第36話 ダルケン王都の救済
私たちは何日もかかりながらも、補助魔法で速度を上げた馬たちのおかげで、通常より早くにダルケン王国の王都についた。
馬車につけた偽装の紋章はダルケン王国に伝えられており、必要最低限のものには伝えられているらしい。私たちの馬車は、検閲などで無駄な時間を要することもなく、スムーズに王都入りを果たすことができた。
やはり私は、外を見てみたくなって、馬車の小窓を少し開けて、街の風景を眺める。
赤いレンガ色の屋根が印象的なユーストリアの王都とは趣が違い、ダルケンでは白塗りの建物が並んでいる。
王都の中央には運河が流れていて、その側に王城や教会といった主要な建物が建っていた。
馬車が運河に掛かった橋を渡ると、広大な敷地を持つ王城が目の前に姿を現した。
その途中、私が断罪された広場を通り過ぎる。
……やはり、怖い。
私は小さく身を震わせた。
この国は、かつて私を断罪した国。もちろん、今の生ではまだだけれど。
……でも、今回のカインに会ってみたい。
彼は、手紙のやりとりしかしていないけれど、今までとは全く違う顔を見せていた。そして、私に対して、とても友好的だ。
かつて、彼とこんな関係を築けたことはない。
……そして、今度の生では、私自身の利害に関係なく、貴賤に関係なく、苦しむ人々に手を差し伸べたい。私は、その力を得たのだから。
城の玄関前にある馬車の降車場に到着した。
外から騎士の手によってドアが開けられ、マリアが先に降りる。そして、彼女の手に支えてもらいながら、私はダルケン王国の大地に降り立った。
「ミレニア姫! ダルケンの民のために、遠路はるばる、わざわざお越しいただいて感激の極みです!」
ずらりと並んだ人々の中央にいたのは、まさかの国王陛下だった。もちろん、周囲を警備兵が護衛しているけれど。
ダルケン王国の侍従長だと言う男が、私にそっと耳打ちをして、彼が国王陛下だと教えてくれた。
けれどその必要は私にはなかった。私は過去の記憶で彼の顔を知っていた。
「陛下。この苦難は国だけに留まる問題ではありません。両国でともに手を取るのは当然のこと。……そして、領都や街での宿の手配など、ご配慮ありがとうございました。おかげで、誰を欠くこともなく、無事にこの地に辿り着くことができました」
私の言葉を聞いて国王陛下が満足そうに頷いた。
そして陛下が、隣に立っている一人の少年の背を押した。
カインだ。
「ミレニア姫。やっとお会いできました」
そう言って、笑顔を見せた、王太子カイン。
……彼が、こんな表情で、こんな対応を。今までしてくてくれたことがあったかしら?
そこにいたのは、赤く燃えるような髪と瞳を持った残忍な国王(現王太子)ではなく、赤い髪と瞳が情熱的で、チラリと覗く白い歯が爽やかな少年だった。
「カイン殿下。お初にお目にかかります。いつもお手紙ありがとうございます」
そう答えると、なぜかカインは眉尻を下げて、少し残念そうな顔を一瞬見せた。
挨拶を終えると、ダルケン王国の宰相が、私に声をかけてきた。
「姫。王家の馬車とはいえ、ただでさえ車輪の衝撃を体に受けて疲れるもの。そして馬にも急がせております。……お疲れでしょう。姫や皆様のために部屋も用意してあります。今日はゆっくりしていただいて、明日以降にでも……」
「ご配慮ありがとうございます。でも、私の疲れと魔力は関連しません」
私はゆっくりと首を横に振った。
「……民は病に苦しんでいます。そして、中には今この時を境としているものもいるかもしれません」
私は、そこで区切って視線を国王陛下に移動させる。
「陛下。いますぐにでも、この王都に治癒魔法を施すことをお許しいただきたいのです」
「……ミレニア姫」
「ミレニア姫! やはり君は心優しい少女だ……!」
国王陛下が、驚きと感嘆に目を大きく見開いた。
そして彼の横にいるカインが、なぜか私を「心優しい」などと言っている。
……私は、手紙のやりとりの他に、接点はなかったはずなのだけれど?
そこまで言われるほど、私は彼に優しくしたことがあっただろうか?
私は首を傾げてしまう。
そうしていると、私たちの間のやりとりに間に入るように、国王陛下が口を挟んできた。それは、さっきの私の問いに対する答えだ。
「ミレニア姫。もしお体にお障りがないのでしたら、ぜひ、すぐにでも民をお救いいただきたい……!」
陛下の言葉を受け、その側に佇む宰相にも目をやると、彼も静かに頷いた。
「では……」
私はすうっと大きく息を吸う。
「
王都に災いをもたらすものを消す。
「
そして、その災いによって体を蝕まれた人々に癒しを……!
私の願いによって体から溢れ出た魔力は、私の足元で光り輝く二つの魔法陣を展開し、そこを中心に広がって、金色の光が王都を覆っていく。
「光が……癒しの力が王都に広がっていく!」
そんな中、一人の男性が私たちのもとへ走ってきた。
「陛下! 介護施設で看護していた病人たちが、皆、治っています!」
彼は、息を切らしながらも、陛下に報告する。
「奇跡だ!」
「ユーストリアの聖女、いや、この大陸を救う聖女だ!」
災いに頭を悩ませてきた、陛下、宰相がその光景に目を見張る。そして、侍従長をはじめとした役人や使用人たちが、祈るように私の前に傅き出す。
「……手紙では知らされていたけれど、すごい……!」
カインも、驚きを隠せないようだった。
私の力は王都の民を癒していった。
そして、その癒しは、長旅を続けていた私たちの疲れも取り除いてくれたのだった。
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