俺はすぐさま茜を抱え歩道に走った。


それがいけなかった。


車はほかの車にぶつかり、俺たちがいる歩道に猛スピードで突進してきた。


俺はとっさに茜をかばい、意識を失った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



気が付くと俺は自分の部屋のベッドで目を覚ました。大きなあくびをしながらベッドから降りる。


さっきまで見ていたリアルな夢がまだ脳内にこびりついている。最悪な目覚めだ。


俺は机の上に置いてあるカレンダーをめくった。そこには夢で見たものと同じ黒猫の写真が載っていて日にちも同じだった。


なんとなく嫌な予感がした。さっきまで見ていた夢が現実だったかのように感じる。


他のことを考えて気をそらそうとしたところで、一階から


「徹‼早く起きないと遅刻するよ‼」


と、母親の大きい声が飛んでくる。


「すぐ行く‼」


という、返事を返しながらシャワーを浴びるために制服を持って一階に下りる。


お風呂場へ向かう途中でいい匂いが漂ってきた。どうやら今日の朝ごはんは昨日の残りのカレーらしい。なんか若干胃もたれしてきた。


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俺はシャワーを浴び、制服に着替えた。そのころになれば悪夢のことなどほとんど忘れていた。


そのままキッチンに直行する。やっぱりカレーだった。


「あんたの好きなチーズはここに置いとくからね」


そう言いながら、先に取り分けておいてくれた俺のカレーの隣にチーズを置いた。


俺はテレビをつけてからカレーにチーズを乗っける。


テレビでは交通事故やら逃走犯、政治家の汚職などのニュースが流れてくる。あんまりおもしろくもないニュースだったのから、チャンネルを朝の情報バラエティー番組(?)に変える。


こっちもあんまりおもしろくない。占いだけはまあまあ面白かった。


食べながら思ったけどチーズは失敗だった。ものすごい胃もたれしてる。


そんな感じでテレビをみながらカレーを食べていたからか食べ終わったのが出発する時間ギリギリ。


歯磨きをする暇はなかったので、マウスウォッシュだけやっていそいで靴を履いた。


「行ってきます‼」


返事を聞かずに玄関を出ていく。後ろの閉じた扉の奥から


「行ってらっしゃい」


と、母親の声がかすかに聞こえた。




家を出てすぐのところで


「おはよう」


と、茜がこちらに駆け寄ってきた。俺はいつものように


「おはよう」


と、返す。


いつものように世間話をしながら歩いていると、後ろから自転車に乗った裕也が声をかけてきた。


「お二人さんは今日もラブラブですね~」


完全に煽ってきてやがる。まあ、いつものことなのでスルーしつつ、別の話題をふる。


「はいはい、ところでお前は、あれだろ、あれ」


「どうした?まさか俺に茜が好きだって相談しに「ちがーう」」


「なんだよ~嘘つくなよ~本当はどうなんだよ~教えろよ~」


「あーもう!違うっての、え~っとサッカーだよサッカー!お前の!」


「話ごまかすなよ~どうなんだ~」


そのあとも裕也のあおりは続いた。俺の話は聞こいてないふりをしている。うざい。めっちゃうざい。話題を変えようとしても失敗したし。茜はなんか黙ってるし。この状態をどう打開すればいいんだ!


とか思ってたら茜が疑惑を否定して話をそらしてどうにかなった。


今度裕也の浮ついた話が出てきたら、めいっぱいからかってやろうと心に決めた。


そのまま三人で学校まで歩いて向かった。


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学校についたら俺たちと茜は分かれる。少し残念だがクラスが違うから仕方ない。


クラスに入ると和樹が近づいてきた。


「おはよう‼二人とも」


「おはよう‼」


「こん~」


「いや、そこはおはだろ‼」


「そういえば、そろそろ新作のゲーム機が出るんだってね」


「あれ買う?俺は高いし買わないかな」


「え、買わないの? でも和樹は買うだろ? お前の推しが出るやつがあるから」


「もちろん俺は買うぜ! 推しの出てるゲームのほかに、新作のゲームで一八禁ぎりぎりのやつがあるらしいからな」


「お前そうゆうのばっかりやってるから女子から引かれるんだぜ」


「いやいや、俺はモテモテだぜ!」


「女子以外からな」


「いやいや、女子にも人気だぜ!」


「まじで!」


「主に先生から赤い声援が」


「赤い声援…それ、単純に赤点で呼び出されてるんじゃ…」


「そうとも言う」


「ダメじゃん!」


なんて話していると教室に先生が入ってきた。どうやらもう時間らしい。


「はい、席着いて!」


それを聞いてみんな自分の席に戻っていく。


「え~今日は…」


と、面白くない話を先生がし始める。正直ねむい。


そのまま先生の話は寝てしまった。


あとで裕也に聞いたら、最近物騒だから気を付けてね~。ということらしい。これ前にも聞いた覚えがある。 


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キーンコーンカーンコーンと、大きな音でチャイムが鳴る。ようやく帰れる。

