欠けた世界の片隅で、俺はまた君の隣で
神凪
エピローグ
「お姉ちゃん、ありがとー!」
「ええ。でも、もう無くしちゃ駄目よ?」
「はーい!」
「……あいつ、また……はぁ……」
小さい女の子に風船を手渡している幼馴染みの姿を見て、思わずため息を漏らしてしまう。
女の子に手を振っている彼女は、俺の幼馴染みの
くるりと振り返った雫は、俺がいるのを見て少しだけ笑った。
「あら、いたの。
「嘘つけ、気づいてただろ。そんなことより、また能力を使ったのか?」
「……眠たいし吐き気するから、おぶってくれる?」
「使ったんだな」
雫を背中に乗せながら、再びため息。
桜庭雫はある能力を使うことができる。それは、自身の寿命――雫本人が言うには大切なものらしい――と引き換えにして、他者の願いを叶えることができるというものだ。
そんな雫自身にはなんの利益もない能力を、躊躇いなく使ってしまう。その反動は、目に見えて酷くなっていた。
初めて使ったのは、友達が泣いていたときだったはずだ。その頃から俺と雫はずっと一緒で、だからよく覚えている。そのときはこんな風に体調を崩したりはしなかった。
「もう、それを使うのやめろ」
「嫌。せっかくあるなら使わないと損でしょう?」
「そんな力でお前が死んだら、俺は……!」
「聡介は、悲しんでくれる?」
「……当たり前だ」
「そう」
口にはあまり出さないが、首に回す腕が少しだけ力んでいる。この言葉が嬉しかったらしい。
「嬉しいなら、生きてくれ。その力を使わないでくれ」
「昔からいつも言っているはず。聡介の願いを叶えたら、使わない」
「だから俺も言ってるだろ。俺の願いは、雫が能力を使わないことだ」
「それは無理」
きっぱりと言い張った雫は、不機嫌そうに俺の髪の毛を弄ぶ。が、不満はいつの間にかどこかへ行ったようで、俺の短い髪で三つ編みを作ろうとする。少し痛い。
「願い、か」
それで思い浮かぶのは、雫のことばかりだ。どれだけ自分が雫のことが好きかというのが思い知らされてしまう。
そこで、気づいた。
「なあ、雫」
「なに?」
「俺の願いを叶えたら、もう能力は使わないんだな?」
「ようやく、願いは見つかった?」
「ああ」
最初からそうしていればよかったんだ。頭の回転が遅いのが嫌になる。
「俺の願いはこうだ。桜庭雫が失った物を取り戻させてくれ」
「……やっぱり、私のこと」
「聞いてもらうぞ」
「それはなにを代償にするかわからないけど、それでもいいの?」
「雫がこれ以上失いたくないものがあるならやらなくていい」
「……それもそうね」
綺麗事を置いておくとして、心の底から命より大切なものなんてないだろう。
「わかった。じゃあ、これが最後ね」
「ああ」
そう言った瞬間、ほんの少しだけ背中の雫が軽く感じた。
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