第25話:クッキー屋の社長、海外進出成功で融資に悩む

 海外進出は思ったよりも難しくなかった。

 というのも、江里花がコネクションを持っていたからだ。


「海外のデパートとも仕事する機会が多いのよね」

「すごいだろ。オレの嫁」


 なぜ山尾先生がドヤる。


「先生もすごいですね。国際弁護士資格も持ってたなんて知らなかったです」


 海外事業関係は別の弁護士を雇おうと思っていたが、まさか山尾先生一人で対応できるとは。インテリヤクザすぎる。


「江里花の仕事で必要だからな」


 あー、はいはいはい。

 ごちそうさまです。


「でも、どうやって海外から依頼がきたんだ?SNSとかやってないだろ?」

「苺ちゃんが私を紹介してくれたの」

「あいつが?!」


 えっ、なんで江里花は連絡が取れるんだ?

 オレは連絡先すら知らないのに。

 友達だから?

 いや、そんな奴じゃない。


「ちょっと待て、えっ、お前、あいつとまだ交流あるの?」

「オレの嫁をお前呼ばわりすんじゃねぇ」


 グァッ!!いってぇ!!

 マジ殴りしやがったな!


 ほんともう暴行罪で訴えたいけど、今はそれどころじゃない。


「あっちゃいけない?」

「いやいいけど、いやそうじゃなくて、なんで?」


 オレがどれだけの大金積んで、あいつを探したと思ってる。

 プロでも居場所どころか、連絡先の一つも探せなかったんだぞ。


「なんでって、異母姉妹だから」

「……はっ?」

「おいおい、いいのか?言うなって言われてただろ?」

「うーん、隠しておくのも疲れちゃった」

 

 オレの娘じゃないことは探している途中で分かった。

 というより、その程度しか分からなかった。


「教えてほしい。あいつは、どうしてオレのところに来た?今どこにいる?元気なのか?どうしていなくなったんだ?」


 知りたいことも、答えてほしいことも山ほどある。


 だけど、江里花は教えてくれなかった。


「やるべきことが終わったら、どこにいるか教えます。それ以外は苺ちゃんに聞いてね」


 立ち去る背中を追いたかったが、インテリヤクザに睨まれて諦めた。

 

 江里花は、一度口にしたことを破らない。

 追求したところで時間のムダだ。

 

 今は仕事に集中しよう。

 このままだと、あいつに笑われる。



 すべての時間を仕事に全振りし、とにかく海外へ飛びまくり、富裕層が多い国の高級スーパーやデパートと契約を取りまくった。


 すでに海外で流通している日本の菓子メーカーと差別化するために、“ichigo”のクッキー缶は贈答用の高級菓子として売り出すことにした。


 その目論みは大当たり。


 クッキー缶は海外でもまだ珍しく、その希少性と日本的な可愛さがセレブたちに大ウケした。

 

 おかげで広告宣伝費を使うことなく、ブランド名は瞬く間に全世界中へと広がった。


 その結果、やっぱり融資が必要になった。


「でももう銀行は頼らない!出資者を探します!」

「当てはあんのか?」

「ありません!」

 

 山尾先生に頭を叩かれる。痛い。


「空木家が出資してくれません?」

「バカか。桁がデカすぎるわ」

「ほんの少し土地売れば、10億ぐらいすぐでしょ」


 オレは知ってる。

 空木家には数百億の土地という資産があることを。


「お前なぁ、五代目に同じこと言えるかぁ?」

「死んでも言えません!」

「じゃあ江里花にも言うんじゃねぇ!」


 言ってない。まだ言ってない。

 半分冗談なのに、本気で殴らなくてもいいじゃねぇか。


「それなら代わりの人紹介してくださいよぉ」


 この人なら絶対知ってる。絶対コネ持ってる。

 殴られ代として紹介してくれ。


「分かった、いいだろう。紹介してやる」


 教えてもらった資産家は、とんでもない大金持ちだった。


 名前は、日向ひなた 彰人あきと

 年商数百億の上場企業を突然売却し、それが原因で一流モデルの妻と離婚。


 一時その話題でメディアを騒がせた人だ。

 まだ記憶に新しい出来事だから覚えてる。


 たしか会社の売却益は数千億で、離婚の慰謝料は数十億って報道されてたな。


「日向さんとお知り合いなんですか?」

「空木家と古い付き合いがあんだよ」


 日向家は毎月数百億の地代と家賃代が入ってくる大地主だそう。


 うーん、桁違いの金持ちすぎる。


「今は田舎でソーセージ屋をやってるらしい」

「……それは、金があまってしょうがないでしょうね」


 数千億は超えてそうな資産を持つ大金持ちが田舎暮らしって。

 人間は使いきれない金を持つと、その反動で質素倹約になるんだろうか。


「アポイントは取れる。だが出資してくれるかは知らん。びた一文金を出さないって有名だからな」

「まさかのドケチ?!スーパーセレブが?!」

「違う!一流の経営者すぎて、誰も彼を納得させられないんだ!」


 マジかよ。

 そんなの銀行から融資してもらうより難しいじゃん。


 あー!どうしよう!!

 でも日向さんしかいないっぽいし。


 当たって砕けるしか道はない!


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