先生の話を終え生徒たちは思い思いの行動を始める。


みんな、部活に行ったりゲーセンに行ったりするらしいが、俺は部活に入っていないしゲーセンに行くようなパリピな人種ではないので帰る。


ここでため息をつくのは負けた気がするので我慢して、教科書をロッカーにしまい帰ろうとしたところで、裕也と和樹が話しかけてきた。


「俺らこれから和樹の家で遊ぶんだけど来る?」


と、裕也が誘ってきた。


「サッカーはどうしたんだ?」


「どうやらコーチが体調崩したみたいで休みになった」


「そうなの?ま、わかった。何時に行けばいい?」


「四時くらいに集合で」



「何持っていけばいい?」


「う~ん、多分ゲームかな~」


「あとはお菓子持って来いよ」


「うわ! おまえ気配消して近づいてくんなよ! びっくりするだろ!」


「いや~いい反応! まあとりあえずそのくらい」


「OK じゃあまた四時に」


またじゃれ始めた二人を放置しつつ、下駄箱へと向かった。


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下駄箱まで行くと茜が待っていた。茜は俺のことを見つけると、近寄ってきた。どうやら俺を待っていたようだ。いつものように少し話、一緒に帰る流れになり一緒に帰る。


いつもの交差点をいつものように茜と渡る。


周りには下校中の中学生やこれから遊びに行くであろう高校生、パンパンの袋を持った買い物帰りのおばちゃんたち。


いつもと変わらない帰り道。


すべてがいつも通り。すべてあの夢で見た光景と同じ。


頭にこの後の光景がこびりついている。本能が警鐘を鳴らす。交差点を渡ってはいけないと。



この交差点を渡ったら二人とも惹かれると。



俺はとっさに


「あそこのカフェによって行かない?」


と、柄ではないがカフェへ誘う。


幸い誘ったカフェは教室で女子が話していたおしゃれなカフェだった。


茜はこれに


「え、きゅうに?まあ、いいけど」


と、乗り気なようでそのままカフェに二人で向かった。


若干顔が赤かったのは気のせいだ。うん。


そのまま二人でカフェのある方向に歩き出した。


すると後ろから悲鳴が聞こえてきたと同時に猛スピードで車が交差点に近づいてきた。


全くスピードを緩めることなく交差点に進入し、ほかの車にぶつかり歩道に突っ込んでいった。


あたりは悲鳴と怒号に包まれる。


茜は事故が起こった方を見ているが無傷だ。


茜を救うことができて安心したのもつかの間、暴走していた車から男が下りてきた。


男の手には銃が握られており、銃を周りの人に乱射し始めた。俺は茜をの手を取り、急いでその場から離れようとした。


しかし手遅れだった。


茜は流れ弾に当たっていたらしい。おなかのあたりから血が出ている。


俺は泣きそうになりながらそれでも必死に物陰へ連れていく。茜はさらに数発くらっていた。どうやら俺のことを自分の身を挺して守ってくれたらしい。


茜は満身創痍の状態でこっちを見て、そして笑った。自分は傷だらけで今も辛そうなのに笑った。


それは俺が傷ついてないのを確認しての物だったのだろか俺のことを安心させるためだった能だろうかわからない。


しかし、その笑顔はこの世で最も美しく、そして儚いものだった。


茜が目をつぶると茜の全身から力が抜けた。


周りはうるさいはずなのに俺の耳には届かない。


俺は決意を決め物陰から飛び出し銃撃の主に向かって走り出す。


自分の運動神経だけで近づいていく。


あの男もバカではない俺に向けて集中的に銃を撃ってくる。


何発か当たったが気にせず走る。痛みは感じなかった。


思考がまとまらない。ただただこの男に復讐したいということだけはわかる。


なのに、あと少しなのに、足が止まる。


手を伸ばせば届く距離なのに手も上がらない。


体が悲鳴を上げている。もう限界みたいだ。


そこまできて初めて気が付いた。


俺はこの男に怒っているんではなく、茜を守れなかった俺に怒っていると。


「茜、ごめん」


意識はそこで途切れた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




何度も何度も何度も何度もこの世界は同じ結末を繰り返す。



何度世界が始まろうと結末はいつも茜だけが死ぬ。



君だけが、君だけが死ぬ。



いつもいつもいつもいつも、俺は何もしてあげられずに。



この手から零れ落ちていく。



何をしても、どこを変えても、何も変わらない。



ただ君が死ぬ。



僕の目の前で。



君をただ守りたかった。



でも、でもどうしてもできなかった。



そして君が死んでいく。



どうやってもこのループから抜け出せない。



未来に進むことができない。



ただ、過去を繰り返すだけ。



でも、俺はとっくに知っているはずだ。



この残酷なループから抜け出す方法を。



この地獄から抜け出す方法を。



自分をだますのはやめろ。



早く目を覚ますんだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



俺は自分の部屋のベッドで目を覚ました。


