愛を壊す鋏

岡山ユカ

第1話

「…ん…ここ…どこ?」

「きた、きてくれた」

 僕はどこかも分からない場所にいる。隣には知らない女の子が笑顔でいる。知らない女の子にいきなり笑顔を向けられるのは少し怖い。

「えっと…君は?」

「私? 鋏くん、私、知りたい?」

 なんだか変な口調の子。でもだいぶ幼そうな女の子。…女の子がなぜ夜に外に出ているんだろう?両親が心配すると思う。

「鋏くんって…あ」

 ポケットに手を突っ込んでみると赤い断ち切りバサミがあった。…鋏を持っている僕も他の人からかなり恐怖される存在。そもそもいつから鋏を持っていたのかわからないんだけど。でもこの女の子は僕が鋏を持っている不思議な人だから「鋏くん」と勝手に言ったのかな?鋏くんというあだ名は恐怖しか感じないけどね…。

「…一応神場(じんば)という名前があるんだけど…」

「鋏くん、ここにいる、とても嬉しい!」

 …話を聞いていないみたい。幼さもあるだろうし、多少は目を瞑るとしよう。泣いたら僕が泣かしたと言われるだろうから。子供が泣いた瞬間にかなり気まずくなるときがあるでしょ? あれと同じ。会話のキャッチボールだけは成り立っていてほしいけどね。

「とりあえず君…もう夜遅いよ? 帰らないと両親が心配するんじゃない?」

「私、帰る場所、ない」

家出なのかな? 今の時代に家出する子がいたんだ…

「家出?」

「ううん、帰り道、ない、帰る場所、も、ない」

 それは帰り道がないという意味?それとも…分からないと意味なの?どっちかはわからないけど…あたりは…かなり真夜中だ、10時回っているかもしれないなぁ。かなり暗くて途中で迷いそう……。

「でも村に帰らないといけないよね…ここがどこかわからないけど」

「帰れない、ここ、暗い。遭難、する」

「でも帰らないというわけにもいかないよ」

「だめ、ここ、いて」

 「帰らないで」と強く言われているような気がする。圧力というか威圧というか…。でも僕にも家族がいるから…早く帰らないと。神社の階段を下れば村まで行く道があるから、道沿いに行けば帰れる…と思いたい。

・・・

「あれ?」

 道がない。まるで僕を閉じ込めているみたいに、木々が鬱蒼としている。風も感じないし、とても不気味で足がすくんでしまう。…道がない状態で村に帰るわけにも行かないからあの子がいる場所まで戻ろう。

・・・

「帰れない」

「うん。道がなくて帰れなかったよ」

 この子は道がないということを分かって「帰れない」と言ったのかな?それとも他の理由があったとか?…とりあえず夜の森は危険だ、方向感覚が鈍ってしまう。つまり夜の森は迷いやすいと両親から聞かされてきた。朝が来るまでここ…神社にいるとしよう。この子と一緒に。

「そういえば君の名前は?」

「名前? 私、出雲(いずも)」

「出雲ちゃんか。いい名前だね」

 よくある名前だ、僕は結構珍しい名前だけど。

「そういえば君、どうしてここにいるの?」

 家出した子だと思うが間違っては恥ずかしいので一応本人に聞いてみる。なんでここにいるのか、その理由を。

「ここ、家」

「…え?」

 ここに住んでいるんだって?それじゃあ家出ではないんだけど…別の問題が発生した。こんな幼い少女が神社に一人で住んでいるということ?いや両親がいる可能性もあるけども…。

「それじゃあ両親は? いないの?」

「いない。元から、いない」

 …元から? それって最初から両親なんていないという意味合いになるけど…。両親がいない?そんなことってあり得るの?だって自分が生まれるのには両親が必要、それがいないときた。それならどうして彼女がここにいるんだ?

 そう…脳内が疑問で埋め尽くされた時、彼女が僕に突然、こう言った

「…ここ、探索して。私、許可する」

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