はい! 『はるか』です! 新米臨床検査技師の奮闘記

コンロード

第1章『解剖実習』

第1話 病理解剖

 私が、だ臨床検査技師の専門学校生だった頃『病院実習(臨地実習)』に行った。


 臨床検査技師の養成カリキュラムでは、3年間の校内学習、そのかんに、当時9週間(法律改定後は12週間)の病院実習が必須となっている。



 ……学校でも『実習』があるが、これは学生同士が尿や血液を採取し合って検査を学ぶので、採血に失敗して腕が青くなろうが、検査の手順を間違えて結果が出なかろうが『ごめんなさい』で済む……が『病院実習』となると話が違う。



 何せ、相手は『本当の患者様』だ。 怒らせでもしようものなら、それこそ責任問題になる。



 更に実習科目には『解剖実習』がある。


 学校では『マウス』や『モルモット』の解剖だが、病院実習では、当然『人体』の解剖の実習を行う。 



 解剖の種類は『病理解剖』と『法医解剖』があり、臨床検査技師が行えるのは、これら『解剖を行う執刀医』の『補助行為』だ。


 『法医解剖』は変死されたかたの解剖を行い、死因を究明するもので、亡くなられた状況にもよるが、司法からの要請があれば原則として、拒否出来ない。


 一方、『病理解剖』は、亡くなられた患者様の『死因』や『治療効果』を調べるのに必要な行為であるが、『ご遺族の承諾』が無いと違法になる。



 『人体解剖の見学』は、その日に亡くなられた患者様で行う上に、ご遺族の『剖検許可』が必要となるので予定する事が出来ない。 ある日突然、先輩に告げられ、そのまま、見学実習……をおこなう事となる。




 その日、病院実習を行っていた私と、同じ班の『川崎』君……


(実は、もうひとり、同じ班のメンバーがいたのですが……この件は、前作『臨床検査技師の「はるか」です。』の『第9章 心室頻拍ショートラン』に詳しい記載があります)


 ……は、唐突に『これから病理解剖がある』と伝えられ、地階にある『解剖室』でご遺体の到着を待つ事になった。 



 ……正直に打ち明けると、資格を取得する為……とは言え、出来れば立ち合いたくは無かった。 教科書ですら、本当は見たく無い程なのに……。



 解剖室は、想像していたより設備が少なかった。


 洗面台と大きなステンレス製の台……後はキッチンはかりと、少しの手術器具……くらいのものだった。


 ……考えてみれば当たり前だ。 ……『解剖』される患者様は、既に『亡くなって』いる。 ……執刀者の衛生的な問題を考慮しなければ、消毒の必要すら無いし、酸素吸入や生体バイタルモニターも要らない……。




 無言で、そんな事を考えていたら、ドアがノックされた。


 私と川崎君が直立し、返事をすると、先輩の技師さんが入室し……


 「……娘さんが泣き付いて離れなくて、大分だいぶ遅れそうだけど、もう少し待ってね。」 ……と、一言ひとこと言って戻って行った……。





 解剖予定の患者様は『くも膜下出血』で救急搬送され、奥様と中学生の娘さんがいらしたそうだ。


 ……今朝、いつも通リに出社され、お仕事中に急に症状が現れ……そのまま……だったらしい……。




 今朝、私はいつも通リ母と共に、父と兄に手を振って送り出してから家を出た。


 もし、私が同じ立場……父か兄に『もしも』の事があったら……恐らく冷静では居られないだろう。


 ……加えて『これから解剖する』……と言われて、すぐに納得できる訳が無い!



 ……そう思うと……胸が痛かった……。

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