もう何度目かになるリアルな夢がまた脳内にこびりつく。


毎度ながら最悪な目覚めだ。大きなあくびをしながらベッドから降りる。


俺はいつものようにカレンダーをめくる。


「徹‼早く起きないと遅刻するよ‼」


と、一階から母の言葉が飛んでくる。


「すぐ行く‼」


という、返事を返しながら制服を手に持ち、一回のお風呂場へ向かう。


お風呂場へ向かう途中でいい匂いが漂ってきた。またカレーをだべるのか。


俺は急いでシャワーを浴び、制服に着替えた。そのままキッチンに朝ごはんを食べに行く。


「あんたの好きなチーズはここに置いとくからね」


そう言いながら、先に取り分けておいてくれた俺のカレーの隣にチーズを置いた。


テレビをつけてカレーにチーズを乗っける。


テレビでは交通事故やら逃走犯、政治家の汚職などのニュースが流れてくる。


もうほとんど暗記している内容を聞き流す。


食べ終わり、歯磨きをし、玄関で靴を履く。


「行ってきます‼」


返事を聞かずに玄関を出ていく。後ろから


「行ってらっしゃい」


と、母親の声がかすかに聞こえた。



家を出てすぐのところで


「おはよう」


と、茜がこちらに駆け寄ってきた。俺はいつものように


「おはよう」


と、返す。


世間話をしながら歩いていると、後ろから自転車に乗った裕也が声をかけってきた。


「お二人さんは今日もラブラブですね~」


スルーしつつ、別の話題をふる。


「はいはい、ところでお前そろそろ大会だろ」


「まあな、最近は忙しいけど今日は朝練が休みなんだよな」


そのまま茜と三人で話しながら学校に向かった。


学校についたら俺たちと茜は分かれる。


クラスに入ると和樹が近づいてきた。


「おはよう! 二人とも」


「おはよう!」


「こん~」


「いや、略すならおはだろ!」


「そういえば、そろそろ新作のゲーム機が出るんだってね」


「お前あれ買う?俺は高いし買わないかな」


「まじで! 和樹はだろ?」


「俺は買うぜ‼新作のゲームの中に一八禁ぎりぎりのやつがあるらしいからな」


「お前そうゆうのばっかりやってるから女子から引かれるんだぜ」


「いやいや、俺はモテモテだぜ!」


「女子以外からな」


「確かに男子からはモテモテだな!」


「いやいや、そんなことは… なくもないわ!」


「だろ!」


なんて話していると教室に先生が入ってきた。どうやらもう時間らしい。


「はい、席着いて‼」


それを聞いてみんな自分の席に戻っていく。


「え~今日は…」


と、面白くない話を先生がし始める。毎回聞かされる身にもなってくれ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


キーンコーンカーンコーンと、大きな音でチャイムが鳴る。


先生の話を終え生徒たちは思い思いの行動を始める。


俺は教科書をロッカーにしまい帰ろうとしたところで、裕也と和樹が話しかけてきた。


「俺らこれから和樹の家で遊ぶんだけど来る?」


と、裕也が誘ってきた。


「いくいく、何時に行けばいい?」


「四時くらいに集合で」


「了解、ゲームとお菓子持ってくわ」


「おう!じゃあまた四時に」


「また後で!」


そういって約束をし、下駄箱へと向かった。


下駄箱まで行くと茜が待っていた。茜は俺のことを見つけると、近寄ってきた。どうやら俺を待っていたようだ。いつものように少し話、一緒に帰る流れになり一緒に帰る。


いつもの交差点をいつものように茜と渡る。


周りには下校中の中学生やこれから遊びに行くであろう高校生、パンパンの袋を持った買い物帰りのおばちゃんたち。


いつもと変わらない帰り道。




そんないつもの風景が一瞬にして豹変した。




遠くから悲鳴が聞こえてきたと同時に猛スピードで車が近づいてきた。


その車は多くの人々が渡っている途中の交差点にスピードを緩めることなく進入しようとしていた。


俺はすぐさま茜を抱え歩道に走った。



あの時と全く同じように。



車はほかの車にぶつかり、俺たちがいる歩道に猛スピードで突進してきた。


俺はあの時のように茜をかばう、背中に走る痛みを感じながら意識を失った。


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目を覚ますと病院のベッドの上だった。


体を動かそうとしたがうまく動かない。どうやらすごい重症らしい。


仕方なく首だけ動かして周りを見る。


近くの棚にはお見舞いの品が所狭しと並んでいて、その中には千羽鶴まであった。


ベッドの縁で茜が寝ていた。


俺が茜に気付いたと同時に茜が目を覚ました。


茜は少し周りを見渡し、俺の顔を見て驚いた顔をした。


茜の目の下には隈があり、ずっと看病してくれていたことがわかる。


茜の目から涙が流れほほを伝う。


茜は泣きながら俺に抱き着いてきた。俺はそっと抱き返した。


この幸せがこの手から零れ落ちないように、二度と失わないように強く。




愛をこめて

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