桜の雨
@reina0325
第1章 あの日の記憶
あれは小学校の入学式の日、私は高熱で入学式を休んだ。自分の部屋の窓を開けて、入学式帰りの同い年の子たちを眺めていた。空は、青空だった。だけど、突然雲がピンク色になって、天気雨が降った。みんな傘を出して、小走りをして帰る。そんな中で、1人の女の子と目が合った。曇っていて少しもやがあったため、視界が悪く、その子の顔は見えなかったけれど、その子は傘をささず、私に手を振ったところだけは見えた。そして私もその子に手を振り返した。
「中野さーん、体調大丈夫ですかー?」
あれ、保健室? もしかして私寝てたの?
「はい。大丈夫です。」
「良かった。さっき親御さんに電話したんだけど、連絡つかなかったから1人で帰れる?」
「は、はい。」
状況がいまいち分からない。さっきのは夢だったのか。横の椅子には私のリュックがおいてあったので、とりあえずそこからスマホを取り出す。すると菜緒と陽大からの通知が大量に来ていた。メッセージの内容を見てみると、どうやら私は体育館で行っている始業式で、校長先生の話をしている最中に倒れたらしいのだ。倒れた記憶が全くなかったのが自分でも恐ろしい。
「じゃあ中野さん、身体お大事にね。」
「はーい。失礼しましたー。」
保健室を出て、渡り廊下をいつもよりゆっくりと歩く。始業式の様子がちょっとだけ気になったので、渡り廊下から少し背伸びをして体育館をのぞいてみると、まだ校長先生の話が続いていた。多分、1時間以上は話している。みんなより早く帰れてラッキー、と思いながら私は少しスキップをしながら校舎を出た。
「よ、春歌。体調大丈夫か?」
校舎を出たすぐのベンチに、陽大が寝っ転がっていた。
「陽大?体調はもう大丈夫だし、私の体調心配してくれるのはありがたいけど、あんた始業式サボって何してんの。」
「トイレ行くって言って校長の話から抜け出してきた。」
彼はにやっといたずらな顔で答えた。
「もう、陽大は相変わらずだなあ。」
「お前もな。行事がある日に熱出したりぶっ倒れたりするところ。」
「あはは。そうだね、あ、私帰んなきゃ、保健室の先生に早く帰れって言われたし。」
「おう、お大事に。」
校舎から校門までを繋ぐ約50メートル続く桜並木の下、私は1人帰っていた。春風がほんの少し吹いていて、桜の花びらが空を舞っている。それはあまりにも綺麗で、私は思わず見とれてしまった。その瞬間、私の制服の袖に桜の花びらが1枚ついてしまった。すると、あの時のことをふわっと思い出した。
「小学1年生の時だっけな。」
陽大は私の初恋の人だ。いや、初恋の人だった。小学1年生の時に、私は高熱を出してみんなより遅れて小学校に初登校したのだった。仲の良い保育園の時の友達も離れ離れの小学校になってしまって、私はとても孤独だった。そんな中、桜並木を歩いていたら、自分が着ていた服に桜の花びらがついてしまった。それを振り落とそうとしたとき、後ろから、腕をそっと触って桜の花びらを持って、
「中野春歌。」
そう名前を呼んできた子は見たこともない同い年の男の子だった。
「体調大丈夫?」
「なんでそれを…。」
「なんとなく。」
「…あなた誰なの?」
私が不思議そうに聞くと、その子は笑顔でこう言った。
「僕は、田中陽大。」
それが私と陽大の出会いだった。陽大は桜の花びらをとってふっと空に向かって息を吹きかけて、走って学校に向かっていった。そして私が教室に入ると、私と陽大は席が隣だった。後の話によると、入学式の時、陽大の隣の席が欠席なことに気づいて、それが誰なのか気になって、担任の先生に私の名前を聞いたらしい。体調が悪いことは先生には聞いていないのに、「なんとなく」で分かって、心配してくれたのだ。名前を一言言われて体調を心配されただけなのに、私はなぜか陽大に惹かれて、好きになっていた。
その後菜緒と出会い、小学1年生の時から今まで3人で過ごしてきて、陽大を恋愛対象としてじゃなく、友達としている方が楽かもしれないと、年齢を重ねるたびに思えてきた。だから私はもう、陽大のことは好きではない。
「高校2年生でも3人で仲良くやれたらいいな。うわ!」
突然、ガンッと鉄のような重い何かにぶつかった。校門が閉じてある。なんでだ?考えてみれば、まだ始業式中だから校門を開けるはずがない。思いっきりぶつかったせいで体全体が痛い。私は思わず深いため息をついてしまった。
「私ってとことん運悪いな。」
考えてみれば小学校の入学式は高熱で休んだし、今日だって、せっかく今日から高校2年生で新しいクラスも発表され、新生活スタートだったのに体育館でぶっ倒れ、帰り道には校門にぶつかった。運なさすぎ、というよりむしろ情けなくなってくる。でも、今年も小学生からの幼馴染、南菜緒と田中陽大とまたクラスが一緒になれたのは、自分にしては運が良いなとちょっぴり誇らしげに思えた。
すると突然、ぽつりと雨粒が落ちてきた。空は青空なのに。とりあえずおりたたみ傘を出そうとリュックをあさってみると、どこにも入っていなかった。はぁ、やっぱり私は運が悪い。空は晴れているから天気雨かな?と不思議に思っていたら、今度は突然、自分の視界にピンク色の雨粒が映った。奇妙に思った私は、ふと空を見上げてみた。私はこの光景に唖然とした。雨が降っていることも気にせずに。その光景とは、ピンク色の空となっているとても幻想的なものだった。ピンク色というよりかは桜色のように淡く、まるでたくさんの桜の花びらが空を舞っているようだった。でも、その景色はなぜか懐かしく感じた。
「痛っ。」
幻想的な空に見とれていた時、私の右目に、雨粒が入ってしまった。
ちょっとだけ染みたけど、別になんとも思わなかった。その瞬間に、私は空に見とれて少し気がぼうっとしていた感覚からはっと目が覚めて、少しだけ目をこすった。そして、雨がひどくならないうちにかけ足で家に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます