第5話 子どもたちに自分の思いを伝えること
担任であろうと、教科を受け持つ教師であろうと、子どもと出会ってからのひと月、あるいは1学期というのは苦労の連続です。それは、教師の思いを子どもが理解していかなければならない期間だからです。逆に、子どもの思いを聞くことによって、教師が子どもたちを理解していく期間だとも言えるでしょう。信頼関係を築くための時間であり、教師としての踏ん張りどころともいえる時間でもあります。
このような出会いのころの苦労を、軽く考えるべきではありません。授業をするのは大事ですが、それ以上に信頼関係を築くための努力をしていくことが、後々のクラス運営に大きな影響を与えるからです。
さて、なぜそのような苦労を伴うかと言いますと、大人の世界では相手の個性や願いなどを理解する間もなく、折り合いをつけて仕事なり生活なりを送っていけるかもしれませんが、それを子どもに当てはめることには無理があるからです。
子どもたちは、大人の気持ちを察する力が十分ではありませんし、大人の気持ちを汲み取って行動する必要もないからです。
手始めとして、教師が話すときには、「次はこうします」という指示を出すだけではなく、「こうしてほしい」という気持ちと、その理由を語っていくことから始めてみましょう。
例えば、「今日の4時間目には体育があるので、中休みに着替えておきましょう。休み時間が短くなるという不満があるかもしれませんが、3時間目が終わってからでは着替えが間に合いません。誰かが着替え忘れてしまうと、体育をする時間そのものが短くなってしまうし、給食の準備にまで影響が出てしまうので協力してくださいね」といったように話します。朝の会などのスケジュールを説明する時間には、こういった丁寧な話し方をぜひ心がけてみてください。
「いちいち長い説明が必要なのだろうか?」、「忙しくてそんな暇はないのに…」と思われるかもしれませんが、それも最初の一週間を乗り切れば、子どもは教師の意図を汲み始めます。「この先生は、自分たちのことを考えて言ってくれているんだな」という気持ちが子どもに芽生えてくれば、率先して協力してくれるようになります。説明を通して教師の声にも慣れ、指示が通りやすくなるのです。
それから、自分をさらけ出して、弱みを見せるような話もしていきましょう。子どもが、「この大人は信用できる」と感じるのは、常に正しいことを言わなければならないと背伸びをする、聖人君子のような存在にではありません。誠実で取り繕うこともなく、失敗の中から学ぼうとしてきた人物に惹かれるからです。
また、ユーモアがあることも大切です。自分の失敗を笑い飛ばせるような豪快さや、辛い気持ちを楽しい話に作り替えることができるおおらかさも魅力となります。それは、大人同士であっても同じではないでしょうか。
気をつけてほしいのは、子どもは匂いを嗅ぎ分けるように、自分が信頼できる相手を見極めるという点です。表面だけを誤魔化そうとしても、子どもには通じません。
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