第六話

 二人の女子と一人の音が客観的に眺め――

 どちらとも、


((やっぱり、只者ただものじゃない。この――男))

(やはり、只者じゃーぁーないなぁー。この――――女の子たち)


 と、高速で脳裏をよぎるのだった。


「お嬢さま方。これで、オレ――ボクが、敵で、ないと。信じていただけますか?」


 風にかき消されそうな小声でつぶやく。


「勘違いは困ります。一時休戦と一時共闘をしただけです」


 散弾銃ショットガンのフォアエンドを後ろへスライドさせ排莢し次弾を装填させながら、金髪ボーイシュ美少女は言い放つ。


「そうだぁー! そうだぁー!」


 漆黒ロングエルフ美少女が子供っぽい物言いをしながら、二つに分離した化合弓コンポジット・ボウの先端の薄っすらと輪郭が見える刃を打ち鳴らしながら、言葉の援護射撃。


 …………、…………。


「異世界から来ました、槃瓠ばんこ 八房やつふさです。人畜無害な会社の平社員いぬです」

「「…………、…………」」


 二人の少女は、八房のへんてこりんな挨拶に反論しなかった。ナニか、可哀想な気がしたのだ。この正体不明な男に――ある種の同情。

 急に姿を表した正体、謎に包まれた男。

 高身長であり中性的な甘いマスクに、小綺麗な身なりでありながら。そうとう過酷な訓練で身体に染み込んだ無駄のない動きに、その無駄のない動きをすることができる鍛え抜かれた肉体。

 このチャラチャラした男だが、恐ろしいポテンシャルは証明していた。八房の周辺には自分たち二人が倒したモンスター、"グレムリン"たちの死体が倍近く無残に転がっていたからだった。

 反論しなかったのは、自分たちよりも剛の者であり油断大敵。な、

 一方、で。

 ぼやっとだが女の第六感が囁いたていた。

 闘う者として過小評価は、もってのほか。だが、フィーリングで社会的に地位が低く、たぶん、女で苦労している。と、見抜いたのであった。



「わかりました。一応、人畜無害と認知します」


 言葉と裏腹に、つゆも、ショットガンの安全器セイフティがロックされてることはなかった。


「じんちくむがい、ジンチクムガイ、人畜無害」


 実に不気味な声質で音声データが破損し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、一部だけが再生されてる。ホラー映画などで恐怖心を刺激する演出効果に使わえる手法の一つであるが。これは生々しいがフィクションではなく、アクチュアリティー。

 ”じんちくむがい”とリピートしており何を考えているのか? とらえどころのない瞳の輝きの乏しいさ。二つに分離可能な特注品のコンポジット・ボウ先端に埋め込まれた結晶クリスタルから薄っすらと輪郭が見えていた刃は、モンスターの血液でより鮮明に刃の輪郭が形成されていたのであった。

 簡単に判るほどに、まだ――危険。


 じっと、二人の美少女を注視し、八房は一瞬だけ顔を歪めるが。すぐさま営業スマイルするなり。


「お尋ねしても」

「なんですか?」「なんなのだーぁー!」


 用心金トリガーガードに右人差し指をピタッと重ね合わせ、素っ気ない態度が声のトーンとしてモロに出ていた。これなら自分のズボンの右側の後ろポケットにある、モバイル向けオペレーティングシステムを備えた携帯電話ことスマートフォンことスマフォに搭載されている。バーチャルアシスタントが、とても素晴らしい親切設計されていることが、今になって、よく理解できたのであった。

 この二人よりもバーチャルアシスタント方が、断然コミュニケーション能力が高い、と。


 人畜無害の意味を頭のなかの辞書から引く。

 人や動物に対して害がない。または、他にナニかしらの影響も及ぼさない、平凡でとりえのない人のこと。だけど多く場合――皮肉や侮蔑の意が込められた、皮肉。

 八房は害がないという意味で、使ったが。二人は皮肉や侮蔑の意で、引用している。


(うわぁー。この二人の態度、勘付かれてしまっているな。姉さんこと玉梓たまづさ、逆らえない惨めな社畜、弟、八房くんであることを)


 息を吐き、新鮮な空気を吸い込み、再トライ。


「ぁー、黒髪のお嬢さま。ショットガン、セイフティロックしていただけません、か?」

「…………、…………」


 無言でショットガンの銃床ストックを肩にさり気なく、押し当てる。


(よし、黒髪のお嬢さまは、ダメだ。つぎ、次)


「ぇー、金髪のお嬢さま。その特注コンポジット・ボウの先から出てる刃を収めていただけません、か?」

「…………」


 無言で両手に持っている分離したコンポジット・ボウの刃先から滴っている血を見せつけるようにあえて体の前方で一度交差されると、勢いよく広げる。モンスターたちから流れ出た大量の血液が酸化し黒くなっている地面キャンパスに、ベチャベチャと真っ赤な鮮血でドットを描いた。


(ぅん、そぅだよね。黒髪のお嬢さまが、No拒否で、金髪のお嬢さまが、Yes肯定するわけないよね)


「あなたこそ、その特徴的な剣をしまいなさい。ついでに、その左手の変形している爪、も」

「人に言う前に、お前こそ。先に臨戦態勢を解除してから言えよ、クソ野郎!」

「……………………」


 彼女たち二人が八房の願いを叶えることをしなかったのは。

 右手に村雨丸を抜き身で持った状態。さらに、左手の五本の爪先は短いが鋭利な形状になっていたからであった。

 ようは、

 八房は信頼していなかった。ドンパチ金髪ボーイシュ貧乳美少女と口悪黒髪美少女エルフのことを。

 そして、

 逆も真なり。


「「「…………、…………、…………」」」


 三人の答えは、一つ――状況次第で殺り合う、と。

 そんなことを考えている三人の上空からヒューと悪寒の走る音が聞こえてきた。三人は同時に頭上を見上げ。


「げぇ!」「あの妖精!」「み、ミサイル!?」


 ――――ズドン!!

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神神の微笑。異世界散歩 八五三(はちごさん) @futatsume358

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